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親魏倭王の小話集(小説編)

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本、主に小説についての小話集。Twitterに投稿した中でツリーを形成する長文ツイートを転載。
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#アガサ・クリスティー

親魏倭王、本を語る その25

【ミス・マープルについて】 アガサ・クリスティーは何人かのシリーズ探偵を持っていたが、メインはやはりエルキュール・ポアロである。その彼に準ずる地位を獲得したといえるのはやはりミス・マープルであろう。 『予告殺人』旧版の田村隆一氏の解説だったと思うが、当時、クリスティーには多くのファンレターが届いていたが、「ポアロをもっと活躍させてほしい」という要望とともに、「ミス・マープルものをもっと書いてくれ」という要望もあったという。 ミス・マープルはクリスティーの祖母がモデルになってい

親魏倭王、本を語る その18

【シリーズの終え方】 アガサ・クリスティーは、自分の没後に発表することを条件に、ポアロものとミス・マープルものの最終巻を早い段階で書き上げ、出版社に預けていた。それが『カーテン』と『スリーピング・マーダー』である。前者はクリスティーの生前に発表されたが、その翌年にクリスティーは亡くなる。生前に発表した、事実上の最後の作品は、確かトミー&タペンスが主人公の『運命の裏木戸』だったと思う。 『カーテン』はポアロシリーズの幕引きを企図して描かれたもので、作中で描かれるポアロの死も含め

親魏倭王、本を語る その11

【『赤い右手』】 国書刊行会からJ・T・ロジャーズの新刊が出るということで今話題になっているが、日本でロジャーズの名を一躍高めたのはたぶん『赤い右手』(創元推理文庫)である。パルプ・マガジンの常連作家で、通俗サスペンスを量産していたロジャーズが、唯一本格ミステリーとして成功したとされるのが本作である。 読んでみると通俗サスペンスには変わりないのだが、トリックがうまく決まっており、本格ミステリーとして成立している。一方で、通俗サスペンスらしいスピード感があって、通常の本格ミステ