Jリーグクラブの財務シナリオ予測
先週からブンデスリーガが再開し、Jリーグでも全体練習を再開するクラブが出てくるなど、サッカー界は前に向かって進み始めています。ただし、再開後も無観客試合が想定されるため、資金面で苦労するクラブが出てくるかと思います。
そんな状況に対して2020年4月15日、Jリーグは「リーグ戦安定開催融資規程」についての時限的特例措置の制定を決定しました。内容は、限度額が「J1:3.5億、J2:1.5億、J3:0.3億」、無担保で返済期間が3年間というものです。
では、実際にどれくらいのクラブが債務超過に陥る可能性があるのでしょうか。2019年度の経営情報が全クラブ揃っていないため、2018年度の情報(下記リンク)をもとに試算してみたいと思います。
Jクラブ個別経営情報開示資料(平成30年度)
https://www.jleague.jp/docs/aboutj/club-h30kaiji_3.pdf
はじめに
本記事では複雑な想定はしておらず、下記の条件でシナリオ予測を行っていきます。
・「入場料収入」だけを変数とし、それ以外(スポンサー収入などのその他収入や、営業費用、等)は変わらないと仮定
・「入場料収入」が25%減、50%減、100%減の3パターンを試算
・対象は、2018年シーズンにJ1およびJ2に所属している40クラブ
・ここでの言葉の定義は、「赤字:当期純利益がマイナス」、「債務超過:純資産がマイナス」
2018年の実績
2018年の実績を見ると、赤字となっているのは下記8クラブで、債務超過に陥っているクラブはありません。開幕から27周年を迎え、J1・J2を通して健全な経営環境になりつつあることがこちらからもわかるかと思います。
・サンフレッチェ広島(J1)
・北海道コンサドーレ札幌(J1)
・清水エスパルス(J1)
・ベガルタ仙台(J1)
・サガン鳥栖(J1)
・FC町田ゼルビア(J2)
・レノファ山口(J2)
・アルビレックス新潟(J2)
【最良シナリオ】入場料収入25%減
まず初めに、入場料収入が25%減った場合で考えてみます。単純にホーム試合数で割ると、最初の約4試合を無観客で行い、その後は通常通り行うシナリオとなります。7月再開だとすると8~9月には元に戻るということになるので、あまり現実的ではないかなと個人的には思います。
ではこの場合、赤字となるクラブはどれくらいになるでしょうか?
計算してみると、25%減シナリオでもなんと34クラブが赤字になってしまいます。それだけ、入場料収入への依存度が高いということになります。ちなみに、黒字を維持できるクラブは下記6クラブです。
・川崎フロンターレ(J1)
・鹿島アントラーズ(J1)
・ヴィッセル神戸(J1)
・徳島ヴォルティス(J2)
・京都サンガF.C.(J2)
・FC岐阜(J2)
次に、より重要な指標となる債務超過です。25%減シナリオで債務超過に陥るクラブは9クラブとなります。
・セレッソ大阪(J1)
・清水エスパルス(J1)
・横浜F・マリノス(J1)
・湘南ベルマーレ(J1)
・サガン鳥栖(J1)
・横浜FC(J2)
・大宮アルディージャ(J2)
・東京ヴェルディ(J2)
・レノファ山口FC(J2)
先日、サガン鳥栖の2019年度決算報告で、2期連続の赤字となったものの、株主による第三者割当増資を行って債務超過は回避したというニュースが出ていましたが、かなり厳しい状況であることは間違いないと思います。
【現実シナリオ】入場料収入50%減
続いて、入場料収入が50%減少した場合を考えていきます。こちらは最初の約8試合を無観客とし、その後9~10月頃から徐々に観客を入れることできるシナリオになるので、順調に回復すれば十分現実味があるかと思います。
このシナリオだと、黒字を維持できるのは下記2クラブ、赤字となるのは38クラブとなります。
・ヴィッセル神戸(J1)
・FC岐阜(J2)
神戸はスポンサー収入が大きいということはもちろんありますが、その他収入の割合も大きくなっており、多角的に事業を展開できている証拠です。一方で、岐阜は昨年J3に降格したこともあり、実際は厳しい状況になることが想定されます。
次に、債務超過に陥るクラブですが、こちらは25%減シナリオから5クラブ増えて計14クラブとなります。
・セレッソ大阪(J1)
・清水エスパルス(J1)
・ガンバ大阪(J1)
・横浜F・マリノス(J1)
・湘南ベルマーレ(J1)
・サガン鳥栖(J1)
・V・ファーレン長崎(J2)
・大分トリニータ(J2)
・横浜FC(J2)
・大宮アルディージャ(J2)
・東京ヴェルディ(J2)
・レノファ山口FC(J2)
・水戸ホーリーホック(J2)
・アルビレックス新潟(J2)
※75%減シナリオも行いましたが、赤字クラブは変化なし、新たに債務超過となるクラブはロアッソ熊本(J2)だけでしたので、ここでは詳細は割愛いたします。
【最悪シナリオ】入場料収入100%減
最後に、入場料収入が100%減少した場合のシナリオを見ていきます。つまり、今年度は全試合無観客で行う想定となります。来年のオリンピック開催も危ぶまれている中、しっかり考えておいた方が良いシナリオであり、かつ十分可能性もあり得ます。
この場合で、黒字を維持できるのは、ヴィッセル神戸(J1)のみで、債務超過に陥るクラブはちょうど半数にあたる20クラブとなります。
・浦和レッズ(J1)
・セレッソ大阪(J1)
・清水エスパルス(J1)
・ガンバ大阪(J1)
・横浜F・マリノス(J1)
・湘南ベルマーレ(J1)
・サガン鳥栖(J1)
・名古屋グランパス(J1)
・V・ファーレン長崎(J2)
・大分トリニータ(J2)
・横浜FC(J2)
・大宮アルディージャ(J2)
・東京ヴェルディ(J2)
・レノファ山口FC(J2)
・ヴァンフォーレ甲府(J2)
・水戸ホーリーホック(J2)
・モンテディオ山形(J2)
・ファジアーノ岡山(J2)
・アルビレックス新潟(J2)
・ロアッソ熊本(J2)
冒頭で紹介したJリーグの支援策を見ると、この可能性も十分に考慮しての対応だと思います。それにしても、Jリーグの動きはとても早く、延期の判断や今後の指針などもコマ目に発信されており、1サポーターとして好印象を受けるとともに、これからも応援していきたいと改めて強く思うきっかけになりました。
まとめ
ここでは、「入場料収入」だけを変数としており、実際はスポンサー収入やグッズ・飲食収入も減少することが想定されます。ただ、この環境はどうしようもないことであり、既に各クラブは今できることを考え、独自の取組みを展開しています。
1人のJリーグファンとして今できることをしていきたいなと思うとともに、再開後のニューノーマルを想像しながら昔の試合を見ながら楽しみに待っています。