うっせえ、俺が「世界観」だ。 _#8 惑星 (ぬぐ)
#だからそれはクリープハイプ
更新日: 2023/04/10
#8 惑星 (ぬぐ)
生意気で、嘘っぽくて、キモいと言われた。芸能人の先輩である。高校生男子に突き刺さるワード第一位、それは「キモい」である。作った歌詞を見て貰ったのだ。もう少しオブラートに包んで貰っても良いのだが…。隣でその様子を観察していた僕と仲の良かった先生は、爆笑していた。そして、「素直に言って貰うと良いよ」とか言う。なんて日だ。なんてのはこういう時に言う台詞である。
高校の卒業を控えた僕は、卒業ソングでも作ってやろうと意気込む。「自分のことばかりで、情けなくなるよ」にハマっていた僕は、それに「ex ダーリン」のコードを組み合わせ、それっぽい曲を作った。クラスのみんなは面白がっていたので、そこは満足した。あとで、高橋に聴かせると「クリープハイプの曲でしかない」とコメントされた。浪人する予定だった。今まで以上に、人とのつながりがなくなるのである。すると、嫌でも自分自身に注意がいく。どう聞いても、自分の即席で作った曲より、元のクリープハイプの曲の方が美しいのだ。いや、分かっていた気がする。
Twitterでクリープファンとして仲良くなった女の子がいた。しばらくして、「先輩、クリープハイプを卒業しました」と伝えられる。じゃあ何聞いてんのと尋ねると、聞いたことのないバンドの名前が出る。加えて、「クリープハイプなんて聴いてるから、私、気持ちが落ち込んでしまうんですよ。それで、卒業しました。」と言われる。それは間違っている。まだ僕らが若すぎて、自分の憂鬱の整理の仕方を知らないだけだ。とも言えず、その子とは疎遠になった。
自分たちがやってきたライブの写真をよく見返していた。彼らにあのクリープの生演奏で感じた色っぽさと神々しさなどなく、単に地味な高校生4人が集まって格好つけ、楽しくやっていただけである。
クリープハイプの昔話を聞いた。音楽業界関係者という彼は、クリープの堅実さを語った。インディーズ時代のビラ配り、宣伝のことだ。巷でよく耳にする世界的ロックバンドのローリング・ストーンズの真面目さもそうだ。ロックバンドの印象とは異なり、彼らはきっと誰よりも誠実なのだ。それは意気込みだけでやってきた僕とは途方もなくかけ離れていた。
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