第7回: 運動会とSports Day (Oct.2018)

 週末に日本人学校 (当地では毎週土曜日4時間授業の補習校) の運動会があった。我が家はシンガポールとインドで通算5年目・3校目のIB スクールに通学中だが、そこでの “Sports Day” と日本の “運動会” はかなり様相が異なる。良い機会なので、クロスボーダー事業で誤解を生じ易い “同音異義語” の一例として考えてみる。

 日本の運動会は言わずもがな、欠かせない年中行事の一つだ。近年は必ずしも “秋の” 大運動会には拘らないようだが、概ね週末に丸一日、家族が弁当持参で応援する、というのが一般的なフォーマットであろう。

 その前提で捉えると “Sports Day” には拍子抜けする。一応、年間カレンダーに予定はされているものの、週中の平日に午前中の数時間のみ。開始時刻より早めに学校に着いてみたところで普段の風景と何ら変わらない。花紙で飾られた入退場門も、高く掲げられた得点表も、賑やかしの万国旗も、ましてや場所取りのレジャーシートなども全く見当たらない。

 毎度の学校行事と同様、時間ギリギリになって先生と生徒と保護者が集まり始める。校長挨拶と国歌斉唱、選手宣誓はあるが、来賓はいない。ラジオ体操代わりのダンスをして、簡単な注意事項を聞いたら競技開始。ここまで10分少々。

 各生徒に入学時から割り振られている赤青黄緑のHouse Colour (いわゆる縦割り班) がそのままSports Dayの組となる。競技種目は概ね10程度。徒競走・障害物競走・幅跳び・高跳び・麻袋リレー・砲丸投げ・やり投げ・サッカーシュート・バスケットボールシュート等がPYP (初等教育課程) では定番だ。校庭内の各所に設けられた種目別の競技スポットを学年・House Colour毎のチームで回り、規定回数をひたすらこなす。終わったら次のスポットへぞろぞろ移動し、全競技を巡ったら終了だ。

 事前に一通りの種目を経験はしている様子だが、数か月に渡る練習の成果を披露する、といったものはない。各チームが各所で一斉にバラバラの種目を “競技” するから、親はカメラを手に我が子を追いかけるばかり。“赤勝て、白も負けるな” の声援も、“只今の競技は青の勝ち” のアナウンスもない。入退場や整列をきちんと整然と、などとは誰も思っていない。

 競技中は生徒も口ずさむノリの良い最新ヒットソングが流される。天国と地獄、トランペット吹きの休日、熊蜂の飛行、剣の舞に相当する定番曲などはなさそうだ。

 さて、この “Sports Day” は “運動会” と訳すべきだろうか。話を端折れば “要は海外の運動会” とも言えようが、“運動会” という日本語が暗に伴う “型” や “作法” はあまりに多い。海外で暮らす子どもたちに日本の “運動会” を経験させようと懸命になっている日本人学校の保護者ボランティアを目前にして、改めてSports Dayとの違いを考えさせられた。

 東京での子育て中、小学校の運動会で外国人同級生が途中で失踪し、担当部分がすっぽり抜けた演技を見せられたことがある。後にその子の親に会って聞いたところ、“昼休みとは聞いたがみんな家族で自由に過ごしていたから、すっかり終わったものだと思った。我が家も校庭で昼食をとった後、自宅に戻った” と。当時は、午後の参加種目も終了時刻もプログラムに書いてあるのに、と思ったものだが、そもそも日本語すら不自由な彼らに何がどれだけ伝わっていたかは分からない。むしろインドで暮らす今となっては彼らの感覚を素直に理解できる。夏休みに日本の小学校に通った我が子の初日の感想は “クラス全員、日本人”、“教科書がある”、“誰も床に座らない”、“給食が美味しい。でもSpicyじゃない”。。。

 グローバルの共通言語とされる英語は “同音異義語” の宝庫だ。言外の “型” や “作法” までをどう理解し、また伝えられるかは、語学とはまた異なるスキルと感じている。

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