私の好きな短歌、その16
逝く人はかへり来らず月も日も留まれる者のうへにつもりて
岡麓歌集、『雪間草』より(『日本の詩歌 第6巻』中央公論社 p393)。
「老を嘆く」中の一首。誰しもある程度年齢を重ねれば何人かの知人の死を知ることになる。老境に入った人はなおさらだ。上二句は自然に口をついた嗟嘆そのままで、三句以下は詩的な表現になっている。詩的だが実感がこもった表現だ。「月も日も」という表現に工夫が感じられる。月日を分けて「月も日も」としたことで、時間の長さ、年輪のような、時が積み重なっていくイメージを生み出している。四句の字余りも効果的。「留まれる者」は時間に対するいかなるすべももたず、ただただ時の重さに耐えるしかないのだ。
1950年(昭和25年、作者74歳)作。死の前年の作である。作者生没年は1877(明治10)ー1951(昭和26)享年75歳。