ショートショート 初めての鬼
毎年夏になると、従兄弟はウチヘ遊びに来る。
従兄弟はまだ小学生で、俺達兄妹はその遊び相手をしていた。
素直で可愛い従兄弟。
その従兄弟が、今年は違ったのだ。
「アニキ」「アネキ」
俺たちの事をそう呼び始めた。
おそらく友達の影響だろう。
「おに…アニキはさぁー」
「おね…アネキはどうなの」
全然呼び慣れていない従兄弟。
「前みたいにお兄ちゃん、お姉ちゃんって呼んでもいいぞ?」
「うるさい。…おに…キはもう風呂入ったの?」
おにおにおねおね言っているのが可愛くて、俺達はずっとニヤニヤしていた。
その反応が嫌だったのか、暫くすると従兄弟は何も喋らなくなってしまった。
最終日。
流石に従兄弟に申し訳なくなったので、帰り際に俺達はお小遣いを渡すことにした。
現金なもので、パァッと表情が明るくなる従兄弟。
「ありがとう!おに…」
従兄弟は少しの間取り乱し、そして何かを閃いたようで妹の方に向き直った。
「…おに、鬼ババ!」
俺は、妹のあんな恐ろしい顔を初めて見た。
【412文字】
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