私の好きな短歌、その11
隣室に書よむ子らの声きけば心に沁みて生きたかりけり
島木赤彦、歌集『柿陰集』より(『日本の詩歌 第6巻』中央公論社 p81』
作者の思いが真っ直ぐに詠われていて心にひびく。結句の「生きたかりけり」という詠嘆が効果的である。子が書を読む声を聞いて、その将来に思いを馳せ、楽しみに思うと同時に自分はそれを見届けられないだろうという悲しみがあり、ああ、自分はまだ生きていたいのだ、という素直で深い願いが叫びとなり、歌になる。単純にして深く、切実な親の願いが一息に吐き出されていて強い。
1926年(大正15年=昭元、作者51歳)作。作者生没年は1876(明治9)ー1926(大15=昭元)享年51歳。