私の好きな短歌、その27

桑をれつつつまみてみればかひこまであつくなりをる暑さなりけり

 結城哀草果、歌集『山麓』より。(『日本の詩歌 第29巻』中央公論社 p153)

 蚕の白く柔らかい体が目に浮かぶ。それが「あつく」なっているということによって、シンプルに、見事に夏を表現している。湿度まで感じさせるようだ。初句の「呉れる」という表現、味がある。「やりつつ」ではなく「呉れつつ」である。「く」の繰り返しによるリズムも生まれた。下二句で「あつい」が繰り返されているが、まったく気にならない。自分ならそれを気にしてなにか別の表現を探すと思うが、ここはこれしかないという気もする。実生活に即した確かな写実だ。

 『山麓』は1929年(昭和4)刊行で、1914年(大正3)の歌から入っている。刊行時、作者37歳。作者生没年は1893年(明治26)ー1974年(昭和49)享年82歳。

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