第10回: 食文化のつなぎ方 (Nov.2018)
先日の日曜日 (2018年11月11日)、総領事館主催の日本食フェアがあった。第二回目となる今年、昨年の初回600名に対して1,500名が訪れたとの報道だ。"ワイン並みに減税"された日本酒も振る舞われ、市内で和食を供する12店を含む25のストールが出展した。DelhiやMumbaiで同種イベントを見慣れた目にもVegかNon Vegかを問わず多くのインド人が日本食を楽しむ姿は新鮮に映ったそうだが、来場者アンケートも “100%が満足と回答した” という。日本食の可能性は大きい。
他方、街中で手に入る日本食材は未だ極めて限定的だ。日本メーカーが委託生産した醤油がようやく流通し始めたが、外資系ホテルで高級和食店を取り仕切る日本人料理長も “これまで各国で作り上げてきたレシピを作り直している” というくらい、基礎調味料から不足している。日本との直行便がない当地では、外国人や富裕層が訪れる高級スーパーでも怪しい日本語が大書された東南アジア産が並ぶのみ。買い出し休暇やふるさと便に恵まれた駐在員以外は、たまの日本帰国の際、手荷物の制限重量を大幅超過して持ち帰るのが常態だ。
ここ数年、Bengaluru等の大都市では急速に “カレー味のしない” 料理の選択肢が広まった。といっても都心部でピザやパスタ、和食を頼んだ際、“お、これは辛くない” といったレベル。“子ども用だからスパイスを完全に抜いて” と頼んで出てきた料理に、“でもこれじゃ味が足りないだろ?” と目の前で黒胡椒をガリガリガリ、と気遣ったおもてなしを受けることは日常茶飯事だ。
過去、東京やシンガポールの同僚に各種インド土産を持ち帰ったが、総じて歓迎されなかった。飴やスイーツ、スナック、スパイスミックスや食後の清涼剤等、どれも口に入れた瞬間に顔を歪ませるか微妙な愛想笑いを返されるのみ。二口目が望まれることはまずない。紅茶も敢えてTaj Mahalの絵などない方が、手を出し易いようだ。
さて先日の日本食フェア、今年の目玉企画はカリフォルニアロールに倣ったご当地巻き寿司 “バンガロール” (Veg) ・“ガンバロール” (Non Veg) のアイディアコンテストだった。日本商工会会員企業・家族の盛大な協力もあってそれぞれ40案超が集まり、インドの国旗とBengaluruの位置するKarnatakaの州旗を模した案が選ばれた。
当地で広く知られる日本食は “SUSHI”くらい。ホテルのビュッフェにはマグロとサーモンとかっぱ巻きが並ぶ程度だが、その認知を更に広げようというバンガロール・ガンバロール企画は面白い試みだ。我が家も近所の少年に寿司の作り方を教えて欲しいと頼まれたきり、海苔と巻き簾が揃ったら、と考えている内に、自らYouTubeを見て作ってしまったという。既存概念に囚われず、手元にあるもので当地の人間が望むよう解釈を広げればよい。
最近、日本の食材メーカーや日系レストランの進出話を耳にする機会も多いが、日印両国間以上にインド国内における食文化の違いが大きい。スパイシー、Veg対応、強烈な甘さ、という以外に括り切れない味覚・趣向がある。進出企業は何に拘り、何を変えるべきかに熟慮が必要だが、こればかりは “より多くのインド人に食べさせて反応を見る” 以外に明らかにする手段は乏しい。日本企業のアプローチを見るに “当社の味” や “飲食業としての業態” に拘る余り、返って機会を狭めていることが少なくない。まずはいかに一口目を食させるか、また二口、三口と進めさせるか、が勝負ではないか。
当社は当地に “新しい味” を紹介しようとする際、Food Truckの活用を提案している。“日本と同じ味” や “おもてなし” が望まれるケースもあろうが、そればかりとは信じ難い。素材や調理法、盛り付けを含めた料理そのものなのか、設備や接客、雰囲気を含めた和風の店づくりか、はたまた供し方や食し方、その場を訪れる機会といった文化やスタイルか、決して一様でないインド人に何がウケて、リピート・拡散される要素は何か。“量産体制確立” や “〇号店開設” を待たず、柔軟・スピーディーに事業展開する手法もある。
(ご意見・ご感想・ご要望をお寄せください)