第5回: インドでシェアを獲る (Oct.2018)

 こう題したセミナーを2012年頃から繰り返してきたが、あまり響かないようだ。“インドでシェアを獲る” を再考したい。

 例えば当時、見出しに取り上げたメッセージは、これからインド進出を企図する日本企業に対しても有効に思う。

• 石橋を叩き続けて渡れない日本人
• 調査よりも交渉、インドのビジネスに "調べるだけ" はない
• インドの経営者は初めから商談をしたがる
• 日本人は “正確・正直” にこだわってしまう
• “情報の正しさ” よりも "判断の早さ”
• 二次情報は “虹” 情報?市場調査では見えない世界
• “同音異義語” の存在にも留意が必要
• 日本人は他人の調査を平気で流用する!?
• 全てを “日本の常識” で測るのは困難
• とにかく “思い込み” を捨てる
• 現地で一歩を踏み出す勇気

 “インドでシェアを獲る” をテーマとしたのも一応の背景がある。本社から分析して語った各国戦略を後に自ら現地に赴いて実践したり、研究所で長年練り続けた技術の出口を探して各国の研究者を訪ね歩いたり、飛行機と四駆を乗り継ぎ通訳を雇って訪れた "工業団地" が単なる荒野だったり、いくら手元で情報を調べ上げ地図を広げて想像を膨らませたところで、実態は似ても似つかない。実情に合わせて現地の人々と試行錯誤するしか目指す成果を導く術はない、という経験を数多くしてきた。

 日本本社の経営陣にインド事業の様子を尋ねても、会社案内に住所があり駐在員がいること以外、どんな機会を狙っているか、どんな成果が上がっているかになかなか話が及ばない。日本では “インドに取り組んでいる” というだけで一定の評価が得られるのかもしれない。

 だが更に続く話はたいてい浪花節的な世界観だ。売上・利益の数字を比較すればASEAN拠点にすら遠く及ばない。物価水準や購買力、為替の影響まで加味すれば、どんな数字をもって測るべきかも悩ましい。何より業務遂行どころか生活自体も困難な環境下、駐在員は “よく頑張ってくれている”。。。

 “グローバル競争力" は言わずもがな地域別・国別の成果の積み重ねに過ぎない。地図上に印があるか、担当者が頑張っているか、はもはや論点ではなかろう。一案として示した指標が “インドでシェアを獲る” であった。

 グローバル並みかそれ以上に複雑・広大で変化の激しいインド、まずは "戦うべき市場" を定義しないことには始まらない。どのような機会を追求し、逆に敢えて見送るべき機会は何か、これを明らかにする必要があるが、多くの日本企業は曖昧なままだ。“アッパーミドルのプレミアム層狙い” とか “マスではなくニッチを狙う戦略” と言う表現をよく耳にするが、これらは単に、“少しでも高く売りたい”という願望や、“数量やシェアを追うものでない” という言い訳に過ぎない。自ら市場を定義して、その中で限りなく大きいシェアを追求する、というのがインドでの戦い方だ。

 これまで経験してきた世界は概ね “市場調査レポート” を広げれば、定義・規模・成長率・主要プレイヤーを見て語れることもあったはずだ。しかし成長率が10%を超え、日々新たな参入者が現れる世界において、最新情報をまとめた資料など存在しない。自らに都合の良い市場を定義して “シェア100%の独占プレイヤー” や “シェアNo.1のリーダー” を名乗ってしまう方が営業上の効果も高い。

 “インドでシェアを獲る” を目指した活動が、日本企業の “グローバル化” につながるものと今もなお期待している。

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