歌舞伎町の王城ビルに"奈落"が出現…?オーナーツアーレポート[ナラッキー/Chim↑Pom]
通っている絵画教室では、ひとり10秒で最近の出来事を話すスモールトークの時間がある。他の生徒の方が「いま話題のナラッキーに行ってきて面白かった」と発表されていて、「絵画教室に通うくらい美術感度の高い人が紹介してる展示は間違いないだろう!」ということで行ってきた。
ナラッキーとは
「Chim↑Pom from Smappa!Group」と王城ビルを所有する「大星商事株式会社」が共同で開催する「プロジェクト型展覧会」。常設アートの他、パフォーマーを招いたイベントも開催される。
舞台は新宿歌舞伎町にある「王城ビル」。見た目はまるでお城。ビルは1964年に建てられ、かつては名曲喫茶やキャバレー、カラオケで賑わっていたが、2020年3月にコロナで閉業。
コロナ禍を経て、任意団体「歌舞伎町アートセンター構想委員会」が立ち上がり、王城ビルを街に愛される交流の場にしたいという想いのもと、今回の展覧会が開催された。(詳しくはナラッキーHPで→https://www.hellonaraku.com/about)
テーマは「奈落」
王城ビルには約30年間閉ざされてきた4フロア分の吹き抜けがある。そこをChim↑Pomが「奈落」に見立てて、新作インスタレーションを設置する。
Chim↑Pom from Smappa!Groupとは…
広島の原爆や福島での震災、アメリカの移民問題などを題材にした社会メッセージ性の強いアート活動を発信している。そのパフォーマンスの過激さからたびたびメディアを騒がせることもある。
王城ビルのオーナーから直接話が聞けた!
ナラッキーにいく前日ネットで情報を調べていたら、10月の3連休にはちょうど王城ビルのオーナーによる「オーナーツアー」が開催されることを知った。ビルの歴史や展示の話などが聞けるらしい。
チケットは当日現地販売で先着8名限定。5分前に会場に到着した頃には、15人ほど列ができていたため、これは無理かなと思ったが、なんと一番乗りで予約できた。
所定の時間に集合場所で待っているとオーナーが登場。「オーナー」という言葉の響きからてっきり初老の男性が来ると思い込んでいたら、現れたのは予想以上に若い男性だった。(なんならオープン作業をされているのを見た時は、学生バイトの方だと思い込んでいた)
オーナーの方山堯(かたやまたかし)さんは祖父、叔父と引き継がれてきた王城ビルを運営している3代目で、1993年生まれ。今回のオーナーツアーは前日の深夜に眠くなりながら情報をアップしたそう。直前の告知にも関わらず、定員いっぱいの参加者が集まっていた。
まずは屋上へ
階段を登り屋上へ出る。
方山さんより、なぜこのイベントが開催するに至ったかの説明があった。
コロナ禍の休業を経て王城ビルで何かしたいと考えていた方山さん側(大星商事株式会社)と、展示の場所を探していたChim↑Pomが出会い、今回のイベントの話は動き出した。普通にホームページを見ていたら気づかないが、このイベントは大星商事株式会社とChim↑Pomの共同主催という形をとっている。
単純に展示場所としてアーティストにスペースを貸すのではなく、この場所(王城ビル)で開催する意義を持たせたいという理由から。
ツアーは基本的に方山さんが話し、進行するが、適宜参加者に呼びかけたり質問に回答するインタラクティブな形式。あんまり人数が多いと質問の仕方にも気を遣ってしまうが、参加者8名なので距離感が近く、思ったことを口に出すことに遠慮しなくても大丈夫だった。(人が多いと持ち時間を気にして、簡潔に話さなきゃとか考えてしまう)
他の参加者が、何を見て何を思っているのかを知れるのでこういうのは面白い。
屋上には桜の花びらを模したものがいくつも落ちていた。これは何かと質問すると、初日にポールダンサーのKUMIさんが行ったイベント時にまいたものだそう。風情があるなと思ったら「掃除しきれてないだけです」と方山さんが笑って答えてくれた。
「光は新宿より」という大看板。戦後何もないところから街に光を灯し闇市を始めた関東尾津組のスローガンだそう。
王城ビルのネオンの裏側も。ネオンは高価らしい。
カラオケルームへ
昔の名残のカラオケルームが今もそのまま残っている。部屋の真ん中には花道とスタンドマイクがあり、歌いたい人は誰でも無料で歌える。実際お昼から「ルパン三世」や「貴方の恋人になりたい」など、世代関係なく、ずっと誰かが歌っていた。
「はじめはみんな遠慮がちだけど、誰に指示されたわけでもなく一人が歌い始めたらそれに続くように他の人も歌い出す。気づけば仲良くなって隣の人とインスタ交換とかしたりして。そんな何が起こるかわからない、不確実な感じが歌舞伎町ぽいなと思う」と方山さん。
にんげんレストラン(王城ビル1階:無料)
死刑囚の最後の晩餐が食べられる
王城ビルの1階には入場無料の「にんげんレストラン」がある。ミュージアムカフェとして食事を提供する。
席数は20席ほど。長机の上には大きな人間のオブジェが。
提供されているものはお弁当やホットケーキ、ハンバーガーなど。一見すると普通の内容だが、
アメリカの実在の死刑囚たちが死刑執行前にオーダーしたと言われる「ラストミール」も提供されている。
オリーブ1粒で1,200円!なんて、歌舞伎町価格!と思った方も安心してほしい。
テレサ・ルイス(保険金殺人)の「フライドチキン、豆、パイ」やジェームズポールジェニーガン(強盗殺人)の「フライドポテト、チーズバーガー2個」など、ちゃんとお腹にたまるメニューもある。
来場者の角質を食べたドクターフィッシュを食べよう!
にんげんレストランで一番インパクトがあったのが「ドクターフィッシュのコキール」。思わずメニューを二度見してしまった。
(コキールとはグラタンのようなもので、本来は、貝の中身をホワイトソースであえて、再度貝殻を器に見立てて中身を盛り付ける料理)
ポスターに「鮮度抜群!地下産!」とあり、まさかと思ったが、このドクターフィッシュは王城ビルの地下の水槽で来場者の角質を食べてすくすくと育っている。食う食われるの関係を表しているようです。
ビル内ですれ違った見知らぬ人の角質を食べられるチャンスはそうそうないと思うので、ぜひチャレンジしてほしい。
人の角質を食べる勇気はなかったので、美空ひばりが愛したというホットケーキを注文した。美空ひばりのお付きの人がいつも楽屋に運んでいたらしい。
王城ビルのこれから
コロナ禍で3年の休業を余儀なくされた王城ビル。オーナーの方山さんが生まれる前、王城ビルでは火災があったらしい。方山さんは現場に駆けつけた妊婦のお母様のお腹越しに火災を経験したことになる。そのビルを今こうやって運営していることに、運命のような宿命のようなものを感じますと話されていた。
これからも王城ビルは面白いことを作っていくんだろうなあ。今から楽しみです。
おまけ:「奈落ッキー」ちゃん写真集
展示会の概要
王城ビルホームページ: www.hellonaraku.com