どーなっつてるの、この星は?
宇宙のどこか、地球によく似た惑星の北半球に、「どーなっつ島」はあります。
まるいどーなっつの形をしたこの島には、山あり、海あり、滝あり、湖あり、とても自然に恵まれたユートピアで、そこでは子どもたちが歌ったり踊ったり、毎日を楽しく遊んで過ごしています。
そのどーなっつ島の内側にいる限りにおいて、楽しく遊ぶ毎日はサステナブルに続きます。
どーなっつ島のバウンダリー内で暮らしているということは、SDGsの目標を達成しているということを意味しているのです。
イギリスの経済学者ケイト・ラワースは、2012年に発表した論文『人類にとって安全で公正な空間』で、どーなっつ島の経済モデルを提案しました。
2017年に出版された『Doughnut Economics: Seven Ways to Think Like a 21st-Century Economistドーナツ経済学:21世紀の経済学者として考える7つの方法』では、「ドーナツ経済学」という概念と、21世紀に適した経済学を展開するために必要な7つの洞察力を詳しく論じ、従来の成長至上主義や市場原理主義に代わる、よりバランスの取れた視点を提示しています。
ドーナツの形は、社会的基盤と環境的限界という二つの要素によって定義される、経済活動の在りうべき理想的な領域を表しています。
ドーナツの「穴」の中は、エネルギーや水、食料、住宅、健康など、人々が暮らす上で必須のものが不足している状態を意味します。
社会的な生活の土台部分がドーナツの内側の縁で、そこから穴の中に落ちてしまえば、人間としての生活が成り立ちません。
ドーナツの外側の縁は自然環境が自律的に循環できる上限を表し、この境界を過ぎてしまえば地球の環境は不可逆的に変化してしまいます。
内側の縁と外側の縁に囲まれた食べられるドーナツの部分が、われわれが現在の生活を維持していける範囲です。
調子に乗ってはしゃぎ過ぎ、「どーなっつ島」の縁から落ちて湖の底に沈んだり、不用意に外海に出て波にさらわれたりしないよう、島の上の暮らしをみんなで守っていこうというのがラワースの提案なのです。
どーなっつ島の中心には「はぴねす湖」という湖がありますが、ラワースの示した図によれば、そこに投げ込まれた数十億もの人々が、今この時にも岸辺に向かって、冷たい水を掻き分け続けています。
食糧、エネルギー、教育、医療、上水道、衛生設備、人間にふさわしい住居、最低限の所得と人間らしい仕事、情報通信と社会的な支援のネットワーク、さらには男女の平等、社会的平等、政治的発言力、平和や正義という、人間としての生活の社会的土台を、その足で踏み締めることを求めてもがいているのです。
SDGsの17の目標では、2030年までに、誰一人として残さず、湖の中でもがく人々を湖岸に引き上げようとしています。
一方「のびのビーチ」など9つのビーチの外側に目を向けると、一度踏み込んだら自力では戻って来られない、大時化の外洋が広がっています。
そして人類はすでに、9箇所のうち4箇所で荒海に足を踏み出してしまっているといいます。
4万年前丸木舟で黒潮に乗って外洋へと旅立った、スンダランドの旧石器時代人と同じく、波に飲み込まれた彼らは、生まれ育った「どーなっつ島」へは2度と戻ることはできないでしょう。
なぜならその後大津波に飲まれて海中に消えたスンダランドのように、以前の「どーなっつ島」の姿はなくなってしまうからです。
地球上で人類が生存できる安全な活動領域とその限界点を、プラネタリー・バウンダリー(惑星限界)と言います。
ストックホルム・レジリエンス・センター所長で環境学者のヨハン・ロックストロームらは、人間の生き残りに不可欠な9つの「地球生存支援システム」を特定し、その限界と現状を評価しました。
その結果、「気候変動」「生物多様性」「生物地球化学的循環(窒素・リン)」「土地利用の変化」の4プロセスが、2014年時点ですでに限界を超えてしまっているということが判明したのです。
自律的に蘇生できる範囲を逸脱してしまったプロセスは、もう元の状態に戻ることはありません。
ドーナツ経済学はプラネタリー・バウンダリーという「地球の限界」と、「社会の存立基盤」とを組み合わせた概念です。
外側と内側のそれぞれの縁の中のスペースで活動することが、人類にとって持続可能な枠組みなのだということです。
まるいドーナツの中で暮らしていくためには、これまでのような「直線型経済」から、「循環型経済」へ転換するしかありません。
分断的で非環境再生的な経済を、分配的で循環再生的な経済に設計し直すことで、わたしたちは「成長」よりも「繁栄」できる社会を築こうとし始めるだろうとラワースは述べています。
みど、ふぁど、れっしー、空男たちのように、どーなっつの中で、歌を歌いながら「成長」せずとも「繁栄」「発展」する暮らしを続けていきたいと願います。
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