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うっせえ、俺が「世界観」だ。 _#6 唯々 (ほんとう)

#だからそれはクリープハイプ
更新日: 2023/04/09 (締切4月10日まで加筆する)


#6 唯々 (ほんとう)

視線が体を突き刺す。ライブハウスは観客との距離が近い。文化祭のステージである体育館とは訳が違う。ほぼ満員の「五校戦」は、観客がステージに乗り出している。こっちは殺気を持って歌い、ひと鳴らしでギター弦を切ってやると言わんばかりの気合いでやってきた。

その頃、我がバンドの十八番は「社会の窓」と「HE IS MINE」だった。この2つは観客が曲と一体となって叫ぶ場面がある。その前には一旦タメがある。徐々に演奏とボーカルが勢いと熱を増し、ついに観客が叫ぶ。これは演奏している方も楽しい。しばらくして、この演出が他の部員にも浸透した。

軽音楽部第二部室がある。いや、勝手にそう思っていただけだ。地元の楽器店であった。そこの店員さんに甘え、売ってある機材をとことん試した。「左耳」を弾いていた。「山本くん、キレの良いバッキングだねえ」とお褒めの言葉をいただく。当たり前だ。俺は、自分の恋人に名残のピアス穴なんてあったら、ピックで切り落としてやるつもりだ。

その頃、Twitterでは「山本世界観」というハンドルネームをつけていた。「山本」がダサいなと思うところはあったが、友人が一度呼んでくれたそれを喜んで使った。「尾崎」なんて、これ以上ボーカルにふさわしい名字があるだろうか。俺も盗んだバイクで走り出す必要があるかもしれない。そして、何にでも噛みついた。部室隣の吹奏楽部には迷惑が掛かるよう、大きな声でできるだけ高校生らしくない楽曲を歌ってやり、下校時刻前にはそんな曲を帰途につく生徒の耳にねじ込む。教室でムカつくことがあれば放課後に曲に乗せて歌ってやり、ピックはそいつの喉元を搔っ切った。当時の雑誌によると、尾崎さんの原動力は「怒り」であるそうだった。

10年ほど前に「アキネイター」というサイトが流行った。そのサイトではランプの魔神がこちらの想像する有名人やキャラクターを言い当てるのだ。魔神はいくつかの質問をし、こちらがそれに回答することで絞り込み、その人物を当てる。付き合っていた彼女が僕について試したらしい。尾崎世界観が出てくるのだという。

合同ライブ当日も、やはり他のバンドに勢いで負ける気はしなかった。一発目で、高音をお見舞いしてやり、耳も心も終わらせてやるのだ。そして、女子も男子も「セックスしよう」と言わせてやる。そして呑気に五百円払って見物に来た他人の親たちの顔を見たい。普段、彼らは育ちの良い自分の子供しか見ていない。俺を見て、きっと肝を冷やすのだ。


… 記事のヘッダーの写真は、当時、放課後の校舎で撮って貰ったものである。撮影者の友人は、特に音楽に興味はなかったようだ。それでも、熱心に二人こそこそと歩き回り、雰囲気の良い場所を探した。やはり踊り場だろう。初めてこの写真を使う機会がやってきたのだ。

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