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プリキュアを歴史上の人物に当てはめてみると?

はじめに 夢原のぞみのモデルは劉邦らしい?

『ニコニコ大百科』の「夢原のぞみ」の項目に、興味深い記述がある。引用元が記されていないのだが、プリキュアシリーズの初代プロデューサーだった鷲尾天氏によると、夢原のぞみのモデルは劉邦らしい(ただし、司馬遼太郎氏の小説『項羽と劉邦』に登場する劉邦のイメージだという)。

夢原のぞみが主人公を務めた『Yes!プリキュア5』以降、プリキュアシリーズは3人以上で構成されるチーム制に移行し、初代以来のバディ制の要素も残しつつも『美少女戦士セーラームーン』以来の少女戦隊ものの王道にシフトしていく。そうすると、当然、チームリーダーである主人公にはチームを統括する「リーダーの素質」が必要となる。
夢原のぞみ=劉邦という構想を知ってから、私は歴代プリキュアのリーダーが歴史上のどの人物に当てはまるかが気になってきた。そこで、今回は一部のプリキュアについて、歴史上のどの人物に当てはまるか、連想ゲームの感覚で試みようと思う。

1 プリ5のメンバーは誰に当たる?

1-1 夢原のぞみ=劉邦の妥当性

まず、夢原のぞみ=劉邦の図式が妥当かどうか検討してみる。鷲尾氏がそう言っておられるのだから問題ないとは思うが、念のためである。
夢原のぞみの人物像を考えると、まず、のぞみが歴代主人公と比較してもとりわけ「取り柄がない」キャラクターであることが挙げられる。先に挙げた『ニコニコ大百科』の「夢原のぞみ」の項目では「運動も勉強も苦手であり、そういったステータスのためか夢を見つけることが出来ていなかった」「致命的な天然バカっ娘」と記述されており、『ピクシブ百科事典』の「夢原のぞみ」の項目では「大変ドジっ子で勉強も運動も大の苦手」とまとめられている。
しかし、彼女の特徴は歴代でも類を見ないカリスマ性とリーダーシップで、性格も年齢も大きく違うプリ5チームをみごとにまとめ上げている。

では劉邦はどうだったかというと、簡単にまとめれば「酒好きで豪放磊落なほら吹きのエロオヤジ」である。劉邦は農家の出であったが、若い頃は家業を嫌って任侠を志し、後に趙王となる張耳の弟分のようになっていた。その後、縁あって故郷で警察署長のような役職についていたが、根っからの遊び人で教養もなかったにもかかわらず、不思議なことに人望があったという。その後、陳勝・呉広の乱に端を発する秦末の動乱で劉邦は頭角を現し、ライバルであった項羽を破って皇帝に昇り詰めるが、どういうわけか劉邦は人に好かれ、豊富な人材を取りそろえることができた。かつては劉邦の上司であった蕭何や曹参も進んで劉邦を盛り立てている。
そうみると、夢原のぞみ=劉邦と考えるのは妥当なようである。

1-2 プリ5メンバーは劉邦家臣団の誰に相当する?

では、のぞみのチームメイトである夏木りん、春日野うらら、秋元こまち、水無月かれん、続編での追加戦士である美々野くるみが誰に当てはまるか見ていこう。

①夏木りん/キュアルージュ
のぞみの幼馴染で親同士も仲がいい。のぞみと違ってしっかり者で、りんがのぞみの面倒を見ている部分が多い。
そのことから、劉邦の同郷の親友であり、御者を務めるなど公私ともに劉邦に尽くした夏侯嬰に相当すると考えられる。

②春日野うらら/キュアレモネード
のぞみの後輩で、友達というよりは「のぞみを姉貴分として慕っている」と言ったほうが適切である。
そのことから、劉邦の筆頭子分だった樊噲に相当すると考えられるが、新人アイドルでもあるうららは特に女の子らしい外見であり、樊噲のいかつさには合わない。また、彼女は「のぞみの良き理解者」という一面もあり、それを加味すると張良のようでもある(張良は「女性のような容姿だった」と伝わっている)。

③秋元こまち/キュアミント
秋元こまちはメンバー中最も捉えどころのない人物であるように思われる。のぞみの先輩であるため保護者的な面が強いが、後述する水無月かれんと比較するとおおらかな印象を受ける(ただし、怒ると怖い)。
彼女の特徴のひとつがバリアをメインに操る防御特化型のプリキュアであることで、「縁の下の力持ち」というイメージが先行している点、またきわめて多面的な人物像である点、のぞみの保護者的立場にいる点を加味すると蕭何に相当すると考えられる。

④水無月かれん/キュアアクア
秋元こまちとは親友で、ともにのぞみの保護者的な立ち位置にいる。お嬢様らしい感覚のずれがあるが、頭が切れ、運動面でも才能に恵まれている。
そのことから曹参に相当すると考えられる(曹参は文官だが戦場でも功績を挙げている)が、かれんが極めて「融通が利かない」性格をしていることを加味すると、王陵のほうがより彼女に近いかもしれない(王陵は元々、劉邦の兄貴分で、融通が利かない性格でもあり、後年、劉邦に「要領がよくない」「馬鹿正直」と言われてしまっている)。

⑤美々野くるみ/ミルキィローズ
続編である『Yes!プリキュア5GoGo』でチームに加入した追加戦士であり、そのことから客将と言っていい位置づけである。万能ではあるが、戦闘特化型のキャラクターではある。
その点から、新参ながら大将軍に抜擢され、中原統一に大きく貢献した韓信に相当すると考えられる。

2 スマプリ・ドキプリ・ゴープリの分析

次に、他のシリーズではどうか見ていくが、1号キュアと2号キュアのバディを軸にチームが構成されているケースが多く、その場合はナンバー1とナンバー2の関係も考慮する必要があるため、今回はのぞみ型チームリーダーをいただくチームで、メンバーそれぞれに該当する人物が比較的容易に見つけられたものだけを取り上げる。

2-1 スマイルプリキュア!の場合

①星空みゆき/キュアハッピー
スマプリのチーム構成がプリ5に酷似していることや、天真爛漫な性格がよく似ていることなどから夢原のぞみとよく比較されるが、みゆきの特徴として「それなりに才能がある(チアリーディング部に属しているという裏設定がある)反面、カリスマ性やリーダーシップは持たない」点が挙げられる。
みゆきの場合、カリスマ性とリーダーシップでメンバーをまとめ上げているというより、チーム全体が親友という関係で成り立っている(互いに助け合う関係である)点を考慮すると、劉備に相当すると考えられる。

②日野あかね/キュアサニー
緑川なおとともにスポーツ特化型のキャラクターで、義理人情に篤いところも含め共通しているが、より直情型で熱血という特徴がある。パワー特化の戦闘スタイルである点も含めると、張飛に相当すると考えられる。

②緑川なお/キュアマーチ
口癖が「直球勝負」、変身後の名前が行進を意味する「マーチ」であることからも一本気な性格であることがうかがえる。日野あかねともどもスポーツ特化型のキャラクターだが、スピードとテクニックを有する点で、パワー一辺倒のあかねと異なる。義理人情に厚く、特に仲間思い・家族思いである点が際立っており、関羽または趙雲に相当すると考えられる。

③青木れいか/キュアビューティ
文武両道型の智将で、敵に「プリキュアの要」と評されるほど重要なポジションにいる人物である。成り行きでメンバーになった他の3人と異なり、みゆきからアプローチしていった点が珍しい。
戦略・戦術に長けた参謀ポジションにいることから諸葛亮に相当すると考えられるが、実戦にも長けていることから、王平の要素も加味できると思われる。

④黄瀬やよい/キュアピース
やよいは(おそらく趣味が近しい関係で)みゆきと特に仲がいいが、引っ込み思案な性格もあり、当初はチーム内であまり役に立っている様子が見られなかった。戦士としては極端な大器晩成型であったが、チーム構成上は「なくてはならない存在」であり、「目立った活躍はしないが、いないと困る人物」と考えると簡雍に相当すると考えられる。

2-2 ドキドキ!プリキュアの場合①

『ドキドキ!プリキュア』はメンバー全員が極めてハイスペックである点で歴代プリキュアチームの中でも異色である。その点がプリキュアの多様性に大いに貢献しているのだが、キャラクター像を眺めていると日本と中国それぞれに該当する組織・人物がいるため、2つに分けて記述する。
追加戦士であることに加え特殊なポジションに位置するため、円亜久里は検討の対象としない。

①相田マナ/キュアハート
歴代プリキュア主人公でも稀に見るハイスペックなキャラクターで、カリスマ性とリーダーシップを持ち合わせているだけでなく、文武両道で度量が広いという恐ろしい人物である。
博愛精神に満ちた自信家で、困っている人を放っておけない性格だが、彼女の自信は虚勢ではなく、自分自身のスペックと仲間との信頼関係に裏打ちされた「根拠のあるもの」である(この点が、後輩にあたる愛乃めぐみと異なるところである)。
交友関係は広いが、親友と呼べるポジションにいる菱川六花・四葉ありすがともにマナを上回る才能を何か一つ持っていることを考えると、付き合う相手は選んでいる可能性が高い。また、メンタルが強く立ち直りが早いことも特筆に値し、「人に信用されるには、人の上に立たなくてはならない」という理屈をすでに体得していることを考えると、該当する人物は曹操以外に考えられない。

②菱川六花/キュアダイヤモンド
マナが最も信頼する親友で、マナの最も良き理解者でもある。全国模試10位以内をキープする秀才で、チームの参謀役的なポジションにいる。
そのことから、荀彧を筆頭とする曹操の参謀たちに相当すると考えられる(良き理解者という点では荀彧、奇策に長けている点では郭嘉、実戦も苦にしないところは程昱っぽい)。

③四葉ありす/キュアロゼッタ
六花に次ぐマナの親友である。世界規模の財閥の令嬢で、中学生ながら経営にタッチしている描写があり、そのことからチーム内で最も老成している。近接戦闘に強いが、普段はそれを封印し、防御に特化している。また、実家が様々な事業に携わっている強みもあり、チームの裏方としてサポートを担当することが多い。
そのあたりを考慮すると、鍾繇や王朗といった文系実務官僚に例えるのが適切と考えられる。

④剣崎真琴/キュアソード
異世界出身で、マナたちが覚醒する以前からプリキュアであった。芸能活動が長いため世渡りにはそれなりの経験があるが、異世界出身ということもあり、常識に疎い。プリキュアとしてのキャリアが長いため、戦闘に長けているが、生来の生真面目な性格と不器用さもあり、チーム加入は遅れた(マナが必死になって口説き落とした側面がある)。
特に実践面で高いスキルを持つことから武官に例えるのが適当と考えられるが、先行してプリキュアになっていたことを加味すると、別陣営から曹操陣営に加わった張遼・徐晃・張郃が近しいと考えられる。

2-3 ドキドキ!プリキュアの場合②

先に相田マナを曹操に擬えたが、能力主義や仲間に対する情の厚さ(ただしシビアな一面も持つ)、最終的にレジーナをデレさせた驚異的な「人たらし」の素質から、マナには織田信長や豊臣秀吉の要素も見出すことができる。そこで、今度はマナ=秀吉とした場合にチームメンバーが誰に相当するか見ていくことにする。

①菱川六花/キュアダイヤモンド
チームのブレーン的ポジションであることを考えると竹中半兵衛や黒田官兵衛に相当すると考えられる。ただし、マナの随一の親友であり、信頼も厚いことを考えると、秀吉の盟友であった前田利家の要素も見受けられる。

②四葉ありす/キュアロゼッタ
格闘に長けていながら防御特化型の戦闘スタイルを取ること、実家の力を利用してチームのバックアップを担当していることなどから「縁の下の力持ち」というイメージが強く、またマナとの親密な関係を考慮すると豊臣秀長に相当すると考えられる。

③剣崎真琴/キュアソード
実戦経験が長いことから戦闘に秀でており、チームの切り込み隊長的な役割を果たすことが多い。そのあたりは秀吉子飼いの猛将だった加藤清正に近いが、チーム加入時にマナが口説き落としたところは藤堂高虎のようでもある。

2-4 Go!プリンセスプリキュアの場合

ゴープリの主人公である春野はるかはその芯の通った性格とメンタルの強さから相田マナとよく比較されるが、チームの構造としてはリーダーのはるかを周囲の人物が盛り立てている構図が見て取れる。

①春野はるか/キュアフローラ
はるかの人物像を簡単にまとめると「好奇心が旺盛で向上心が大変強い努力家」となる。マナと比較すると才能に恵まれているわけではないが、多大な努力と向上心でハイスペックになったと言える。当然、彼女一人でそこまで行けたわけではなく、チームメイトをはじめとする周囲のサポートも大きかった。そうした面から、先に星空みゆきを劉備、相田マナを曹操に擬えたことに倣うと孫権が近しいと考えられる。

②海藤みなみ/キュアマーメイド
ゴープリは珍しく主人公が中学一年生の設定で、メンバーもそれに準じているため、二年生であるみなみは必然的に保護者的な立場になる。才能に恵まれ、生徒会長を務めるなど人望も厚く、また面倒見もよい。
孫権の保護者といえば張昭だが、みなみには張昭のような「我の強さ」がなく、性格的には顧雍のほうが近しいと思われる。また実戦においても無類の強さを発揮するあたりは周瑜に近いとも言え(周瑜は容姿端麗であった)、それらを総合すると朱治や呂範も該当すると考えられる。

③天ノ川きらら/キュアトウィンクル
マイペースかつフランクな性格だが、ファッションモデルとしてすでに一定の地位を築いていることもあり、ドライな一面も強い。総じて現実主義者だが、意外と世話焼きな一面もある。
戦闘面では非常にテクニカルで、戦巧者という趣があり、これらを考慮すると甘寧や徐盛が近しいと考えられる。

④紅城トワ/キュアスカーレット
追加戦士であり、元は敵陣営に属していた、いわゆる光堕ちキュアでもある。元はホープキングダムの王女で、はるかたちから見れば主家筋に当たると言える。
その点は、孫策(孫権の兄)から見ると本来は主家に当たっていた劉繇の子・劉基に近いと言える。一方、ロイヤルファミリー出身の戦巧者という点は孫韶に近いとも言える。
ただ、トワ自身の立ち位置が極めて孫権に近い(カナタという「できる兄」がいる)。

⑤七瀬ゆい
ゴープリを考えるうえでどうしても外せないのが、七瀬ゆいである。彼女はプリキュアではないが、チームを支える裏方として重要な役回りを果たし、はるかたちにとって「なくてはならない存在」になっていた。また、はるかにとっては「初めての親友」でもある。
はるかの良き理解者という側面が強く、また適切なサポートができていたことや、プリキュアでないにもかかわらず準メンバーとして扱われていたことなどを考慮すると、諸葛瑾に相当すると思われる。

おわりに

今回は、プリキュアの一部を歴史上の人物に擬えてみた。必ずしも合致するわけではないが、近しい人物はそれなりにいると言え、比較することでそのキャラクターや早退させた人物の意外な一面が見えることもあって楽しかった。プリキュアの登場人物(特にプリキュア)は人物造形がしっかりしているのに加え、基本的にチームでの行動となるので役割分担ができあがっており、組織運営を考えるうえでも分析する価値はあると思う。
また、こうして実在の人物と比較することで、実在の人物がキャラクター造形に影響を与える可能性を検討することも有意義ではなかろうか。

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