マガジンのカバー画像

親魏倭王の小話集(小説編)

32
本、主に小説についての小話集。Twitterに投稿した中でツリーを形成する長文ツイートを転載。
運営しているクリエイター

#モーリス・ルブラン

親魏倭王、本を語る:特別編(『ルパン対ホームズ』について)

モーリス・ルブランの『ルパン対ホームズ』は「金髪の婦人」「ユダヤのランプ」の2編からなる作品集であるが、「金髪の婦人」はほぼ長編といっていい分量があり、「ユダヤのランプ」は便宜上2章に分割されているが、分量的には短編である。 本書では、『怪盗紳士ルパン』所収の「遅かりしシャーロック・ホームズ」にチラッと登場したシャーロック・ホームズが本格的に登場し、ルパンと対決する。ただ、これはコナン・ドイルの了解を得ず勝手にルブランがホームズのキャラを使ったもので、先の「遅かりしシャーロ

親魏倭王、本を語る その27

【スペイン岬の謎】 『スペイン岬の謎』は、エラリー・クイーンの国名シリーズの掉尾を飾る1冊である。一般に、この後『二ホンかしどりの謎』が書かれているとされるが、これは『境界の扉』というタイトルで刊行されていて、雑誌連載時は“The Japanese Fan Mystery”というタイトルだったと言われているが、どうも誤りらしい。 この『スペイン岬の謎』が国名シリーズで最初に読んだ1冊なのだが、代表作である『オランダ靴の謎』『ギリシア棺の謎』『エジプト十字架の謎』などと比較する

親魏倭王、本を語る その26

【すべてはポーから始まった?】 コナン・ドイルやH・G・ウェルズ、スティーヴンソンらが活躍した19世紀後半~末は大衆小説がミステリー・SF・ホラー・ファンタジーなどに分化してくる時代で、この時期にそのジャンルの開祖となる作家が大勢生まれている。ミステリーはドイル、SFはウェルズ、ファンタジーはジョージ・マクドナルドといった具合である。 ところが、そうした個々のジャンルが分化する以前に、それぞれのジャンルのほとんどをエドガー・アラン・ポーが小説化しているのである。これは何度読み

親魏倭王、本を語る その25

【ミス・マープルについて】 アガサ・クリスティーは何人かのシリーズ探偵を持っていたが、メインはやはりエルキュール・ポアロである。その彼に準ずる地位を獲得したといえるのはやはりミス・マープルであろう。 『予告殺人』旧版の田村隆一氏の解説だったと思うが、当時、クリスティーには多くのファンレターが届いていたが、「ポアロをもっと活躍させてほしい」という要望とともに、「ミス・マープルものをもっと書いてくれ」という要望もあったという。 ミス・マープルはクリスティーの祖母がモデルになってい

親魏倭王、本を語る その20

【アンリ・バンコランについて】 アンリ・バンコランはジョン・ディクスン・カーが創造したシリーズ探偵で、パリの予審判事である。プロデビュー作の『夜歩く』をはじめとする5つの長編と5つの中短編に登場する。 犯罪者に対して容赦ないことから、悪魔メフィストフェレスに例えられるが、引退後は「かかし」に例えられるほど温厚になっている(『四つの兇器』)。ギデオン・フェル博士のシリーズの1冊『死時計』で彼が言及されており、世界観が繋がっていることがわかる。 ただ、ちょっとソースが思い出せない

親魏倭王、本を語る その18

【シリーズの終え方】 アガサ・クリスティーは、自分の没後に発表することを条件に、ポアロものとミス・マープルものの最終巻を早い段階で書き上げ、出版社に預けていた。それが『カーテン』と『スリーピング・マーダー』である。前者はクリスティーの生前に発表されたが、その翌年にクリスティーは亡くなる。生前に発表した、事実上の最後の作品は、確かトミー&タペンスが主人公の『運命の裏木戸』だったと思う。 『カーテン』はポアロシリーズの幕引きを企図して描かれたもので、作中で描かれるポアロの死も含め

親魏倭王、本を語る その15

【鉄道ミステリーのアンソロジー】 10月14日は「鉄道の日」だそうで、それに関連した話を。 昔、小池滋編の鉄道ミステリーのアンソロジーが講談社文庫から出ていたらしい。すでに絶版になっているようで、情報が乏しいが、「ミステリー・推理小説データベース」によると、2巻本で14話収録されていたらしい。ただ、当時は活字が小さかったので、今ならもう少し大部になると思うが、2巻を合本しても400ページ程度しかなく、また作品数やそのラインナップを見ても、2巻に分けられている意味が分からない。