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コラボレーティブ・コモンズ

経済社会理論家のジェレミー・リフキンは、「限界費用ゼロ」の経済が急速に拡大し、わたしたちが生きていく上で必要な商品やサービスは、ほぼ無料で入手できるようになるになるだろうと予測しています。
市場経済の下で活動しているすべての企業は、技術革新を通じて生産性を向上させ、製品一個あたりを生産する限界費用を削減することで価格を下げ、競合他社との競争に勝ち抜こうという強い意志を持っています。
手工業の工房を組み立てラインに置き換え、組み立てラインの作業員をロボットに置き換えることで、生産単価を極限まで下げようと努力し続けています。
そうした努力の結果として、生産性が最高度に上がれば、限界費用は限りなくゼロに近づいていき、最終的には商品自体が無料となるというのです。
 
わたしたちのまわりを見渡せば、すでにあちらこちらに無料化したモノゴトが見つかるでしょう。
無料ブラウザで検索すればあらゆる情報を検索できますし、YouTubeで動画はいくらでも無料で観られ、通話も無料アプリで世界中と繋がります。
また無料ではないとしても、サブスクリプションという販売形態が一般的になっているということは、一個あたりや一回あたりの限界価格が、限りなくゼロに近づいているということを物語っています。
 
ところが現代の資本主義経済システムは、「フリーランチは存在しない」ということを前提に成り立っています。
もし商品やサービスがすべて無料になれば売上が立たず、利益を求める営利企業は存続することができなくなります。
利益が入らない企業に対しては資本家たちが投資することもなくなり、資本主義経済システムそのものも崩壊することになるでしょう。
資本主義はそこに参画するプレイヤーたちの弛まぬ努力の結果として、必然的に自らに幕を下ろすことになるのです。
 
資本主義が終焉し、限界費用ゼロ社会が実現するとどうなるのでしょう?
リフキンは、「コラボレーティブ・コモンズ」の時代になると述べています。
市場からネットワークへ、交換から循環へ、所有権からアクセス権へ、生産力から再生力へ、売り手/買い手から提供者/利用者のネットワークへ・・。
あらゆる面で大きな変革が生じ、コモンズ(共有財)によって駆動する共有型経済が生まれると、リフキンは言います。
 
コモンズとは本来草原や森林、牧草地、漁場などの共同資源や共同管理制度のことをいいました。
イギリスでは古くからコモンズが公衆に解放され、レクリエーションの場として親しまれてきましたが、19世紀には都市化・工業化によるオープン・スペースの破壊に対してコモンズ保全運動が起こり、ナショナル・トラストもその過程から生まれています。
日本でも江戸期以前から「入会 いりあい」というコモンズ制度があり、里地里山を「入会地」として、「入会権」を持った地域住民たちで共同管理する仕組みがありました。
 
生態学者のギャレット・ハーディンは、1968年『コモンズの悲劇』という論文の中で、共有の放牧地では参加者全員が利益追求のために放牧頭数を増やす行動に出るため、放牧地は荒廃して崩壊してしまうと指摘し、この「悲劇」を避けるには、ソ連邦のような完全に公的な管理(国有化)か、英米型資本主義のような完全に私的な管理(私有化)しかないと結論づけました。
それに対して法学者のキャロル・ローズは、1986年『コモンズの喜劇』で、コモンズがコミュニティの慣習によって厳然と統治されてきた事実に光を当て、コミュニティによる自己管理がコモンズを持続可能にし得ると、国有化でも私有化でもない「第3の道」を説いています。
ローズの研究は、経済学者エリノア・オストロムによって引き継がれ、彼女はコモンズの研究により2009年、女性初のノーベル経済学賞受賞者となりました。
 
近年では地域レベルで管理する「ローカル・コモンズ」に加えて、地球規模の共有財としての「グローバル・コモンズ」という考え方が、国際社会において一般的になりつつあります。
1959年に国家間で調印された「南極条約」がきっかけとなったグローバル・コモンズという概念の対象は、大気や大地を始め、海洋、太陽、無線周波数、地球静止軌道といった、人類全体が生存していくために必要とする全領域に広がっています。
斎藤幸平は『「人新世」の資本論』で、「大地=地球を〈コモン〉として持続可能に管理することで初めて“平等で持続可能な脱成長型経済”が実現する。それこそがマルクスが晩年に目指したコミュニズム(=コモン主義)だ。」と主張しています。
 
リフキンは、限界費用ゼロの経済が実現すると資本主義は成立しなくなり、シェアの意識に基づいて共同管理するコラボレーティブ・コモンズが、社会のメインアクターになるだろうと述べています。
IoTのテクノロジー・プラットフォームがピア・トゥ・ピアのソーシャルネットワークの基盤となり、コミュニケーション・エネルギー・ロジスティクスという3つのコモンズを有機的に結びつけることになると言います。
そこでは社会関係資本が経済資本よりも遥かに重要な役割を果たし、市場が提供する営利目的の商機を超えたところに意義や自尊心を見出す若者たちが、社会的企業家として新しいキャリアを歩み出します。
1981年以降生まれのミレニアム世代の多くは、持続可能性が高く共感に溢れた共有型経済を志向しています。
地球の生命圏が自分たちの暮らすコミュニティであり、その健全性と繁栄こそがわたしたち自身の健康と未来を決定するのだということに、これからの社会を担う若い世代はすでに気がついているのです。

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