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親魏倭王の小話集(小説編)

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本、主に小説についての小話集。Twitterに投稿した中でツリーを形成する長文ツイートを転載。
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#小話

親魏倭王、本を語る その02

【伝奇小説小史】 日本における伝奇小説の祖型は、おそらく曲亭馬琴の『南総里見八犬伝』と思われる。近代に入ると、岡本綺堂の『小坂部姫』『玉藻前』を筆頭に、国枝史郎や角田喜久雄が伝奇時代小説を次々と発表する。戦前の代表作として吉川英治の『鳴門秘帖』が挙げられる。 戦後、GHQの統制下で一時的に時代小説が書けなくなるが、その統制が終わると柴田錬三郎らが意欲的に伝奇時代小説を執筆する。都築道夫『魔界風雲録』、司馬遼太郎『梟の城』、藤沢周平『闇の傀儡師』などが昭和の代表作として挙げら

親魏倭王、本を語る その01

【『天保図録』と護持院ヶ原の仇討】 松本清張に『天保図録』という天保の改革の顛末を描いた歴史小説の大作がある。昔、角川文庫から刊行されていて、上中下の3巻構成、いずれも500ページを超える大長編だった。現在は春陽文庫から再刊されている。 この中に「護持院ヶ原の仇討」という事件の顛末が載っていて、奉行所の検視報告が引用されている。これは幕臣で剣術師範の井上伝兵衛とその弟で松山藩士だった熊倉伝之丞を本条辰輔が殺害した(金銭トラブルとも言われる)ことに対する報復で、伝之丞の子・伝十