見出し画像

社会的健康のなりたち 社会的健康とは

これまで身体的健康と精神的健康についてそのなりたちを考えてきましたが、ここでもう一度、WHO憲章前文での健康の定義を振り返ってみましょう。
“Health is a state of complete physical, mental and social well-being and not merely the absence of disease or infirmity.” 
「健康とは、病気でないとか、弱っていないということではなく、肉体的にも、精神的にも、そして社会的にも、すべてが満たされた状態にあることをいいます。(日本WHO協会訳)」
身体的、精神的だけでなく、社会的にもすべてが満たされた状態であることが、健康であるためには必要である、とここでは言っています。
単に個人的な状態だけで「健康」は完結するものではなく、家族やコミュニティ、そして社会との健全なつながりによって初めて成り立つのだということです。
 
WHO欧州地域事務局 都市保健センターは、1998年に『The solid facts健康の社会的決定要因:確かな事実』を公表し、2003年には第2版を発行しました。
それによると「医療行為により寿命は伸び、重大な疾病の予後も改善された一方で、人々の健康に関して一層重要なことは、人々が病気になり医療が必要となるような社会経済環境そのものである。」
また「健康格差は重大な社会的不平等であるだけでなく、科学的見地から現代社会における健康水準に最も強く影響を与えるいくつかの要因に注目を集めるきっかけを作ってきた。」
として次の10の要因を挙げ、現状分析とそれに対する提言を行なっています。
1.社会格差
2.ストレス
3.幼少期
4.社会的排除
5.労働
6.失業
7.社会的支援
8.薬物依存
9.食品
10.交通
 
WHOは2005年、健康の公平性実現に向けて「健康の社会的決定要因に関する委員会」を立ち上げ、今後一世代で健康格差を無くそうと呼びかけました。
2008年には最終報告を提出し、そこでは世界中全ての国家と人々に向けて、国家間とそれぞれの国内における目に余る不公正を是正するための行動を促すため、次のような3つの主要勧告をしています。
1.    日常生活状況を改善する
2.    権力、資金、リソースの不公平な分配に対処する
3.    問題を測定して理解し、対策の影響を評価する
そして3つの行動原則として、
①   日常生活の状況、つまり人々が生まれ、成長し、生活して、働き、老いていく環境を改善する
②   権限、資金、リソース、つまり日常生活状況を形成する構造的な推進力となるものの不公平な分配に、国際レベル、地域レベルでそれぞれ対処する
③   問題を測定し、対処を評価し、知識基盤を拡大し、健康の社会的要因についてよく訓練された労働力を開発し、健康の社会的要因について一般の人々の認識を向上させる
を挙げ、根拠となるエビデンスを示した上で国家や地域、そして一人ひとりが「何をすべきか」という具体的行動を示しました。
 
健康はわたしたち一人ひとり個別の問題であると同時に、わたしたちが参加し作り上げている社会全体の問題でもあります。
逆にいえばもし社会の中で虐げられ、不幸な状況に押し込められ、健康を享受できない人がいるならば、それはわたしたち自身の問題でもあるということです。

わたしたち一人ひとりが広い視野のもとで健康に関する情報に正しく接し、適切な行動をとっていくことは、自分自身のために役立つだけでなく、世界中の人々の健康に対しても寄与することになります。
 
健康な社会の中でこそ、ヒトは健康になれます。
そして健康な社会を実現するために必要なリソースは、わたしたち地球人類がすでに手にしているもので十分なのです。
正しい情報と知識をもとに一人ひとりが考え方を少し変え、それを行動に移せば社会的健康は実現可能です。
この章ではそうしたことをテーマとして、エンサイクルに書いていきたいと思います。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?