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【#一分小説】適音《第十話》

 やや、私が座った向かいの席に、白黒和柄マスクの若的場浩司がXiaomi製の格安スマホを両手持ちにして鎮座しているではないか。
 私は、電車の電球色も霞む程に、地下鉄の暗がりが強く感じていた。
 「ありゃ、和柄マスクの若的場浩司じゃ!長袖丸首シャツじゃ!」
 私の心の中のチビノブを煮沸消毒しつつ、駅までの12、3分どうやり過ごそうか思案していた。

 寸刻、向かいの若的場浩司が立ち上がった。ああ、そりゃ当然だ。皆が皆同じ駅に降りないもんな。
 「なんじゃ、その発想は~。」
 私の心の中のチビノブを流刑に処した次の瞬間、若的場浩司は、なんと、私の前に、なんと、私を見下ろすように、なんと、立ちはだかっていた。
 人間、ああ終わったなと思ったら、何も発声できないものだが、とは言え、とも思っていたら、私は、その人間の真ん真ん中にどっしり腰を抜かしていた。
 「ヤ・バ・イ……………!!!!!!」

 しかし、その0.18秒後、若的場浩司側から声をかけてきた。
 「スマホ入れ、落ちてますよ。」
 なるほど、人間、誰かのスマホ入れが持ち主の手がこぼれていたら声をかけてあげる。とは言え、とも思っていたら、若的場浩司もまた、人間の真ん真ん真ん中で仁王立ちしていたのだ。
 スマホ入れの命は、この7秒間により、まさに「命拾い」したのさ。

(つづく)

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