願いを叶える代行業①(ファンタジー)
街の外れにひっそりと立つ店、「ルミエール代行社」。ここでは、人々の願いを叶える代行業が営まれている。ただし、願いの代行には一つだけ奇妙な条件があった。
「願いが叶った結果、その責任を取る覚悟がありますか?」
責任とは何なのか――誰もはっきりと理解していなかった。それでも、どうしても願いを叶えたい人々が店の扉を叩く。
主人公のシェイドは、代行社の一員として働いていた。彼の役目は、依頼者が叶えたい「願い」を言葉にし、それを「魔法の契約書」に記載することだ。店の中心には、無数の歯車が組み合わさった巨大なオブジェがあり、その名も「願望機構」。契約書をその機械に通すと、願いが即座に実現する仕組みだった。
ある日、店を訪れたのは一人の少女だった。名前はリナ。彼女は震える声でこう言った。
「お願いです。亡くなった兄を生き返らせてください。」
その瞬間、店内に静寂が訪れた。シェイドは深いため息をつくと、淡々と答えた。
「その願いは非常に高価だ。それでも叶えたいか?」
「はい。どんな代償でも払います。」
彼女の目は真剣そのものだった。シェイドは契約書を作成し、リナの署名を受け取ると、願望機構にそれを挿入した。歯車が音を立てて回転し始める。
突然、店内の空気が重くなり、床の下から黒い霧が立ち込めた。その霧の中から、背の高い青年が姿を現した。リナの兄だ。しかし、彼の目には不気味な光が宿っており、感情が全く感じられなかった。
「お兄ちゃん!」リナは駆け寄ったが、青年はまるで見知らぬ人間を見るような目で彼女を見つめていた。
「願いは叶った。けれど、彼は『完全に元通り』ではない。」
シェイドが低い声で告げる。
「どういうこと?」リナが問うと、彼は機械の歯車を指さした。
「願望機構は、人間の感情や魂を複製することができない。だから、見た目や記憶は同じでも、彼は以前のお兄さんとは違う存在なんだ。」
リナは愕然とした。兄はそこにいるのに、彼女が知っている兄ではない。
その時、願望機構が再び動き始めた。シェイドが慌てて操作を止めようとするが、機械はリナが願った「代償」を独自に計算し始めていた。機械が選んだ代償は――リナ自身の記憶だった。
「待って!それだけは……」
だが、遅かった。リナの目から涙が流れる中、彼女の兄と過ごした記憶が次々に奪われていく。やがて彼女は兄を見上げ、無表情でこう言った。
「あなたは、誰?」
エピローグ
シェイドは一人、願望機構の前に立っていた。その歯車を見つめながら呟く。
「人々はいつも『願いを叶えたい』と言うが、叶った後のことは考えない。だからこそ、この仕事が存在するんだ。」
店には次の依頼者が訪れようとしていた。彼らが願うのは幸福か、それとも破滅か――その答えは、歯車だけが知っている。