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年金追納に行ったときの話(1)

ある日、一枚の手紙が届いた。

日本年金機構からのはがき、ペロッと開けると二倍の大きさに広がる形式のものだ。その中を見ると、年金追納しませんか、のお誘いだった。

そのお誘い云々よりも、まずノスタルジックな記憶が蘇ってきた。新卒で勤めた会社を辞め、仲間と前途多難な会社を立ち上げたころから、ある程度、軌道に乗るまでの期間が、僕が全額免除を受けていた期間だったからだ。とはいえ、過去に長時間浸っていられるほど暇ではなかったので、すぐに突きつけられている本題に目を通した。

10年前まで、支払っていない国民年金は追納できますよ、追納(僕の場合は、だいたい30万円ほど)すれば年金が年間で15,000円ほどの年金アップ!らしい。さらに、さらに、今、収めれば、来年度の住民税が安くなる!

国の機関からの手紙にしては、しっかりと魅力を伝えている内容だったので、僕も気が動転し、この際(ちょうど同じ額ぐらいの臨時収入もあったし)だから、収めてもいいか、と思ったのである。

将来、年金がもらえるかどうか、見込みが怪しい中で、追納するなんて行為は馬鹿げていると一蹴もできたが、仮にもらえる年齢が70歳からになって、20年間生きたとしたら、支払った金額は回収できるし、なんだか国に貢献するのも、悪くない気分だなと思ったわけだ。臨時収入があったことが何より、その後押しをした。

さて、がっつり国に営業されて、ちゃかりその営業に乗せられ、仕事帰りにルンルン気分で、会社の近くの年金事務所に立ち寄った。もちろん、事前にウェブサイトをチェックもした、予約が必要かなと思って、電話もしたけれど、「追納の方は、予約は必要ありませんよぉーー」と言われ、優遇されている気分になり、さらに浮かれモードだった。認印を持ってきてくださいと言われたけれど、優遇されているから忘れても大丈夫だろうと、どんどんと気持ちは大きくなり、実際に忘れてしまったのだ。しかし、そんなことはまったくをもって関係がなかった。なぜなら、納めさせてくれなかったのだ。

「”日本”年金機構」なのに、自分が居住している区でないと納められないというのだ。私は心に怒りを感じつつも、対応してくれた職員サンは何も悪くない、だから、怒りは0.1秒で納めたというより、納まった。システムに無邪気に反抗しても、システムの中にいる人はただ困惑し謝ることしかできないのだから、双方にとって不毛である。

ちなみに、そのやり取りはこんなシンプルなものだった。

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わたし「追納をお願いします」

職員サン「はい、xx区在住の方ですよね?」

わたし「え、◯◯区です」

職員さんも困惑しているのが伝わってきた。鴨がネギを持って訪問してきたのに、区が違うだけで、ネギを奪うことができないのだ。

わたし「せっかく、今月中に、10年前の10月分を収めようと思ったのに、これじゃ無理ですね。    諦めます」

職員サン「あ、それであれば、2時間待ってもらえますか!!それであれば、」

わたし「いや、(保育園のおむかえがあるから)いいです。」

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職員さんはとても残念そうだった。もしかしたら、彼が普段のルーティンワークを打ち破ることを可能にする、輝かしい活躍する舞台を奪ったのかもしれない。そんな罪悪感を持ちながら、その場を立ち去ろうとした。いや、しかし、活躍の場は与えたほうがよいと思い、自分が居住する区の年金事務所の場所を教えてもらうことにした。即座に地図を探し、渡してくれてありがたかったが、非常にわかりにくい地図だったことは、対応してくれた職員サンには言えないことだった。

さらに、地図に乗っている事務所所在地は、駅チカではあるが、非常にマイナーな駅の近くで、そもそも訪問することがためらわれるような場所だった。この地図を見たとき、浮かれ気分だった僕は年金事務所を追納する人が追納することを目的にが訪れる場所だと思っていたので、こんな不便なところにあったら、追納する人も来ないだろうに、年金事務所はターミナル駅の駅ナカにでも作れば、もっと年金が集まるんじゃないか、と勝手に余計な心配と構想をしていたのである。

翌々日、時間ができたので、気を取り直して、在住区の事務所を訪問することにした。いつもは乗らない電車に乗るため、ちょっとした小旅行気分だった。今日こそはしっかり追納するぞ!と意気揚々と気合は入っていたが、またしても認印を忘れた。もちろん、年金手帳も。ただ、過去に払えなかった年金をしっかり払えるようになった自分、国民の義務・責任?を果たせる自分自身を誇らしく思っていた。そんなの、とんだ勘違いだったのに。

事務所は本当に駅から近くて、歩いて2分。ついて受付の機会で番号札を取る。誰もいなさそうなのに、相談なしの予約の方は90分待ちですと書いてある。やばい、前は事前に電話して確認したけれど、今日は確認していないから、長時間待つのかなぁ、みんな追納しているなんて、偉いなぁ(対して、俺の行動には希少性がないのではないか、残念無念)。なんて、思っていたら、すぐに呼び出された。書類もまったくできあがっていないのに。案内してくれたのは、感じのよさそうなおばさん。僕が、あらゆる必要なものを持ってきていないのにも関わらず、気を悪くしない。それよりも、マイナンバーの番号を書いた僕の行動に驚き喜び褒めてくれた。なんだか、そんなことで褒められるのが、とても嬉しかった。

きっと、不特定多数の人が訪れる年金事務所に努めていたら、様々なリテラシーの人が訪問してくるから、相手の機嫌を損ねずに、誰にでもわかるようなレベルで、話すことが上達するのだろう。話しながら、相手のリテラシーを察し、レベルを変える、そんなプロフェッショナルさを後々の会話で感じることになる。

書類を出し、3分後、おばさまが怪訝な顔をして戻ってきた。え、追納することって、喜ばれることじゃないの?と思っていたので、さっきまで笑顔だったおばさんの顔が一変していることに、かなり狼狽えた。大きなシステムはおばさん、個人ではどうしようもできないことだから、どんなネガティブなことがあっても、不平不満は言うまい、心に誓おうとしたときに、おばさんが、猛烈な勢いで、話しはじめた。

続く

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