ZETA DIVISIONのLCQ出場辞退について:eSportsの「プロ活動」とは
ZETA DIVISIONのVALORANT部門が、APAC LCQの出場を辞退すると発表があった。
参照:『2021 VALORANT Champions Tour – APAC ラストチャンス予選』の出場辞退に関して
https://zetadivision.com/news/2021/09/24/6388
これに対し、「見たかったけど残念。そういうことなら来年頑張ってね」という意見が多く見られたし、私もそう思っている部分はある。
しかし、私としてはもっと複雑な感情もあるし、eSportsの「プロ活動」について考えさせられることが多くあった。
本稿では、私の感想を素直に書きつつ、eSportsのプロ活動について考えたい。
批判的な主張も多いが、ZETA DIVISIONに対してというよりは、「ZETA DIVISIONがそうなってしまっているeSportsのプロシーンの考察」のような内容である。
「別にいいけど、それが許されるような環境なの?」と。
本来は様々なことについて長々と書いていたのだが、ほとんどを削って要点だけ述べることにした。
「そうじゃないんだよ」と突っ込みたくなる部分も多いかもしれないが、それもふまえたうえで、読んでいただけるとありがたい。
1.はじめは、ありえないと思った。
公式発表を雑に要約すると、「勝てないから出ません」ということだ。そんなことがありえてたまるかと思った。
この公式発表を知ったとき、私は野球の横浜対広島の試合を速報で追っていた。
横浜の先発ピッチャーは、巨人をクビになったあと横浜が拾い、なんとか1軍登板までこぎ着けた宮國。方や広島の先発は、怪我明けとはいえエース格でタイトルも複数獲得経験のある大瀬良。
普通に考えれば横浜の分は悪いし、実際に負けた。しかし、「勝てないから投げません」「勝てないから試合しません」なんてものはありえない。
もっと言えば、今シーズンの横浜ベイスターズは優勝はおろか、Aクラス(3位以内)すらも絶望的な状況がシーズン当初から続いているが、選手たちが試合をしないというのはありえないし、ファンも目の前の試合を勝利を願って応援している。
また、公式発表によるとチームの強化・再編成のために出場辞退だという。
前述の状況を鑑み、チームの強化・再編成が必要ではないかという声がチーム内より挙がっておりました。
そのため、『VCT Stage3』の結果次第では「世界で戦えるチーム」になるべく、チームの再編成を行うことを『VCT Stage2』終了時点で選手・コーチ・運営陣含めた総意として決定しました。 (上記公式発表より)
「勝てなかったからチームの強化・再編成を行います」「チームの強化・再編成を行うから出場を辞退します」も、ありえないと思った。
競技チームとして、そして「プロ」として、チームの強化なんてのは当たり前のことだ。勝とうがが負けようが、チームが強くならなくていいなんてことはありえない。
やって当たり前のことを、「勝てなかったのでやります」「だから大会に出ません」とかいうのは、ありえないと思った。
2.それは、私の勝手な価値観の押し付け
公式発表を見た直後は上記のような感想を抱いたわけであるが、そんなのは私の勝手な価値観の押し付けであるとすぐに気づいた。
過去の記事でも述べたが、現在のeSportsのプロ活動というのはまだまだ黎明期であり、型が決まっているものでもない。他の競技や興行と比べて、「他がこうやってるのだからeSportsもこうでなければならない」というものでもない。
1.で述べた内容で言えば、「野球がこうなんだからVALORANTもこうあるべき」というのは間違いだ。
それぞれのタイトルで、それぞれの競技シーンを確立すればよい。
では、VALORANTの競技シーンや、ZETA DIVISION(のVALORANT部門)というチームの活動は、どういうものなのだろうか。
3.プロの競技シーンというもの
様々なことに関して8,000字くらい長文を書いていたのだが、冗長だったのでまとめることにした。
簡単に言えば、「ZETA DIVISIONというチームを応援することはできるが、VALORANTのプロシーンにリスペクトは持てない」。
過去の記事で何度も述べているのだが、私はeSportsというのはゲームを競技として楽しむことであり、「プロ」や「興行」ありきではないと思っている。
そういう意味で、Absolute時代から競技としてのeSports活動を続けている彼らにリスペクトはあるし、VALORANTにおいても一流の選手たちであると思う。
しかし、VALORANTのプロシーンが一流で、成熟しているものかというと、決してそうではないと思う。これはZETA DIVISIONの責任ではない。歴史も浅く、競技人口も少ないので、仕方がないことなのだ。
国内大会で優勝したチームが、「勝てないので次の大会には出ません、勝てなかったのでチームを強化します」という、悪く言えば、そのレベルのプロシーンだ。「プロシーンありき」ではなく、「チームありき」になっている。
仕方がないこととはいえ、プロの競技シーンとしてレベルが高いかといえば、決してそうではない。選手のプレイングスキルの話ではなく、プロリーグやプロシーンのレベルの話だ。
一つのチームとして考えるのならば、自由に活動すればいいし、来シーズンの勝利のために次の大会を辞退するという選択を尊重できなくもない。
しかし、それは一つのチームとして考えた場合だ。競技のプロシーンとして、そして日本の代表チームとしてそれで良いのかというと、私は決して良いことではないと思う。
ZETA DIVISIONというチームは、VALORANTの試合に出場しているただの一つのチームという扱いで良いのだろうか。それはチームだけでなく、プロシーン全体としてだ。
そしてチームとしても、もちろん発表にお詫びを載せないわけにもいかないのは当たり前とはいえ、
『APAC LCQ』を楽しみにして頂いておりましたファンの皆様並びにRiot Games様をはじめとする関係者の方々には多大なるご迷惑をおかけし申し訳ございません。
と、辞退することがファンやRiot Gamesに迷惑をかけることだと自覚している。
プロシーンで活動しているチームが、そして日本の代表として国際大会に出場するチームが、「勝てないから出ません」が許されるような状況は、決して成熟したプロシーンとは言えないだろう。
また、「ラストチャンス予選」とはいえ、国内大会で勝ち上がったチームのみが出場できるような試合でも出場を辞退するというのは、それに価値がないとZETAが判断したからだ。
例えば2018年のサッカーW杯ロシア大会では、アイスランドとパナマが初出場だった。善戦を見せるも、どちらも3試合で0勝だった。
しかし、W杯の予選を勝ち上がり、本戦という舞台に立つことができるのならば、勝てないから出ないというのはありえない。W杯の本戦に出場するというのは非常に価値があることだ。
ZETA DIVISIONにとっての、国内予選と「ラストチャンス予選」には、その価値がなかったということだ。それは、ZETA DIVISIONだけの責任ではない。プロシーンが成熟していないゆえだ。
はっきり言えば、国内の競技環境がそのままならば、ZETA DIVISIONが国際大会に出場できる機会は今後もいくらでもあるだろう。
今回棄権したからと言って、なんということはない。
雑にまとめると、「たんにZETA DIVISIONというチームの活動をする」ならば、ZETAの好きなようにすればいい。大会もひとつの「道具や手段」だ。
しかし、「VALORANTの競技シーンというコンテンツの成熟・発展を目指し、その中で競技活動をする」というのならば、ZETAが好きなようにできるという状況が好ましくない。ZETAのためのVCTではない。
「状況」というのは、出場辞退を許す/許さないという話ではなく、他チームのレベルや、勝ち上がることの難しさや価値、興行としての規模など、競技シーン全体についてだ。
補:「モノ」より「ヒト」の時代
昨今の、特にインターネット上の視聴興行においては、そこで行われているコンテンツを楽しむというよりは、それを行っている人を見ることを楽しむことが多くなっている。
ゲームの動画投稿や配信を行っている人は多く存在し、もちろん程度問題であり1か0かの話ではないが、極端に言えば配信者も視聴者もそのゲームやゲームプレイに大して興味がないような配信も少なくないように見受けられる。
ゲームを媒介とし、コミュニケーションをとること、コミュニケーションをとれていると勘違いすること、集団に属すること、友だちが増えたと勘違いすること。
配信や動画の、「映像のコンテンツとしての面白さ」よりは、ゲームの動画や配信を通したそういう「人のつながり」の需要と供給がある。
一部の例外はあるものの、そういうものの方が視聴興行として成功しているように感じられる。別にそこに優劣はないが。
ではeSportsのプロシーンは、どういう活動であるだろうか。
今回の件は、「たんにZETA DIVISIONというチームの活動を応援する」というのならば、「そういう意思や決定も尊重するよ」という感想を抱くかもしれない。
しかし、「VALORANTの競技シーンを楽しみ、プロシーンの視聴を楽しみ、その中ではZETAというチームを応援する」という、eSportsを一つの競技コンテンツとして考えるならば、あまりよろしくない。
ZETA DIVISIONというチームは一流であると思う。選手たちも勝利を目指して活動し、「信者」的な応援ではなく、競技の結果を評価してもらいたいと思っていることだろう。
そうであれば、やはり「たんにチームを応援する・信奉する」のではなく、「プロの競技シーンで競っていく様を応援できる」ような、そういう「競技コンテンツを楽しめる」ようなプロシーンが確立されるべきだと、私は思う。
私はそう思っているが、そう思っていない人たちは多い。特に、「プロゲーミングチーム」と呼ばれるチームの活動は、そうなっていないものも多い。
競技シーンの成熟でなく、チームやチームメンバーが人気が出ればいいと、YouTubeやTwitchのサブスクライバー数が増えればいいと、そういう活動を「eSports」と呼んだり、「プロゲーマー」と呼んだりするような需要も供給もある。
どういう活動をするか、どういう活動をしたいかは、それぞれ自由にすればいいと思うが。
後記:やっぱりありえないと思ってるよ
率直な感想を言えば、やっぱりありえないと思っている。このチームじゃ勝てません。チームを再編成するので今のチームで試合をしません。と。
しかし、ここに批判をいくらでも書くことはできるが、そんなものは私も読者もあまりいい気分になるものではないので、やめることにした。
私だって、ZETA DIVISIONを応援したい、試合を観戦したいという気持ちが強いのだ。だからこそ、こんな記事を書いた。
本来はもっとたくさんの、深く詳細な批判も擁護も、考察すべき点もたくさんあるが、結局は私はただの視聴者の一人であり、素人だ。あまり多くを語っても無意味だ。
ともあれ、eSportsの競技シーンが成熟し、そこでZETA DIVISIONというチームが活躍できることを願っている。
2021/09/25 山下