【OW2:コラム】我々はナメクジブラザーズから何を学ぶか
コラム。結局いつも書いてることと同じ。
ナメブラ構成の解説とかじゃないです。すいません。
◯ナメクジブラザーズ
ご存じの方が多いと思うが、一応解説。
ナメクジブラザーズとはチーム名で、オーバーウォッチの競技シーン「OWCS」の日本リーグに出場しているチーム。ロスターは以下のとおり。
タンク:Nozl
ダメージ:CC2、Bambie
サポート:Basabasa、Jisoo、Menhera
(※OWCS Stage1 時点。)
グループステージは7位、続くLCQを勝ち上がりプレーオフにも進出。
現在の日本において、間違いなく有力チームの一つであると言っていいだろう。
最大の特徴は使用ヒーロー・構成で、ロードホッグ・ハンゾー・エコー・ライフウィーバー・ゼニヤッタをはじめとしたオフメタのヒーローたちを駆使することが多い。
異質なチーム名・ロゴ・構成によりたちまち話題になり、日本だけでなく外国の視聴者にも大きなインパクトを与え、海外向け配信のコメント欄でも「Crazy」「미친」「Crazy Namekuji」など様々なコメントが寄せられた。
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そんなナメクジブラザーズであるが、それを見て我々は何を感じ、何を学ぶことができるだろうか。
「変なチームが変なことやってて草」で、終わらせてはいけない。
◯メタとオフメタ
いわゆるメタと呼ばれるような、多くのチームが採用するヒーローや構成がある。
もちろん若干のバリエーションがあったり、ピンポイントでアンチピックを返すようなこともあるが、競技シーンでは概ねどのチームも同じような構成になる場合が多い。
とはいえ、やはり多くの競技シーンではメタに従わないような、いわゆるオフメタの構成を採用するチームも、多くはないが決して珍しいことではない。
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さて、メタの話と「ナメクジブラザーズから何を学ぶか」ということであれば、「オフメタでも勝てるんだ」というような主張をするようにも思える。
それは間違ってはいないが、別にそれはナメクジブラザーズから学ぶことじゃあない。
今までもさんざんあったんだ。オフメタが勝つことなんて。
◇過去のオフメタを振り返る
オフメタといえばやはりLondon Spitfire。ラインハルト構成を得意とする。
2023年のOWL・プレーオフにも進出し、優勝候補のAtlanta Reignを3-0で破っている。
ラインハルトつながりなら、元トッププロ・フィンランド代表のLhCloudyが所属するSrPeakCheckもラインハルト構成を好んで使っていた。
あるいは、その大会でSrPeakCheckと対戦したTeam Pepsは、ライフウィーバーを用いてラインハルトラッシュに対抗していた。
2023年のワールドカップではシグマを主体としたラッシュ・ポーク系の構成が多かったが、中国代表は得意なダイブ系を採用。
もっと遡れば、2019年のワールドカップ・アメリカ対韓国。
アメリカはラインハルト・ゲンジ・シンメトラを用い、ネパールのビレッジを勝利する。
これらのように、オフメタが活躍することは珍しいことではない。
あまりにも弱くシナジーがないヒーローたちで固めているわけではなく、メタの中心ではないというだけで、構成や戦術がしっかりとしていればいいのだ。
さて、ここまでのオフメタの話は上でも述べたようにナメクジブラザーズ特有の話ではない。では、ナメクジブラザーズはこれらと何が違うというのだろうか。
実は、違うのはナメクジブラザーズではなく相手の方だ。
◯ナメクジミラー
OWCS JAPANのナメクジブラザーズと上述のようなオフメタ構成の決定的な違いとして、相手もナメブラ構成を仕掛けてくることがあったという点だ。
これらのミラーマッチでは、PANDIAとREVATI JPは勝利しINSOMNIAは敗北した。(試合全体では勝利。)
これらは何を意味するか。
単純な話で、強いほうが勝った。あるいは、勝ったほうが強い。それだけだ。
PANDIAやREVATI JPはナメクジ構成でナメクジブラザーズに勝った。
それは、両チーム・プレイヤーたちが強いからだ。特にREVATIはボール主体のKotaro選手がホッグをやっている。それで勝てるのは、Kotaro選手が強いからだ。
INSOMNIAは国内の強豪チームだが、ナメクジ構成ではナメクジブラザーズが勝利している。
それはナメクジブラザーズが強いからだ。
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競技シーンを一般プレイヤーが見て、わからない要素は非常に多い。
それは画面がゴチャゴチャしてわかりづらいという話ではなく、メタや構成、そしてプレイヤーの技量の要素だ。
先に挙げたトッププロやコンテンダーズのオフメタの試合でも、構成で勝敗が決るなんて短絡的に結論づけることはできない。
ラインハルト構成が強いのか、Hadiが強いだけなのか、あるいはLondon Spitfireの連携がいいのかはわからない。
僅差の試合は多いし、もう一度試合をすれば同じ構成だったとしてもどちらが勝つかはわからないようなものも非常に多い。
そういう試合を見て、「こういうヒーロー・構成が多く出ているんだな」という表面的な部分は把握することができる。世界はそれをメタと呼ぶのかもしれない。
ただし、そこからは根本的な部分を判断することは難しい。
表面的なヒーローや構成の部分だけから、「この構成やヒーローが強いんだ」と判断するのは軽率だ。
スクリムをやっている選手たちやコーチたちならともかく、表面的な部分だけを見て一般人が判断するのは不十分な場合が多い。
ナメクジブラザーズ、そしてナメクジミラーの試合からもわかるように、強いのは・勝つのはヒーローや構成ではなく、選手やチームの技量に依るはずだ。
OWCS JAPAN、ナメクジブラザーズ、そしてナメクジミラーの試合は、そういう根本的な要素を再認識させてくれるものである。
◯プレイヤー主体主義
過去の記事でも何度か述べているが、私は『ヒーロー主体主義』ではなく、『プレイヤー主体主義』であるべきだと思っている。
OWはキャラを選べば自動戦闘してくれるソシャゲではない。プレイヤーがプレイすることにより、その技量の優劣でゲームの勝敗は決まるんだ。
先に述べたように、ナメクジミラーでもPANDIAやREVATIは強いから勝つ。
ナメクジブラザーズも、レギュラーシーズンではNyam Gamingや隼Gaimingに勝利し、LCQではArise Projectに一度は0-3で敗北するも、Lower Finalでは3-2で勝利しプレーオフ進出を決めている。
また、ナメクジブラザーズはヒーローを固定しているわけではない。
基本的なコンセプトはあるだろうが、状況によってヒーロー・構成を使い分けている。
特にBAMBIE選手はエコーだけでなくトレーサーでも非常に活躍したし、Nozl選手はホッグだけでなくドゥームフィスト、あるいはJQやオリーサも使って活躍している。
他の選手たちも同様に、特定のヒーローしか使わない・使えないわけではない。
これは、単にナメクジ構成が強いとか弱いとかそういう話ではないことを 意味する。
彼らはナメクジ構成以外でも強いのだ。
特にプレーオフ進出を決めたArise Project戦では、非常に多くのヒーローが用いられた。
一つのチームが一試合でこれほど様々なヒーロー・構成を使うのは非常に珍しい。そして、その上で勝利を収めた。
レギュラーシーズンとLCQ1回戦ではともに0-3で負けているチームに対して勝利できたのは、単にナメクジ構成・ヒーローが強いとか弱いとかいう話ではなく、ナメクジブラザーズというチームが、そしてそれぞれの選手たちの能力・成長性・対応力によるものだ。
そして上にも書いたが、PANDIAやREVATIはチーム・選手たちの能力により、ナメクジミラーでも勝てるのだ。
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ただし、もちろんヒーローや構成の要素は小さいわけではない。
現にナメクジブラザーズもヒーローや構成をよく変えているし、他のチームでも構成によって試合の展開や結果が変わるのは言うまでもない。
だがそれは、チームやプレイヤーのプレイングが前提だ。
そのチームが・そのプレイヤーが、そのヒーローや構成を使ったうえでどうか、という話だ。
プレイなしにヒーローや構成に優劣はつかない。AI戦やゲームの理論値を語るのなら、それでいいかもしれないが。
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プレイヤーの上手さというのは、もちろんヒーローの練度だけの話ではない。
もっと本質的な、オーバーウォッチ自体の上手さ・理解度の話でもある。
最もわかりやすいのはエイムだ。
もちろんヒーローに依って違いはあるが、エイムがいいプレイヤーは多くのヒーローでエイムがいいのは当然だし、逆もまた然りだ。
エイム以外でも、例えば後ろの方でヒールするだけのサポートならば、いくらルシオやモイラが強いと言われていようと、それらのヒーローを使いこなすことはできないだろう。
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◇Danteh
アメリカにDantehというプレイヤーがいる。ワールドカップのアメリカ代表にもサブメンバーとして選ばれていた。
世界トップリーグのOWLに長年在籍していた選手で、執筆時点ではLuminosity Gamingに所属、OWCSのNA地域・Stage1では4位だった。
彼は、もともとダメージロールのプレイヤーだった。
トップリーグでは、トレーサー・ソンブラ・メイ・エコー等をプレイする機会が多かった。
しかしOW2になり環境が変わったこと、タンクに変更になったドゥームフィストや、ジャンカークイーンといったダメージロールのようなヒーローがメタであったこともあり、そのままタンクに転向した。
メタが変わって厳しい時期もあったものの、次第にタンクに順応していき、多くのヒーローを使えるようになっていく。
そして2022年プレーオフでは優勝候補のSan Francisco Shockをも破り、堂々の3位入賞。
なぜ、これができるのか。ひとえに、Dantehが上手いからだ。
化け物揃いのリーグの中で、飛び抜けてダメージロールとして活躍していたわけではない。
それでもタンクに転向し結果を残せるのは、彼の総合的なOWの能力・成長性に依るものだ。
ただ、ダメージロールが得意ですとか、ドゥームやJQがメタだからとか、それだけの話じゃあない。
プレイヤーがヒーローをどう扱うか、さらにはどう成長していくかというのが重要なんだ。
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◇競技レベルの話でしょ
この記事で挙げてきた例は、全て上位の競技レベルの話だ。
ナメクジブラザーズもそうだし、ナメクジミラーで戦ったチーム、あるいは世界各国のオフメタ、Dantehというプレイヤー。全て上位の競技プレイヤー・チームの話だ。
だから、一般人には関係ない。
しかし、関係ないからこそプレイヤー主体主義が重要なんだ。
上位の競技レベルの話が一般人に関係あるんだったら、一般人でも構成が・メタがーーーという話になる。
しかし、関係ないんだ。だからこそ考えるべきは、それぞれのプレイヤーの能力にほかならない。
それぞれのプレイヤーが、何をするか・何ができるかが最も重要なはずだ。
特に、上位・競技プレイヤーよりは一般プレイヤーのほうが使用できるヒーロー・対応できる状況も少ないだろう。
だからこそ、それぞれのプレイヤーが何ができて何ができないのか、何ができるようになるべきなのかは異なる。
一般論的な正解に意味がある場合もあるだろうが、それはほんの僅かなレアケースでしかないと思う。
◇ヒーローの強弱
したがって極論を言えば、私はヒーローに強弱なんてないと思っている。
流石に極論だし誤解を生むような表現ではあるけども。
もう少し正確に言えば、「ヒーローには様々な特徴や数値があり、それらを総合的に判断し、それに対して(ある観点から)強い・弱いという評価をつけてもいいけども、それだけでパフォーマンスや試合の結果が決まるわけではなく、結局はプレイヤーのプレイング次第だ」と。当然のことだけども。
もちろん調整によって、私でも「強い・弱い」と表現するような場合はある。別にそこにこだわってるわけじゃない。
だが、それはほんの一部でしかないと思う。結局はプレイヤー・チームが使えるかどうかだ。
それにはもちろん、相手に対処されるかどうかという話も含まれる。「あるヒーローやある戦術に弱い」というのなら、それをされなければ活躍できる。
OW2が始まったころ、ザリアが強いと言われていた。が、私のザリアの勝率は27%だった。私が下手なだけにほかならない。
シーズン8までは、モイラが弱いと言われていた。私のモイラの勝率は63%だった。
私が上手かったからではなく、強いと言われていたアナやキリコを使えていないプレイヤーよりは試合に貢献できていたというだけの話だ。
あるいは、私はほぼタンク専でサポートはやってなかったので、レートが低かった。
だから勝てたというだけの話。もちろんレートが上がると勝てなくなる。
自分が上手ければ勝ち、下手なら負ける。当然。
ヒーローは関係ないと言いたいわけではない。そのヒーローをプレイヤーがどう使えるかが重要なんだ。
◇Tier表
みんな大好きTier表。
文句ばっか言ってるのも疲れたし、別に好きにすればいいと思うんだけど、あえて言うなら強弱の表にしなくていいと思う。
日本でも多くの方が動画や配信でTier表を発表されている。それらは殆どの場合、非常に参考になるものだ。表ではなく、語られている具体的な内容が。
このヒーローにはどのヒーローで対処すればいいか、アビリティをどのように使えばいいか、味方との相性・連携はどうか。
そのような具体的な内容は、参考になるものだ。
しかし、それを主に汎用性を基準に、強弱の表にする必要はないと思う。
あるヒーローに対してAティアだのBティアだのの区分をしても、あるいは区分されているのを見ても、何が変わるわけでもない。
プレイヤーの要素を抜きにしてヒーローの相性だけ考えても、それは結局条件付きなものだ。
このマップでは強い、このヒーローに対しては弱い、味方のピックに依って変わる、等。
それらを、主に汎用性という基準でTierがつけられていることは多いが、それは条件付きであることを忘れてはいけない。
マップ・ヒーロー・味方のピック等によって有用度は変わるのだから、それをしっかり理解しなければならない。
シーズン9の調整・Tier表においては、「トレーサーが強いから」という前提はあると思う。それは別にいい。トレーサーはいつだって強いよ。
その条件のTier表なんだったら、マッチにトレーサーがいないんだったらそれらは崩壊することになる。
オーバーウォッチは試合中にヒーローを変えることが出来るゲームなんだ。適切なヒーローに変えればいいだけの話だ。
「今の環境ではーー」という表現が使われることがある。その試合の味方や相手がその環境と呼ばれるものに合致しているなら、そのまま続ければいい。
そうなのだから、環境と違っているんだったら、変えればいい。
ヒーローの強弱は無条件に定まるものではない。Tier表だって様々な条件によってランク付けがされているのだ。
だったらその条件が、今の試合で・あるいは自分の技量でどうなっているかを考慮に入れなければ、ヒーローの強い弱いの話はできない。
相対的な強弱だけでなく、絶対的なヒーローの性能を引き出せるかどうかも、結局はプレイヤーによる。
もちろん相手プレイヤー次第でもある。相手に対処されないんだったら存分に暴れられるんだ。
私は最近、ラインハルトをよく使っている。「今弱いと言われている」。知らんがな。
なんならパライソやドラドでも出した。勝ったよ。
ラインハルトが強いか弱いかと問われれば、私も弱いと答えるよ。
そして、「Tier表で下の方にランク付けされるラインハルトでも勝てる」と言いたいわけじゃあない。
『私が』ラインハルトを使って勝った。それだけの話だ。
ラインハルト以外でも、私は高台マップでベタ足タンクを使うことは珍しいことではない。歩いて登ればいい。
『私が』そういう運用をする。しないこともある。それだけの話。
トレーサーやルシオが最近のTier表だと上にランク付けされていることは多い。
『私が』トレーサーやルシオやっていい?負けるよ?
◯結
ナメクジブラザーズの話からかなり逸れてしまったが、まとめ。
「ナメクジブラザーズから何を学ぶか」という話だった。
「オフメタでも勝てる」なんてのはナメブラから学ぶことじゃない。過去の競技シーンでもだし、一般の野良マッチだってそうだ。
上位レートでないならガチガチのメタ構成なんて殆ど出ないし、メタヒーロー出してたら勝てるってもんでもない。
自分が得意な・勝てるヒーローを使えばいい。私はラインハルトを出して勝つさ。
過去の競技シーンと異なり、OWCSにおいてはナメクジミラーが何度か発生している。ここが重要な点だ。PANDIAとREVATIは勝利し、INSOMNIAは敗北した。
もちろん様々な要素があるが、それはヒーローや構成が強い弱いというだけの話じゃあないということを再確認させてくれるものだ。
さらに、ナメクジブラザーズはナメクジ構成以外も使用し、そして勝利しプレーオフにも進出している。
勝った者が強いんだ。選手たちの強さというのは、単にヒーローがどうこうの問題だけじゃあない。
それはKotaro選手がホッグで勝利したことからもうかがえる。
OWCSにおけるナメクジブラザーズ・そしてナメブラと戦ったチームからは、プレイヤー主体主義の考え方の重要性を学べるものだと、私は思う。
オーバーウォッチはプレイヤーがプレイするゲームなんだ。
自分でプレイするにしろ観戦するにしろ、プレイヤーという観点を忘れてはならないだろう。
補足・注
「Tier表なんて気にせず好きなヒーロー使おう!」とか言ってるわけじゃない。「どのヒーローでも勝てるぞ!」とか言ってるわけでもない。もちろん「アンチピックしなくていい」でもない。
それらの考え方自体が、ヒーロー主体主義だ。
上でラインハルト出して勝ったと書いてるけど、だからラインハルトは強いんだとか、ラインハルト出していいんだとか、そういうことをいいたいわけではない。
そもそも「強い」とか「出していい」とか、そんな話がくだらない。
ヒーローってのは非常に重要な要素だ。
ただ、「試合中に現れるヒーローのはたらき」というのは、プレイヤーによってもたらされるものだということを忘れてはならない。
それは自分でプレイする場合でもだし、観戦する場合においても。
2024/03/30 デ・カイパー志熊