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親魏倭王の小話集(小説編)

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本、主に小説についての小話集。Twitterに投稿した中でツリーを形成する長文ツイートを転載。
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#小説

親魏倭王、本を語る その28

【ポンペイ夜話】 『死霊の恋・ポンペイ夜話』はテオフィル・ゴーティエの代表的な怪奇幻想小説5篇を収録した作品集である。「死霊の恋」は吸血鬼ものの古典として広く知られているが、「ポンペイ夜話」もなかなかおもしろくて好きな作品。ポンペイの廃墟で見つかった「女性の胸の押し型」を見て心惹かれる男の前に夢か幻想か、古代ローマの麗人が現れ逢瀬を楽しむ。ファンタジーの傑作である。 同時期にプロスペル・メリメが「ヴィーナスの殺人」を書いているが、この時期のフランスに一種の骨董ブームがあったよ

親魏倭王、本を語る その26

【すべてはポーから始まった?】 コナン・ドイルやH・G・ウェルズ、スティーヴンソンらが活躍した19世紀後半~末は大衆小説がミステリー・SF・ホラー・ファンタジーなどに分化してくる時代で、この時期にそのジャンルの開祖となる作家が大勢生まれている。ミステリーはドイル、SFはウェルズ、ファンタジーはジョージ・マクドナルドといった具合である。 ところが、そうした個々のジャンルが分化する以前に、それぞれのジャンルのほとんどをエドガー・アラン・ポーが小説化しているのである。これは何度読み

親魏倭王、本を語る その12

【江戸川乱歩の傑作集について】 江戸川乱歩の短編のうち、狭義のミステリーの代表作は「二銭銅貨」「D坂の殺人事件」「心理試験」「屋根裏の散歩者」の4編だと思うが、乱歩の作品集で最も纏まっていると思われる東京創元社『日本探偵小説全集』は「D坂の殺人事件」が欠けている。 乱歩の傑作集は多く出ているが、狭義のミステリー作品が纏められているものは意外と少なく、僕が目を通した中では新潮文庫の『江戸川乱歩傑作選』が上記4編を纏めて収録していてよかった。併録されている「二癈人」もミステリーと

親魏倭王、本を語る その08

【吉原御免状】 隆慶一郎『吉原御免状』(新潮文庫)は吉原成立の背景に傀儡(くぐつ:人形まわしなどを生業とする漂泊の芸人集団)を置いた伝奇小説で、吉原を根城とする傀儡たちと裏柳生(忍び)の暗闘を描く。徳川家康影武者説が絡められていて、これが後に独立して『影武者徳川家康』になったらしい。 物語は剣豪・宮本武蔵に育てられた剣客・松永誠一郎が、花街・吉原を根城とする傀儡たちととともに、彼らの排除を目論む忍者衆・裏柳生と戦うというもの。もっとも、柳生でも幕閣に仕える表柳生の長・宗冬はど