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親魏倭王の小話集(小説編)

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本、主に小説についての小話集。Twitterに投稿した中でツリーを形成する長文ツイートを転載。
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#ミステリー

親魏倭王、本を語る:特別編(お気に入り短編ミステリー紹介)

最近、と言ってもかれこれ7年くらい小説から離れているのだが(読書自体は続けている)、学生時代から正職採用されるまでの約10年間に読んだ中で、割と気に入っている短編ミステリーを少し挙げてみる。 共通の主人公が登場するシリーズ短編が好きなので、ちょっと偏りがあるのは承知している。 「5つのプレゼント」乾くるみ 『六つの手掛り』所収。チャップリンそっくりな探偵役・林茶父(サブ)が活躍する連作の一編で、プレゼントの小箱による爆殺事件が探偵役の回想として語られる。収録作すべてがロジッ

親魏倭王、本を語る その24

【本格vs.社会派という不自然な対立】 「社会派推理小説」の先駆となった松本清張は、推理小説に社会小説の要素を取り入れたが、『点と線』で時刻表トリックを使っていることからわかる通り、比較的トリックを多用する作家だった。 よく「本格vs社会派」という対立構図を目にするが、これは変な対置のしかたで、本格は推理小説の形式、社会派は推理小説の内容に基づく呼び方だ(と自分は認識している)から、対立関係にはなり得ないと思うのである。松本清張の推理小説(特に『点と線』)を形式で分類するなら

親魏倭王、本を語る その12

【江戸川乱歩の傑作集について】 江戸川乱歩の短編のうち、狭義のミステリーの代表作は「二銭銅貨」「D坂の殺人事件」「心理試験」「屋根裏の散歩者」の4編だと思うが、乱歩の作品集で最も纏まっていると思われる東京創元社『日本探偵小説全集』は「D坂の殺人事件」が欠けている。 乱歩の傑作集は多く出ているが、狭義のミステリー作品が纏められているものは意外と少なく、僕が目を通した中では新潮文庫の『江戸川乱歩傑作選』が上記4編を纏めて収録していてよかった。併録されている「二癈人」もミステリーと

親魏倭王、本を語る その10

【泡坂妻夫】 泡坂妻夫は本名を厚川昌男といい、紋章上絵師を生業としながらマジシャンとしても活躍した。それにミステリー作家という顔が加わり、実に三足の草鞋を履いた人だったが、作風はトリックを重視し、それゆえに舞台設定などにはやや無理があった気がする。 短編が多く、亜愛一郎シリーズや曾我佳城シリーズ、宝引の辰シリーズが知られる。 長編で読んだことがあるのは『乱れからくり』だけだが、社会派ミステリーの洗礼を受け、リアリズム寄りの作品が多かった1970年代では珍しく外連味のある舞台設

親魏倭王、本を語る その02

【伝奇小説小史】 日本における伝奇小説の祖型は、おそらく曲亭馬琴の『南総里見八犬伝』と思われる。近代に入ると、岡本綺堂の『小坂部姫』『玉藻前』を筆頭に、国枝史郎や角田喜久雄が伝奇時代小説を次々と発表する。戦前の代表作として吉川英治の『鳴門秘帖』が挙げられる。 戦後、GHQの統制下で一時的に時代小説が書けなくなるが、その統制が終わると柴田錬三郎らが意欲的に伝奇時代小説を執筆する。都築道夫『魔界風雲録』、司馬遼太郎『梟の城』、藤沢周平『闇の傀儡師』などが昭和の代表作として挙げら