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書き出しに貫かれた
さびしさは鳴る。耳が痛くなるほど高く澄んだ鈴の音で鳴り響いて、胸を締めつけるから、せめて周りには聞こえないように、私はプリントを指で千切る。細長く、細長く。紙を裂く耳障りな音は、孤独の音を消してくれる。
綿矢りささんの『蹴りたい背中』を読んで、
書き出しで貫かれた。
さびしさは鳴る。
から始まる文章は、声に出して読みたい。
文章が、リズムが、感性が噴き出している。
驚きで簡単には通り過ぎることが出来ず、しばらく描かれたその光景の中で、先に進むことが出来なかった。
芥川賞 受賞作というと、文学的でなかなか取っ付き難いイメージもあるけれど、著者の感性の瑞々しさと、多くの人が通ったであろう学校生活の、あの時感じた細かな感情の揺れ、当時言語化できなかったものが懐かしさとともに溢れ出す。
これは本当に忘れられない、文章で殴られた衝撃。
まったくどうにもお手あげです。
文章は必ずしも人間性と一致しないとは思いますが、いくらかは憑依される必要があります。
経験したことが無くとも、それを想像や妄想の先に追いついて、例え描かれなかったとしても、生まれや生い立ちの空白を埋め、要約できぬ日常を経て出てきた言葉や考えが、登場人物たちがひとりでに語りだすということではないかと、本を読んで思う事があります。
若さは失われ、もうあの頃には戻れない。恥ずかしい失敗や全力で疾走することは出来ないかも知れない。でも、文章を書くなら、おじさんだって心の中で小学生になったり、女子高生にならなければならない時がある、のかもしれない。
前回の記事で触れた坊っちゃん文学賞で発表された佳作も含め、今回のもの全て読みました。大賞、佳作、どちらも自分の好みのものが多かった。特に、
描かなかった夕焼け / 草間 小鳥子さん
ニキビ戦線 / 角井 まるさん
この二作は、癖というか自分の好きに刺さる、感じ。読む人によって、結構分かれるものがありそうなんだけど、好きの確度が高い。
読了感など含め、賞を獲ってるものは読んだ満足感がある作品がほとんど。自分に欠けて足りないものもはっきり見えます。
……なんとなくプロット無しで好き放題書いてみたい気分になってきました。
わたくしのような凡夫は、ひたすら書いて恥を晒して、積み重ねていくしかありませんね。書け、書くんだ。とりあえず確定申告をやっつけて。
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