キモ吉の大冒険
キモ吉(きもきち)は中学2年生。
中学1年生の夏に下(しも)の毛が生えたての、下の毛歴2年目に突入したところだ。
キモ吉はいたって普通の中学2年生。
でも少しだけ
少しだけ人より物事の解釈がキモめ。
今日は朝から雨が降っていた。
キモ吉は思った。
(この雨の中には蒸発した誰かの立ちションが含まれているんだろうなぁ、、、濃度にすると0.00000001%くらいかもしれないけど、オッサンの立ちションが混ざったと思うと絶対濡れたくないなぁ、、、
そういえばこの前数学で濃度の勉強をしたなぁ。蒸発した立ちションはこの場合「溶質」になるわけか。
「溶媒」が大気中の水分だから、、あれ?でも立ちションにも水分は含まれているからこの場合「溶質」は立ちションの中に含まれているアンモニアとかの成分になるのか?
そうなるとそもそも立ちションの中のアンモニアの濃度から考えないといけないよな、、、
濃度のマトリョーシカになってきたな。
尿の濃度のマトリョーシカ、、、マト尿シカだ。うん、マト尿シカ!)
結論が出たところでキモ吉は学校へ行く準備を済ませて、朝食を食べにリビングに向かう。
食卓に置かれた皿の上には、キモ吉に食べられるのを待つかのようにジャムトーストが鎮座している。
キモ吉の朝食はジャムトーストと決まっている。
本来はトーストの上はバターにするのかジャムにするのか、はたまたスライスチーズにするのか、色々選択肢があって然るべきだ。
しかしキモ吉の朝食はジャムトーストに決められている。
何も最初から決まっていたわけじゃない。
キモ吉が小学校5年生になった頃、母は朝食としてトーストを焼いてくれるようになった。
そしてキモ吉はその後長く続くトースト物語の第一話の日、つまりトーストーリー1の日
(トイストーリーみたいに聞こえていて欲しい)
母に「パンの上は何を塗る?」と聞かれた。
その時テーブルにあった選択肢はバター(とは言うものの実際はマーガリン)といちごジャムだった。
小学5年生はたいていの食べ物にまだまだ甘さを求める。
いろんなものが甘ければいいのにと思っている。
ビールのCMで大人がすごく美味しそうにビールを飲んでいるのを見て
(きっとあの飲み物はとびっきり甘くて美味しいに違いない。)
と思うくらいだ。
美味しい=甘いの必勝方程式が成り立っている。
キモ吉は迷わずいちごジャムを選んだ。
次の日も。
そして次の日も。
するとどうだろうその次の日からは何も答えなくても既にジャムが塗られた状態のトーストがキモ吉を待っていた。
キモ吉はそれが嬉しかった。
頼んでもいないのに自分の好みの品が出てくる。
何かのドラマで見た事があるアレだ。
主人公が店主に「いつもの」といえば店主が何も言わずにスッと主人公がいつも飲むお酒を出す。
(もちろんそのお酒もさぞかし甘いんだろうと思っている)
あの感じだ。
そこからはなんの疑問も感じず毎朝「いつもの」を頬張る日々。
しかし今日だ。
キモ吉が「マト尿シカ」にたどり着いた今日。
ある疑問がキモ吉の中で産声をあげた。
「ベブォーッ!!!!」
産声は少しキモかった。
キモ吉は自分が母に「“いつまでも甘いものしか食べられないお子ちゃま”だとナメられているのでは?」と思ってしまったのだ。
一気に母への反発心がムクムクと大きくなっていく。
「僕を、、、僕をナメるなぁーーーっ!!!」
ドウッ!!
キモ吉の髪は金色に輝きながら逆立って、全身からオーラのようなものが立ち上がった。
そう
キモ吉は怒りによって眠っていた異能(チカラ)が目覚めたのだ
というところまで想像してふとキモ吉は我に帰った。
異能(チカラ)に目覚めて髪が金色に逆立っているとき
下の毛はどうなるんだろう?
去年生えたての下の毛も同じように金色になって逆立ちながら、水中でゆらゆら揺れる昆布のような動きをするんだろうか。
しかし異能(チカラ)が目覚めるときは自分はブチギレている。
ブチギレているときに下の毛を最優先で確認するわけにもいかない。
相手に示しがつかない。
でも気になる。
気になってブチギレている場合ではなくなりそうだ。
などと考えているといつのまにかジャムトーストを食べ終わっていた。
まぁ、もうしばらくジャムで我慢してやるか
そう思いながらキモ吉は学校へ出発する。
「さて、今日も百葉箱の中に鼻くそ溜ーめよっと」
心の中で中くらいの音量で言った。
雨はもうあがっていた。
つづく。