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【逆噴射プラクティス】悪夢募集

 知るはずの無い夢は誰かの記憶と繋がっている。

 ダイレクトメールを確認し、詳細求むと返信した。
 僕は”少し変わった不思議な夢”を収集するサイトを運営している。
 繰り返し見る性質の悪い夢についてSNSに投稿したところ、同じような夢を見たという連絡がこうしてくるようになった。
 詳細情報と記憶の中の風景を頼りにネットを駆使し調べてみると、S県T市のある場所と一致した。偶然にも、近くで子供が川で溺れて亡くなったという痛ましい事件が起きていた。

 彼に会いに行くと、柔らかな微笑みとともに歓迎してくれた。剃髪した頭、沈香の匂いを纏う僧侶。悪意とは対極の場所に存在する慈悲深く聡明なまなざしの持ち主。
 僕は彼よりもまず自分を疑う事から始めた。
「実は、こんな夢を見たんです」
 僕は悩みを抱えた青年のようにひたむきに話す。彼は僕の話に耳を傾けながらも、手首に身につけた数珠を指で触っていた。……それは夢でみた人物の癖と同じものだ。
 僕が話し終えると、彼は頷き姿勢を改め訥々と語り始めた、熱心な信徒に教えを説くように。なぜ沈めなければいけないと思ったのかについて。

 数日後、僧侶は川岸で発見された。近くの橋には揃えて置かれた草履と、遺書が発見された。
 
「今回のは、なかなかよかったぞ」
 頭の中で声が聞こえた。どうやら僕の中には悪夢を喰らう怪物が棲んでいるらしい。そいつはある日夢の中で「一生分のお前の悪夢を喰った。もっと寄越せ」と言った。
 僕は、ここにはもう何も残っていないのだから、他の人のを食べに行けばいいと答えた。
「それはいい、では少し手を貸してやろう」と怪物は嗤った。
 あの日から、僕は誰かの悪夢と繋がるようになってしまった。

 僕は以前山で狩りをする夢を繰り返し見ていた。夢の中では誰よりもうまく狩ることができた。あの夢も怪物に喰われてしまったのだろう。

 今日は死体を埋めてその場所で花を育む少女の夢を見た。

<悪夢はつづく>

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Practice
悪夢を募集する話
逆噴射小説大賞2024 茉莉花という名の少女と逆の視点で当初書いていました。
情報が多かったので描くことが難しいというのもありましたが、なんかこうエネルギー?パッション?が足りない。

初速もゆるやかですね。主人公が怪物に喰われてしまうところからスタートの方が良かったのかもしれない。説明的です。もっと色々やり方はあっただろう。

今回は逆の視点、そして少女の方を採用しました。
でもどちらかというと本編はこちらでしょうね、あちらはオープニングの前のアバンみたいな。
ここに供養。

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山兎
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