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雑誌を作っていたころ019

新企画

14 新企画
「おとこの遊び専科」は快進撃を続け、部数も安定してきた。すると、誌面にマンネリズムの影が差すようになってきた。

読者というのは敏感なもので、ちょっとでもこちらが手を抜くと、てきめんに実売率に跳ね返ってくる。ぼくは毎晩、編集長と飲みながら打開策を練った。

「こんなのはできないだろうか」
と、ある日編集長が言い出した。

「きのうベッドでぼけっと寝そべっていたら、天井のシミが女の子のヌードに見えてきたんだよ。で、思ったんだけど『等身大のヌードポスター』とかがあったら、彼女のいない男が天井に貼って楽しむんじゃないか」

等身大ということは、天地1.7mの印刷物だ。撮影はなんとかできるとして、問題は製版と印刷。駅貼りポスターの大きさを考えれば、不可能ではないかもしれないが、コストがどのくらいかかるか想像もつかない。
しかし今までに見たことのないものができたら、きっと話題になるだろう。

「明日、学研の生産管理部に聞いてみます。ほかの出版社にできなくても、学研ならできるかもしれません」
ぼくはそう答えた。

翌日、上池台の学研本社を訪ねた。生産管理の人たちには、いつも社の駐車場を貸してあげているし、ぼくが特殊印刷や製本工程のことに興味を持って聞きに行くので、みんな顔なじみだ。

「山ちゃん、今日は何の用事?」
「あ、中右さん。じつは編集長が等身大ポスターを付録にしたいと言い始めたんで、可能かどうか聞きに来たんです」

「あー、等身大ね。たぶんできるけど、付録はむずかしいよ」
「どうしてですか?」
「折らないと雑誌付録にならないでしょ。等身大のでかいコート紙をA4に折ったら、たぶん割れちゃうよ。折る機械もないし」

「なるほど。そこまで考えていませんでした」
「業者に聞いてみるけど、あまり期待しないでね。あと、販売局にもひと声かけておいたほうがいいよ。やることになったら、結束だの梱包だので大騒ぎになるから。それに、取次がOKするかどうかわからないでしょ」
「わかりました。お願いします」

その足で販売局の雑誌販売部を訪ねた。ちょうど懇意にしている沢田次長がいた。
「山崎くん、やったね。『おとこの遊び専科』、いい感じじゃない」
「その件なんですけど、マンネリになる前に手を打ちたいと編集長が」

「いいことだよ。次々に新しい手を打つ。やっぱり勢いのある雑誌は違うね」
「等身大のヌードポスターを付録にしたいんです」
「おいおい、巻物はつけられないよ」
「折る方向で考えているんですけど」
「できるのかなあ。生管は何て?」

「中右さんは、折る業者を探してくれるそうです」
「でも、綴じこめないだろう?」
「そうですね。たぶん無理でしょう」

「可能性が見えたら、教えてよ。取次と相談するから」
「よろしくお願いします」
実現の可能性は、あまり高くなさそうに思われた。

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