私の好きな短歌、その3
中村憲吉、歌集『軽雷集以後』より(中央公論社『日本の詩歌 第6巻』p230』)。
真むかひの山家のなかは西日射しあからさまなる仏壇のみゆ
「秋の山田」中の一首。憲吉が帰郷して家業(蔵元)に従ってからの作。山間の里では、川に沿った平野部分は水田にして、住家は少し上がった山腹に建っていることがある。家が西に面していると、下の田が山影に入っても、家にはしばらく西日が差し込む。そこに「あからさまなる仏壇」が見えたという、日常の美しい瞬間である。この年の二月、作者は結核を発症している。西日に輝く仏壇に、作者は自らの行く末を思っていたのかもしれない。
1931年(昭和6年、43歳)作。作者生没年は1889(明22)-1934(昭和9)享年46歳。