「マーケターのように生きろ―「あなたが必要だ」と言われ続ける人の思考と行動」BOOKレビュー
「好きなことで生きる」が礼賛される時代にあって、
自分に特に好きなことがない、特に際立った才能や強みがないと感じる人へのあたたかいキャリア論。
井上 大輔さん著『マーケターのように生きろ―「あなたが必要だ」と言われ続ける人の思考と行動』をレビューします。
私はキャリアに関する本が好きでよく読むのですが、
大抵の読後感としてはモチベーションが上がったり、奮起したり、激し目のテンションとなることが多いです。
それはそれで好きなのですが、
この本の読後感はそうではなくて
「生まれてきたということはあなたがすでに特別だということだ」
「コンセプトなんていらない、あなたはすでに特別だ」
とJ.Y.Parkさんからエンパワーメントされたようにあたたかい気持ちになりまして、これはちょっと伝えたいということでnote画面を徐ろに開きました。笑
内容は、
アーティストのように特別な才能や強みを使って働けなくても
(そんな人は全体の中にごく一部しか存在いない)
相手からスタートし、相手に寄り添い、相手の役に立つことをゴールにしながら「マーケター」のように生きる・働くという選択肢の提案です。
マーケティングというと顧客を相手にしたビジネスの話だと思われがちですが
価値を相手に届ける、という面を考えれば相手を顧客に限る必要はなく、
企業の採用活動、大学の生徒募集、投票行為、寄附金集め・・・そのすべてにマーケティングと呼べるような活動が含まれるわけです。
井上さんが教えるマーケティング4STEPは
①市場を定義する、②価値を定義する、③価値をつくりだす、④価値を伝える。
各STEPでマーケティングの基礎知識をポイント解説してくれた後、その知識のキャリアへの生かし方を教えてくれる内容となっています。
(なのでマーケティングの勉強にもなりますよ!)
各STEPそれぞれ面白かったのですが、特に私の心に刺さった章から2つご紹介します。
まずは、②価値を定義する から。
人材の価値=実利価値という「呪い」から脱却せよ。
STEP2では、価値を以下の4つに分けて考える方法を紹介しています
・実利価値
・保証価値
・評判価値
・共感価値
飲料水ボルヴィックにあてはめた例がわかりやすいです。
実利価値(喉を潤してくれる)
保証価値(大企業で品質が安心)
評判価値(他の飲料水よりおしゃれに見られる)
共感価値(社会貢献しているブランド)。
そして、人材としての自分の価値にも4つの価値が適用できる。
バリバリ契約を取ってくる人材が実利価値ならば、
カスタマーサポートでお客さんに神対応を行う人材は評判価値や共感価値に当てはまります。
「完全実力主義」や「成果主義」というのは、ある意味で「呪い」です。
「完全実力主義」や「成果主義」というのは、
上記4つの価値の中で、実利価値のみを評価しますよという主義と言えます。
しかし、人が職場で発揮する価値にはいろいろなバリエーションがあるはずだと井上さんは言います。
確かに自社を振り返ってみると、数字では評価できなくても、
カスタマーサポートとして会社の顔となり「評判価値」や「共感価値」をもたらしてくれる人材は、組織にとって得難い存在であることは間違いありません。
彼/彼女たちは、自分の価値をちゃんと評価できているだろうか。
また、周りはその価値を、ちゃんと本人たちに伝えているだろうか。
皆さん自身が自分で購入する商品に多様な価値を認めるように、企業も皆さんに多様な価値を認め始めています。
人材の価値=実利価値という「呪い」から脱却できていないのは、実は企業ではなく皆さん自身なのかもしれません。
自分自身や同僚、上司の人材価値を4つの視点から評価してみると、どの人もそれぞれ多様な仕方で組織に貢献しているんだなと実感できると思います。
「嫌なこと」から逃げてもいいけど「心地が悪いこと」から逃げてはいけない
次に、STEP4価値を伝える から。
この章では、先ほどのSTEP2を踏まえた上で
それでも自分自身の価値を相手に届けることから逃げてはいけないんだよということを教えてくれています。
グローバル企業で出世するためのPIEの法則というものが紹介されており
それによると
Perfomance(仕事の実力):1
Image(印象):3
Exposure(どれだけ目立っているか):6
この割合は、
コツコツやっていれば誰かが見ていてくれて、いつの日か分かってくれる・拾い上げてくれるという職人気質の人には受け入れがたいかもしれません。
ですが、「選ぶ側」の視点に立って考えてみると
100人の部下の評価をしなければいけない立場の人にとって、その100人の実力をつぶさに把握して、公平な基準で横並びに評価するのは現実的に難しい。
ドラッグストアの棚に何十種類もあるシャンプーを選ぶ消費者と一緒なのです。
そして、その価値を届ける作業がマーケティング。
(届ける方法は本を読んでくださいね!)
どんなに優れた価値を持った商品やサービスでも、そもそも覚えられていなければ検討のテーブルにも上がれません。
これと同じことが社内の人事考課にも当てはまるということです。
自分の価値を届けるためには「自分をアピールする」ことが必要で、それは義務ですらある。
「価値のあるものの作り手が、その価値をお客さんのところにまで届ける努力をすることは義務とも言える。」という言葉はとても心に深く刺さりました。
キャリアも一緒。
自分自身が、お店の影でひっそりとお客さんに選ばれるのを待っている性能の良い地味なシャンプーになっていないかな?と振り返るきっかけになりました。
自己アピールに抵抗がある人のためには、このぐうの音も出ない一言を。
「嫌なこと」から逃げてもいいけど「心地が悪いこと」から逃げてはいけない。コンフォータブルゾーンから抜け出して心地が悪い領域に踏み出すことで、やがてそこを新しいコンフォータブルゾーンにしていくことができるから。これが成長の正体。
自我を抑えることで、逆に輝き始める
最後になりますが、
現在もソフトバンクの広告部門で働いている著者の井上さんが
ミュージシャンを夢見て自己主張しまくっていた暗黒時代を経て、
自己主張や自我を抑えて相手からスタートする「マーケター思考」を身につけて成功していかれたという歴史を持つからこそ言える
「自我を抑えることで、逆に輝き始める人もいる。」
という言葉は、自己主張の苦手な多くの人を救う言葉だなぁと思いました。
ちなみに私は自我を通しがちなタイプの人間なので、
私のような人間にとってこの本は、
「相手からスタートする」という考え方を教えてくれることで、周りや社会と上手くやっていける助けとなりました。これからは少し、バランスが良くなるような気がします!
ということで短いですが印象に残ったところを書き残してみました。
気になった方、ぜひご一読くださいね。
山崎 梨紗
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