オーバーウォッチワールドカップ2023本戦:結果・総評
オーバーウォッチワールドカップ2023の全日程が終了しました。結果と総評。
地域予選は以下の記事で。
◯結果
◯グループステージ
・グループA
韓国・フィンランドが順当に予選抜け。
フィンランドは韓国相手に1-1、フラッシュポイントを2マップ取得するところまでいくも、辛くも逆転負け。
フィンランドの好調さと、韓国が絶対的王者でないことが示されたか。
フィンランドはメインタンクのLhCloudyが直前で出場しないことになり、練習していたラインハルト構成も出せなくなったが、逆にVestolaのシグマの大活躍により躍進。
・グループB
イギリス・カナダが順当に予選抜け。
イギリスはBackbone、WMaimoneがダメージとサポートを切り替えながら高いクオリティを維持し、カナダにも勝利し全勝。
カナダはCrimzo、Calのリーガーサポートコンビが活躍。やはり今のメタはサポートのキャリー力が重要か。
オーストラリアはラインハルト構成で挑むも、強豪相手には敵わず。
ブラジルは3敗に終わったものの、ダメージのLudwigを初めパフォーマンスは決して低くなかった。今後の競技シーンにも期待したい。
・グループC
中国・スペインが予選抜け。
中国は言わずもがな。
スペインは、私自身は予選での逆転劇からかなり期待しており、本戦でもタイ相手にも堂々の勝利。特にKhenail、Galaa両サポートの活躍は予想通りで嬉しい。
タイ・香港はアジア勢として応援していたものの、やはり世界の壁は厚いか。
・グループD
サウジアラビア・アメリカが予選抜け。
サウジアラビアは3試合全てでコントロールを1ポイント落としてはいるものの、SirMajedのイラリー・Quartzのソジョーン等の活躍により強さを見せつけた。
アメリカはフランスに苦戦し、サウジアラビアにも敗北したものの、日本戦ではSuperの投入もあり、まるで別チームのような強さを見せた。
あのパフォーマンスをサウジアラビア戦でも見せていれば、勝敗はわからなかったかもしれない。
日本は強豪フランスに勝利するも、サウジ・アメリカに敗北。
アメリカがサウジ・フランス戦のようなパフォーマンスであれば勝機はあったかもしれないが、それを言い出すとフランスも日本戦が一番パフォーマンス悪かったので、なんとも。
フランスは3敗したものの、強豪国だけあってアメリカ・サウジ戦でのパフォーマンスは決して低くなかった。日本はよく勝ったと思う。
他のグループに比べ実力が拮抗した死のグループであったため、日程的に仕方ない部分はあるだろうが、もっと多くの試合数を見たかった。
今から再戦するならば、試合結果は変わってくるかもしれない。
◯決勝トーナメント
ベスト8
・韓国vsカナダ
優勝候補韓国に対し、カナダはCalの活躍もありブリザードワールドで勝利するも、それ以外はコントロール2-0、フラッシュポイント3-0、プッシュ128.09m(ゴール)-41.94mと韓国の圧勝であった。
4マップ目のプッシュの試合が配信に映らないというアクシデント。
・中国vsアメリカ
前回大会の決勝カードの対決。
アメリカは日本戦での好調に引き続きSuperのシグマで挑む。
実力差は大きくはないと思うが、中国のGuxueドゥーム、Leaveゲンジ・エコーが絶好調。3-0で中国の勝利となった。
前回優勝のアメリカは日本戦のパフォーマンスはよかったものの、フランスに苦戦しサウジ・中国に敗北と、芳しくない結果となった。
トップレベルのチームであることに間違いはないが、組み合わせの問題もあったか。
・イギリスvsフィンランド
予選では圧倒的な強さを見せていたイギリスだったが、内容的にも完敗の0-3負け。
フィンランドはVestolaシグマの圧倒的な安定感が光った。グループステージでの韓国戦に続き、かなりの躍進を見せている。
イギリスはそれまでにあまり見せていなかったオリーサ・ゲンジ・ソジョーン・バティスト・ルシオの構成で挑んだが、JkAruオリーサのファーストデスが目立った。
jkAruの先落ちは想定済みでダメージ二人のキャリー力に期待する作戦の可能性もあり(予選やスクリムではウィンストン構成で上手くいっていた)、実際にKaiがソジョーンでマルチキルするシーンは目立ったものの、それでもシグマ・メイ・バスティオンの堅牢さには敵わず。
今までに見せていたWMaimoneゲンジ・Backboneアナではなく、Backboneゲンジ・WMaimoneバティストになった影響もあるか。
若干の不完全燃焼感もあり、悔やまれる結果か。
・サウジアラビアvsスペイン
地域予選から快進撃を進めていたスペインだが、強豪サウジアラビアには敵わず。
スコアだけ見ると2-0、3-0、3-0と完敗にも見えるが、ラインハルト・ルシオ構成での善戦もあり、戦えている印象はあり、ベスト8の実力に違わないだろう。
スペインの両サポートKhenail・Galaaはヨーロッパの中堅選手であったが本大会での活躍が目覚ましく、今後の活躍にも期待したい。
ベスト4
・韓国vs中国
今大会のメタとは異なるダイブ系の構成対決に。
お互いに得意ヒーローでの戦いになり、各選手がキャリーし続ける世界トップのパフォーマンスが繰り広げられた。
全くの互角と言っていいほどの僅差の激戦であり、どちらのダメージも圧倒的な強さを見せたが、勝負を決めたのはスラヴァーサやルート66での中国の両サポートの堅さか。
個人的にはプレイオブザマッチはMMONKのアナ。
・フィンランドvsサウジアラビア
激戦。
どのマップも際どい試合が多く、どちらが勝ってもおかしくはなかったが、最後のルート66をはじめ、SirMajedイラリー・LBBD7バティストの攻撃力を発揮できるマップで勝負が決まったか。
3位決定戦
・韓国vsフィンランド
フィンランドがここにきてまさかのラマットラでコントロールを勝利。
ブリザードワールドやスラヴァーサは韓国が強さを見せるが、ニュークイーン、サーキットロイヤル前半でのシグマ・メイ・シンメトラ構成ではフィンランドの完成度が上回る。
韓国はサーキット後半からジャンカークイーンラッシュに切り替え、フィジカルの高さで勝ちきろうとするも、防衛の前抑え失敗からのスノーボールには抗えず。
最強の優勝候補韓国を下し、フィンランドが堂々の3位入賞。
ーー
多くのチームはサポートのイラリー・バティスト、あるいはソジョーンのフィジカルによりキャリーするシーンが目立ったが、フィンランドはほとんどシグマ・メイ・シンメトラ系の構成で挑み、世界一の完成度を見せた。
フィンランドはもともとLhCloudyをはじめとしたラインハルト構成を練習しており(オーストラリアが見せていたような。)、そのメイ・シンメトラ戦術の流用ができ、一番練習できていたチームだと言っていいかもしれない。
Vestolaシグマの覚醒に加え、チーム全体の連携・戦術の強さでの快進撃であった。
韓国はまさかの4位。
中国戦でのパフォーマンスに現れているように間違いなく世界最強級ではあるが、メタ・構成の問題で強みを活かしきれなかったか。
フィンランド戦でもフィジカルが活かせるような状況では有利を取る場面は多かったものの、メイ・シンメトラ構成ではフィンランドに遅れを取る結果となった。
代表メンバー選考は春だったので今更ではあるが、このメタならばShu・Viol2tのサポートコンビならばどうなっていたか。
決勝
・中国vsサウジアラビア
コントロール・ハイブリッドでは中国が圧倒的な強さを見せたものの、フラッシュポイントから巻き返しての3連取。サウジアラビアが優勝を決めた。
中国はGuxue・Leave・Shyのフィジカルが十分に発揮されるものの、サウジアラビアの構成の多様性・対応力が上回ったか。
ダメージはソジョーンはもちろんシンメトラ・バスティオンの連携もよく、サポートもルシオ・バティスト、イラリー・バティストのどちらも高い水準であった。
大会MVPは公式では表彰されないようだが、個人的には圧倒的にイラリーで破壊し続けたSirMajed。
所属チームのToronto DefiantではUltraVioletの影に隠れ出場しないことも多かったが、イラリーでは間違いなく世界最強であり、メタにも恵まれた形になった。
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解説のgappo氏はやたらSaudi eLeagueを推すが、サウジの選手たちが所属するTwisted Minedsは国内大会だけでなくEMEAコンテンダーズを連覇している。そっちのほうがレベルは高いと思うのだが、どうだろうか。
もちろんTwisted Minedsは非常に強いわけだが、それでもリーグ全体のレベルとしては韓国や北米・欧州のコンテンダーズのほうが高いはず。
ともあれ、トップリーグであるオーバーウォッチリーグは一段落し、来年以降はSaudi eLeagueが主体となって競技シーンを形成していく可能性がある。
サウジアラビアはサッカー等のスポーツはもちろん、格ゲーを初めとしたeスポーツ産業にかなり力を入れているので、ワールドカップの優勝によってその機運が更に高まってくれれば、競技的にはありがたいことであるか。
補:
YZNSAが有名で出場しないことにもろもろの意見もあったようだが、サウジは別にファラ・エコーのチームだというわけでもないし、YZNSAではなくLBBD7の方が競技的には活躍している。
特に今大会ではLBBD7のサポートでの活躍がなければ優勝はなかっただろう。
そのへんはEMEA大会も結構見ていた自分としてはドヤれる。なんならYZNSAのことよく知らなかったし。
◯総評
・メタ
概ね、シグマ、メイ・バスティオン・シンメトラ、イラリー・バティストを初めとし、それにバリエーションを加えるような構成が多かった。
オリーサはメイやバスティオンには強いもののシグマ対面はキツく不利か。
シグマ対面には強いラインハルトを運用するチームもあったが、やはりメイやバスティオンがいると厳しい。
ダメージはメイ・バスティオン・シンメトラが多く使われたが、強いチームはそれにプラスしてソジョーンやエコーによるキャリー力も見せつけていた。
サポートはイラリーの活躍が目立った。
バスティオンの変形はキルを取るというよりは相手を削るために使われ、シグマやメイも決めきるタイプのヒーローではないため、イラリーやバティストのようなサポートのファイナルブロウがキルログに並ぶことは多かった。
前回の2019年大会では、ほとんどがオリーサ・シグマ・リーパー・ドゥームフィスト・ルシオ・モイラという構成だった。たまにメイ。
それよりは多様性はあるものの、やはり得意ヒーローとメタに悩まされたチームも多いだろう。
例えばイギリスはイラリーやシグマをやや苦手としており、ウィンストン系のメタであればもっと勝ち上がれたかもしれない。
逆にサウジアラビアはメタに恵まれ、メインタンクは苦手だがシグマを得意とするKSAAに有利に働き、特にSirMajedのイラリーは間違いなく世界最高峰。
・サポートのキャリー力
メタの影響もあるが、かなりサポートのキャリー力が目立った大会となった。
サウジアラビアのSirMajed、カナダのCal、スペインのGalaa、そして日本のQloudなど、特にイラリーの攻撃性能により交戦を決定づけるようなシーンが多くあった。
あるいは、サウジアラビアのLBBD7、イギリスのBackbone・WMaimone、そして日本のMihawkなど、ダメージロールのプレイヤーのアナやバティストでの起用も珍しくなくなっている。
それほどサポートロールはエイムを初めとしたフィジカルも要求されるロールなのだ。
だからタンクのほうが簡単。みんなタンクやろうね!
・地域間の力量差
世界大会というのは地域間の力量差が見えてくる大会でもある。
これまでは、トップリーグを除けば、韓国>>北米≧欧州>>アジア太平洋>>南米というくらいの力量差であったと思う。
今大会のサウジアラビア、フィンランド、スペインの活躍により、北米と欧州の差はなくなっているか、逆転しているかもしれない。
(アメリカ・カナダはトップリーグ以外の選手の参加が少なかったため、地域大会のレベル差は測れないかもしれないが。)
アジア太平洋地域の話では、タイは東南アジア最強のDAFのメンバー、オーストラリアもコンテンダーズで活躍する選手たちであり、ともに日本代表選手たちが所属するVARRELは苦戦し続けている選手たちである。
日本はフランスに勝利し一矢報いたものの、タイはスペインに、オーストラリアはカナダに完敗。
やはり世界との差はあるように見える。
アジア太平洋は現時点では南米よりは間違いなく強いだろうが、例えばブラジルはValorantでも有名なLOUDを初めeSportsは盛んで、オーバーウォッチもWC前に国内で10チームのリーグ戦が行われた。
WCでも活躍したLudwigら3選手が所属するWar Pigsというチームが優勝したのだが、そのチームもリーグで2敗、トーナメントでも1敗するほど他のチームも強く、競い合っている。
うかうかしていると抜かれかねない。来年もワールドカップがあるのならば、ブラジルは要注意チームの一つかもしれない。
予選の頃から、ワールドカップについて記事を書いたり、出場チームや結果をまとめたりしてきた。
やっぱり国際大会は楽しい。それに尽きる。
サッカーのワールドカップはもちろん、私は野球のWBCの欧州予選とかまで見る人間だ。スペインvsイギリスの激戦とか超面白かった。
コロナの影響でOWWCは久々の開催となったが、今後も続いていってくれると嬉しい。
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日本は、どうだろうか。
ぶっちゃけると、オーバーウォッチに限った話ではないが、プレイ人口やSNSのフォロワー等の多さの割には、やはり今ひとつ全体の競技的な盛り上がりは少ないような印象もある。
例えばマレーシアなんかは、Xの代表チームのアカウントのフォロワーはわずか1000人程度であるが(日本は1.3万)、チームのユニフォームをデザインし、ファンが名前・番号入りのものをオーダーしていたり、代表メンバーらとのコミュニティマッチを開いたりと、ワールドカップ予選という大会を皆で楽しむような光景が伝わってきていた。
とはいえ競技的には強いチームではなく試合では苦戦が予想されたが、シンガポール相手に金星といっていい勝利を収める。
あるいは、アイルランド代表は予選の予選であるワイルドカードで敗退してしまったが、その後にヨーロッパB予選で敗退してしまったアイスランド代表とのショーマッチを開催している。
上でも紹介したように、ブラジルも国内で10チームが参加するリーグ戦が行われるほど、競技シーンが再隆盛してきている。
私が画像を作ったり記事にまとめたりしているのは、「競技シーンが盛り上がって欲しいから」ではない。私が好きだからだ。
こういうのを作っていくことにより、選手やチームについて知ることができ、詳しくなり、試合観戦をより楽しむことができるようになる。
人は好きなものに対しては興味を持ち、色々なことを調べ、知識を得て、より深く熱中するようになるものだろう。
そういう意味で考えると、「やっぱりみんなeSportsってそれほど好きじゃないよね」と、そう思ってしまう。
「なんとなくやってたら見る」ぐらいのコンテンツである。こればっかりは好みの問題なので、仕方がない。
最近はサッカーや野球とかも若者人気は落ちてるし。
なんかネガティブな終わり方になってしまったが、まあ私らしくていいや。
2023/11/05 山下