私の好きな短歌、その26
今夜こそ夜のありたけを眠らめとねむりこがるる蚕飼づかれに
結城哀草果、歌集『山麓』(『日本の詩歌 第29巻』中央公論社 p153)より。
眠りを今日のやすらぎとして、昼間懸命に働く農民の姿である。私も毎日農業に従事していて、日によって、作業によっては体の芯から疲れることがある。昼食後など、ものすごく眠いとき、一首のように「ねむりこがるる」こともある。三句の「眠らめと」は、眠ら・め(助動詞「む」の已然形)で、初句の「こそ」と係り結びをなして強調を表す。初句、二句の「夜」の繰り返し、三句と四句の「眠り」の繰り返しも、眠りを欲する心を表して効果的だ。また、結句の端的な表現が気持ちいい。
『山麓』は1929年(昭和4)刊行で、1914年(大正3)の歌から入っている。刊行時、作者37歳。作者生没年は1893年(明治26)ー1974年(昭和49)享年82歳。