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がん様々 2 報告の境界、ドクターへの胸懐

がん患者による、がん患者のための、
がん治療対策マニュアル


1章 私も がんと知り合いになりました

3  「がぁ〜ん!」とか言ったほうがいいかな

最初の乳がん確定診断は、A先生と出会う前でした。
国立がん研究センターは、がんと確定した人が行く病院という認識があり、まずはクリニックでの検査が必要と判断し、最初の診断はクリニックでした。

年が明けて、2017年1月6日、無事にマンモグラフィーと超音波(エコー)検査を受けることができました。
その結果、大いに疑わしき状態が認められ、それを解明するべく、1月19日に造影MRIと生検を受け、結果を2月1日に伺う予定でした。

しかし、その日に近くなっても生検でとった細胞の病理検査結果が返ってきませんでした。クリニックから連絡をいただき、「この時点で返ってこないということは、さらに詳しく調べるための検査にまわっていると思うので、ほぼ確定でしょう」という見解を伝えられました。
その瞬間の私の心境は、「なるほど、そうきましたか。“らじゃっ!”」でした。

そして、2月8日――。乳がんの診断と詳しい説明を受けました。
妙に冷静でした。そもそも私は、人様のことでは感動が大きいわりに、自身のことでは感情の起伏があまりなく、何が起きても動じにくいため、また、事実以外のことに思いを巡らせることが苦手なため、妄想が膨らみにくいのです。

診断のときも、頭の中で「がぁ〜ん!とか言ったほうがいいのかな? いや、それはあまりにくだらな過ぎる(笑)」と内心笑っていました。自身に対して、どうも真剣味が足りないのです。

4  どなたまで報告したらよいのか

しかし、診断の後、心配が1つだけ大きく膨らんでいました。
「みんなに心配をかけるなあ……。もしかしたら、ショックを与えてしまうかも。そのときは申し訳ございません」という気持ちです。

抗がん剤で髪の毛が抜けることがなければ、ごく身近な方にしか報告しなかったと思います。当時84歳だった高齢の両親にも報告しなかったでしょう。
両親は伝えてもらったほうがうれしいかもしれませんし、親に言わないのはいかがなものかと思う方は多いと思いますが、残り少ない人生に、心配やストレスは少ないほうがいいいと思うのです。命が縮む原因にもなりかねません。
私は、根拠なき「治る自信」があったので、心配をさせるのなら、その時間を笑顔ですごしてほしいと思っていました。

私は心の落ち込みがないのに、心配してもらったら、逆に相手を励まさなければなりません。
人生、よいストレス以外のストレスや心配事は少ないほうがよいです。ましてや自分の事情で周りの方の心配事が増えるのは、考えものです。その分、ご自身の時間に使ってほしいですよね。

どなたまで報告したらよいのか――。どうしよう。
髪の毛が抜ける治療であることが確定するまでは、そればかりを考えていました。

5  ヒーロー出現 !!

いよいよ国立がん研究センター(以下、国がん)へ、初診日は2月13日でした。
これから私のヒーローとなっていくA先生は、何とも癒やされる笑顔で迎えてくださいました。

何に驚いたって、先にも触れましたが、先生の触診が素晴らしかったこと! その技術の高さときめ細やかさに感動しました。
施術家として、このようなことにたいそう感動してしまうのです。
そして、対応が実に速い、おもしろい、無駄がない。余裕あるA先生の姿勢は、初診に対する緊張感をマッサージしてくれ、心の血行がよくなりました。

初診で、A先生は信じられる、自身の意思はお伝えした上で、「A先生の判断にすべてお任せしよう」と思ったのです。その理由は2つの言葉にあります。
1つ目は、触った瞬間におっしゃった「柔らかいタイプだね」という言葉、そして2つ目は「リンパは変わりやすいから、そうやって自分の免疫でどんどん叩いちゃって」という言葉です。

1つ目は、ここに至るまでに、専門医以外から乳腺症の可能性が高いという意見があったことや、一般に出回っている乳がんのシコリの情報とは真逆の感覚があったので、「柔らかいタイプ」を一瞬にして判断くださったことにあります。

2つ目は、初診前の2週間のあいだ、ミネラルウォーターを1日2リットル摂っていたことで、右腋や右胸上部のリンパの腫れや徐々に増す違和感が軽減され、何より身体がものすごく軽くなったことをA先生に報告したことでくださった言葉でした。「外科医でこのようなことをおっしゃる医師がいるんだっ!」と感動したのです。

誤解していただきたくないのですが、A先生がおっしゃってくださった言葉は、水でリンパが治る、という意味ではありません。この言葉の意味をA先生に確認はしていませんが、あくまでも前向きな私に、実感として感じている私の事実に、「それが良い」と励ましをくださったのだと捉えています。

そもそも私は、若い頃の経験から水の匂いが苦手になり、水を水だけで飲むことがなかなかできず、1日に一滴も飲まないような人でした。甘いジュースを日常で飲むこともほぼないのですが、水分補給はお茶類かコーヒーが主でした。飲んでも炭酸水です。

そんな私が、必要に迫られたらいけるものですね。ミネラルウォーターを飲んで、細胞が洗われたように身体全体がものすごく軽い状態になり、実際、体重も軽くなりました。これはがんにより痩せたのではなく、水をしっかり飲んだ効果です。がんによる影響だったら、食事の量は変わらずモリモリ食べている中で、2週間で一気に痩せることはないでしょう。

ちなみに、他にも飲みたいものがある中で水を1日に2リットル飲むということは、私にとってはかなり慌ただしいものでした。症状が落ち着いてからは長続きしませんでした。水の重要性がわかった今は、量は多くありませんが、日々必ず摂るよう心がけています。

私は当初、がん患者としては素人です。私の主治医A先生は、周りの誰よりも乳がんを深く知っています。ですから、情報が偏らないよう、ある程度治療が落ち着くまでは、インターネットなどで基本情報以外は調べることはしませんでした。
A先生からいただく情報と、「国立がん研究センターのがんの本 乳がん―治療・検査・療養」(小学館クリエイティブ、2013)、また国がんが配布している乳がんについての冊子、そして治療の過程で感じてきた自分の感覚を大切にしています。

今では、これらの情報とインターネットなどで調べた情報、そして自分の経験を結びつけるようにしています。

とはいっても、日本のがん検診率が高くない状況から想像すると、皆さんの中にも、そもそも「がんとは何か」についてあまり知らないで過ごしている方は少なくないと感じています。
そこで、当時 経済産業省 商務・サービスグループ 政策統括調整官(兼)厚生労働省 医政局 統括調整官(兼)内閣官房 健康・医療戦略室 次長でした江崎禎英さんのご著書『社会は変えられる―世界が憧れる日本へ』(国書刊行会、2018)の61〜65ページにとてもわかりやすい説明があります。

この本は、とても読みやすくおもしろいので、お勧めします。社会保障制度についても、大変わかりやすく書かれています。

さて、国がんで受診し、乳がんが確定したからには治療優先で行こうと決め、パタパタと必要な検査を受けることになる度に、すでに入っていた仕事をキャンセルさせていただくという2月を過ごしました。
検査結果も揃い、2月の終わり頃には、A先生から乳腺腫瘍内科の先生にバトンタッチされ、いよいよ抗がん剤からはじまる本格的な治療のための準備に入っていきました。

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