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Worlds2021 日本代表DFMの超快挙と、歴史に見る”結果を継続すること”の難しさ

ということでLOL世界大会Worlds、DFMの大健闘日本初のベスト16入りにより、日本のファンはいつもより一週間ほど長くWorldsを楽しめたと思います。くじ運がめちゃキツだったのは恐らく世界中が分かっている中で、それでも順位以上のインパクトを世界に残したのは確かでしょう。アメリカ1位100Tの喉笛にまで牙を突き刺し、中国1位EDGに中盤までリードをし、あのT1ともある程度戦えていたわけで。

数年前Fakerがイベントで来日した際には「日本人がFakerと公式戦やるなんて一生無理wこのお遊びARAMが限界w」的なことをコメント欄のToxic様方が知った顔で言ってた気もしますが、その予想は外れ、DFMとT1 Fakerガチ対戦も実現しました。そしてAriaゾーイのソロキル!LJLのレベルが上がってきてることを端的に、如実に、これでもかと示すクリップは世界中に拡散されました。
LJLにもこんな選手がいるんだ!!!!!!!!(*^○^*)

Twitterの動画は20万再生。もうLOL関係者で”見てなかったらFake野郎”レベルには拡散されています。

まあ、正直Ariaに関しては少々やりすぎてしまった感もあり、あんなピカピカの名刺を世界にお届けしたら、今頃サッカーや野球でいうところの「身分照会」的なアプローチは陰に陽にいくつも受けていると思います。ただそれでAriaを責めることはできません。彼のキャリアであり、彼が掴んだチャンスなのだから我々はどうなるか動向を見つめつつ、もし来年LCKに行こうものなら「LJLのAriaや!」と思いながら観戦するくらいであり。せめてLCKに行くならOPENRECあたりに以前のように「LCK日本語配信」復活させてほしいのですが、近年のOPENRECは、開局当初の硬派Eスポーツ路線から芸能人芸能人路線に代わってしまったので期待薄かもしれませんが…。

ともあれAriaの事情はおそらく「根っからの経営者」DFMのCEO梅崎氏もきっと把握済みのはず、さすがに何らかのなにかは考えていると思います。さすがにね。ただ、多少考えてどうなるレベルではない逸材なのが悩みの種だと思われますが。

そういう意味で今回DFMは「活躍しすぎてしまったがゆえに大黒柱が抜けるかも」というピンチを迎えているのですが、実は「Worldsで活躍したマイナーリージョンのチームがその後ピンチを迎える」というのはあまり珍しい話でもないのです。

日本同様マイナーリージョンからブレイクしたチームはいくつかありますが、そのどれも世界的に「継続した成功」というのはほぼできていません。それはなぜか?過去の歴史を学びつつ、そのリスク、そして彼ら先人を参考に、LJLがそれでも前に進む方法を考えていこうじゃないか、という話で。まあ俺はLJLの関係者でもRioterでもないから考えたところで、って話なんだけどね。以下敬称略。

※マイナーリージョン:嚙み砕いて言えばLOLがマイナーな地域。2021現在「日本、ブラジル、ロシア、トルコ、ラテンアメリカ、オセアニア」の6地域を指す。かつては「ワイルドカード地域」とも呼ばれていた。

S2 ロシアMoscow5 Worldsベスト4→ベスト8→国内連続敗退 -オーナートラブル/メンバー離脱からの空中分解-

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プレイイン地域で最初に名を残したのは伝説のロシアMoscow5だろう。ただこの時期自分もリアルで見ていないので、残っている文章やデータをチラ見する限り、となってしまうのだが。ていうか写真のレジェンド感やば。かっこよ。ヨハン・クライフの頃のオランダみたいやん。あるいはミッシェルガンエレファントやん

簡単に言えばロシアからWorlds2でベスト4、それも負けた相手は優勝した台北アサシンズ、それも1-2と非常に惜しい記録を残したところになる。今年初めてWorldsを見た人にとってロシアはDFMが倒した相手、といった認識かもしれないが、マイナーリージョンで一番歴史的に強さを見せてきたのがこのロシアになる。

そんなM5だが終焉はすぐに訪れる。wikiによると、CEOが逮捕され、金銭的に賄えなくなったという形でSeason3を前に解散を余儀なくされた。なおメンバーはGambit Gamingに全員移籍し、なんやかんやでWorlds3でもベスト8まで進出し、ある意味においては継続した結果を出した、とも言えるのだが、その後Season4春ではビザ問題等ありベストメンバーでリーグに出場できなかったりで下位に沈むと、秋にはメンバー変更を敢行するもさらに成績が落ちWorldsはおろか入れ替え戦圏内に。Season5に入ると残存メンバーはJGのDiamondproxとSUPのEdwardだけとなり、春は中位、夏はまた入れ替え戦圏内となり、このころには世界的競争力を完全に失ってしまった。

なお、この苦しい状況からSeason7、幾度目かのメンバー変更を経て DiamondproxとEdwardはWorlds2017で世界の舞台に帰ってきて、以降しばらくロシアで覇権を再度握るのだが、それはまた別の話。

S5 ブラジル PaiN Gaming Worlds12位→国内連続敗退 -サポ1名変更からの不振-

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Worlds2015でプレイイン地域ながら本戦出場を果たしたこのブラジルPaiNは、敗退したものの2勝4敗と爪痕を残した。今の日本ならこの「2勝4敗」の凄さ、そして重みも分かると思われる。それも1勝した相手は伸び盛りだった台湾Flash Wolves。Karsa(現TOP所属/ Worlds 2020ベスト4)、Maple(現PSG所属/ MSI2021ベスト4)、SwordArt(現TSM所属/ Worlds 2020準優勝(SN所属時代))と、未だに現役トップチームの主力を張るメンバーが揃っていたこの黄金期FWから一勝をもぎ取ったのだから価値は高い。もう一勝のCLGもダブリフaphromooのBOTレーンで決して拾った勝利でないことがわかる。てか写真のbrTTわっか。

そんなブレイクしたブラジルPaiNだが、年が明けたSeason6からは苦難の道が待っていた。1名サポートのメンバーチェンジのみで迎えた開幕戦を引き分けるとそのまま調子が上がらず8チーム中4位でフィニッシュ、プレーオフではさらに負け6位で、まさかのWorlds12位から半年で国内入れ替え戦行き。なんとか面目を保って残ったものの、夏はさらにBOTレーンを入れ替える。リーグ順位は若干上がって3位になるがプレーオフでも結局3位でWorldsを逃した。

そこからは例に漏れずメンバー変更を繰り返すが結果が出ず、という流れになる。結局Worlds2015で12位になってから、その後世界大会に復帰したのは2021のMSI。それも2015を知るbrTTが色々あって2020に戻ってきての世界大会復帰となった。

ブラジル自体は翌2016Worldsでも本戦初日にEDGから大きな1勝を挙げるがそのまま1勝5敗、そして形式が変わった2017以降は未だ本戦に進めていない。ローカル地域随一のプレイ人口を誇るブラジルの苦難は続いている。

S6 ロシア Albus NoX Luna Worldsベスト8→国内連続敗退 -ADC1名変更からの不振/中心メンバーのトラブル-

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最も成功したマイナーリージョンのプレイインからの成り上がりチームと言えばロシアのAlbus NoX Lunaになるだろう。EUサーバーでソロ1位も取った超攻撃的サポートLikkritを中心とした個性的なチームでベスト8にまで進出した。サポートなのに得意チャンプがブランドとバードという異次元さ、そしてその対応に手を焼き相手がBanする始末。グループステージではNA、EU、KRと相対的に恵まれた感はあったが、この中で4勝2敗なのだからやはり格が違った。このWorldsでブレイクしたPeanutのいる、ベスト4まで行ってSKTに2-3で惜敗したROX Tigersからも一勝取って1-1なのだからすごい。

ただ、そんなスペシャルチームですら翌年不振に巻き込まれる。基本的にAlbus NoX Lunaのロースターをそのままいただいた新チームM19だったが、新シーズンに向けてADCを一枚変えた。するとそれでバランスを崩したのか春リーグは勝利数こそ同数ながらタイブレークで負けて2位、するとプレーオフ初戦で負けて、結局Worldsベスト8が翌春ロシアベスト4という状況に陥る。

そうなるとここまで読んだ方はお分かりの通りどうなるか、夏はてこ入れのメンバーチェンジ。JGとMIDを変えるもリーグ成績は悪化し3位。プレーオフでは気を吐き決勝まで進出するが2-3で敗れ、前年Worlds世界ベスト8のチームがロシア国内を抜けられず、ということになってしまった。ちなみにこのM19を止めたのが、上に書いた元Moscow5の生き残り、DiamondproxとEdward率いるGambit Esportsだった。

結局、世界ベスト8を記録したAlbus NoX Luna、そしてその血を引くM19は、そのWorlds以降一度もロシアから出られず、世界大会に出場することなく20年春にチーム解散となってしまった。

そして当時の主力だったLikkritは元々ソロキューでのToxicが問題視されている中で、それに加え運営批判的な発言を繰り返し、警告を受け、半年の大会参加停止。それを受けて選手引退という形に。ただ、そんな彼が現在オーナーとなっているロシアCrowCrowdというチームは近年調子を上げており、この春夏ともにプレーオフ決勝でUOLに敗れるも2位につけており、レジェンドがオーナーとして、今後世界大会に戻ってくる可能性もあります。

S7 ベトナム GIGABYTE Marines Worlds9位→国内敗退 -中心メンバー移籍からの混乱-

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ここに混ぜてよいのかは迷うところで、現在はマイナーリージョンから抜けているベトナムだが、抜けるきっかけになったのが2017のベトナムGIGABYTE Marinesの躍進になる。MSI本戦で3勝、Worldsでも2勝(タイブレークでの敗戦)と世界的な競争力を示した影響が大きい。

それを牽引したのがベトナムを代表するジャングラーLeviになる。MSIではその超攻撃的なジャングリング、そして500円で買ったとも言われるどうみてもショボいマウスでのスーパープレー連発が話題となり、またGIGABYTE Marinesの、自分たちが弱者側だと認識した上での奇策の数々(あえてのスワップ/Leviノクターンの実質”ファンネリング”)も世界を大いに驚かせた。この世界的成功を受け、ベトナムでの覇権は盤石かと思いきや例によってうまくいかなかった。一番の理由は主要メンバーのLeviがアメリカ挑戦した、ということが大きいだろう。

Leviは2017の成功を名刺に2018にNAの100Tに移籍した。ソロキューでは順調だったものの出場は「アカデミー(2部)」がメインで、そして2部でもチームが不振で結果的に彼には1部で十分に出場する機会は与えられなかった。1部チームが好調だったのも運がなかった。結局お試しですら使われる機会はなく、1部で使われたのは国際間イベント、リフトライバルズの時だけであった。失意のLeviは19春に中国JDCに移籍し開幕戦に名を連ねるが、結局出た5試合で0勝5敗、代わりに出たFlawlessが20勝14敗ではさすがに残留も厳しく、数字的に見ればLeviの海外挑戦は一般的に失敗といった形となってしまったのだった。

一方Leviの抜けたGAMも調子を落とす。抜けた翌シーズンはリーグ14試合で4人のジャングラーを試すほどの混乱ぶり。LeviとともにMIDとSUPが抜けた影響もあるのかもしれないが、それでもあまりにもといった感はある。何とかリーグ3位に残りプレーオフは意地で決勝まで残るも2-3で敗戦。1年前世界的にブレイクしたMSIに出場することすらできなかった。18夏にはさらにメンバーチェンジを繰り返すが泥沼化、5位になり昨年出たWorlds、その出場権を決めるプレーオフ出場権すら逃す有様。

しかしLeviがベトナムに帰ってくるとさすがに違った。19春には18夏同様、8チーム中5位まで低迷していたGAMは、Leviが戻った途端19夏にリーグ1位、プレーオフ1位でWorlds復帰を果たす。近年コロナ等の都合でベトナムは世界大会から遠ざかっているものの、Levi復帰後のGAMは4期連続でリーグ1位となっており、国際大会復帰後のパフォーマンスに期待が集まる。

最後に

ざっと見てきたが、大まかにパターンがあるのが見えて来たのではないだろうか。国際大会で結果を残すくらいの地域のスペシャルチームでも、あるいは「だからこそ」なのか、そのスペシャルな実力を持続して単独王朝になっている例は少ない。注目度が上がった弊害からか、または対戦相手のモチベーション増からなのか、それとも選手の燃え尽き症候群なのか、マークが厳しくなるのか、多くのチームが大メンバーチェンジをせずとも翌シーズン苦しむ形となっている。

今回DFMが危惧すべきはこのなかでもGAMのパターンだろう。おそらく今のDFMの面子を見る限り、オーナーやメンバーのトラブルとは縁遠いと思われる。一方韓国人選手のAriaはこの大会ここまでで大きな印象を残しており、もちろんDFMもある程度の「お金」こそ出せるだろうが、お金以上の「名誉」や「夢」といった部分でLCKやLPLを選ぶ可能性は十分ある。大黒柱という意味ではJGのLeviと同じくらいMIDのAriaは重要であり、もし流出となれば、このレベルを維持する選手を探し、そしてチームにアジャストさせるのは至難の業だ。自分は西武ライオンズファンでもあるので「主力選手の流出」の厳しさについては恐らくLJL視聴者の中でも相当に詳しい方と言ってもいいだろう。

Ariaの穴を埋めるのが容易でない点として、単なるソロキューの腕、だけでない部分もLJLでは求められるところが挙げられる。DFMには韓国人選手がすでに二人いるとて、日本人選手も二人おり、日本語でのコミュニケーションや日本の生活への対応、あるいはLJL独特のメタへの対応等、要は「水が合うか」というのは実際に入ってみないとわからないというのがある。

今までもLJLには多くの韓国人選手が来て、その中には若く無名の選手から、名声を得たうえで来日する選手もいたが、LJLでの活躍度がその前評判通りだったか、と言われれば、必ずしもそうとは言い切れない部分もある

また、過去から学ぶと、この「黄金期」のメンバーがいかに大事かというのも見えてくる。Moscow5の2人が数年後ロシアで復権したり、ブラジルは2015のbrTTが未だに健在だったり、ベトナムも一年半ブランクのあるLeviが復帰即活躍したりと、その時期の選手の傑出度の凄さが分かる。

そしてさらにわかるのは「マイナーリージョンにはそうそう金の卵は生まれない」という点。LCKやLPLでは物凄い速さで新陳代謝が進んでおり、2年前にプチブレイクした選手がアカデミー行きだったりすることも珍しくない。ただそれは莫大にして膨大で甚大かつ肥沃な土壌と育成資金があるがゆえ、ということになる。LCK選手を見て「25歳限界説」などと言っていたりもするが、ことマイナーリージョンで実力的に抜けた選手がそれを鵜呑みにして早期引退をすると単純にその地域の損失、レベル低下となってしまう。

現にロシアも2016躍進の立役者であるLikkrit、彼は早くに引退してしまったが、彼の後継として世界で戦えるレベルのスーパーサポートはあれから5年経っても未だロシアに出てきてはいない。

ブラジル2015の立役者brTT、彼は齢30にしていまだ現役だが、この夏のリーグでのスタッツ、対面との15分段階のCS数の勝率は88.9%、15分で平均+899Gの差をつけておりバリバリのリーグ最上位プレイヤーだ。このレベルの選手が抜けることによるリーグのレベルの低下がどれだけエグいかはだいたい想像がつくものと思われる。

これは日本も対岸の火事ではない、Eviも、Yutaponもある程度の年齢には達しているが、「後継」という意味ではLJLを見ても非常に怪しいところだろう。TOPを見れば、PazやapaMEN、cogcog、napは言ってしまえばほぼ同世代であり、そういう意味ではKinatsuがひとつ希望だが、伸びしろがどこまであるのかはまだだれにもわからない。

ADCに至ってはさらに人材難といえる。こう考えるとmoyashiの引退も早すぎた感があるが…。韓国人選手を除いて日本人でYutapon、moyashiに近付いているADCの選手が果たしているのかもまた怪しいところで。LJLでの「場慣れ・本番力」を加味すると割と真顔でHarettiがまだ上位候補ではないのか、と思ったりもするところで。

また別の観点での引退問題もある。韓国人選手の兵役のことだ。Stealにしても日本枠は持ってはいるがGeang同様「兵役」という時限爆弾のカウントは、いくら梅崎がULTをパナそうが恐らく止めることは不可能だろう。「日本人枠」を得るのに4年を擁しても、その後日本にいられる時間はそう長くない、というのがある。

要は、Kazuコーチの現役復帰、Gaengのサブ行きまでして作り上げたこのLJL2021チームは割と無理して作った楼閣であり、今風に言うならば「サステナブル」なチームではない、「再現性の低い」チームということになる。今期のAria去就問題を乗り越えてもすぐに次は兵役問題が重くのしかかってくるわけで。Yutapon、Eviが調子のよいうちにAria、Steal、Geangを集められた、現段階でのLJLオールタイムベストのようなチームであり、ある種タイミングが噛み合った奇跡の産物とも言えるかもしれない。

そんな危うさをも孕むDFMの状況、きっとDFM側も無計画ではないと信じたいが、しかしこの難局、対応を間違えればDFM、ひいてはLJLのレベル低下にもつながってしまう。それはすなわち、今回2021で与えた印象が世界的に見れば「フロック」「まぐれ」扱いされてしまうことに他ならない。

幸いにもDFMのCEO梅崎氏はDFMとLOLに力を入れる姿勢を示しているのが救いだが、DFMのこのオフシーズン、そして来年、再来年の舵の取り方に、日本LOLの未来もかかっているのかもしれない、そういった目で注目するのもきっと面白いはずなのでお勧めしたいところ。

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今後のLJL次第では、数年後この写真が、このメンバーが「LJLにとっての伝説のメンバーにしてアンタッチャブルレコード(不滅の大記録)」として語り継がれることになるのかもしれない。そう、日本サッカー界の釜本、100mのウサイン・ボルト、三段跳びのジョナサン・エドワーズのように。LJLファンとしては、そうならないように祈りたいところ。

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