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ドラッグストア・ガール(2024.12.11)
ドラッグストアに寄って帰った。「幸子(犬)のご飯を買って帰ります」と帰りしな妻にLINEしたら、「ついでにオムツと牛乳とサラダ油と小麦粉とワイドハイターとトイレットペーパー買ってきて」と頼まれた。
ドラッグストアのレジには全体的に丸くていつもニコニコしているおばちゃんがいて、常連のお客さんにたくさん話しかけられている。ドラッグストアがまちのホットステーション化している。
店に入ってすぐ右にある野菜コーナーに目ぼしいものはほぼないが、小ぶりなニンジンが5〜6本入ったやつが198円で、今どき安いなぁと思う。しかし手に取らない。
私が陳列棚の間をカートを押しながらコロコロ進んで行くと、その先々でステップを踏んで何やら鼻唄を口ずさんでいる女子高生がいて、「いいなぁ」と思う。何が良いって、その周りの目などどうでも良いというその姿勢と、ダンスや歌が好きでたまらないという感じだ。
私が牛乳2本をカートに入れたり、「ほりにし」のスパイスを手にとって購入を真剣に悩んだり、お酒の棚の前をあえて見ないようにして通過したりする間も、私のそばをその女子高生がステップを踏みながら軽快に歩いていた。「このドラッグストアのフロアは君のためにあるよ」と私は心の中で思った。いつか彼女の本気のダンスが見てみたいとも思った。
しかし私が米のコーナーで小一時間悩んでいる間にその女子高生はどこかに行ってしまった。高騰して一向に値下がりしない米が申し訳なさそうに積み上がっている。「ゆめぴりか」も「まっしぐら」も「こしひかり」も「なつほのか」もみんな高い。
しかし私は比較的安い青森県産の「まっしぐら」をカートに積んだ。3200円くらいする。1年前の倍くらいだ。
この生活感しかない私とあのキラキラした女子高生が同じフロアで全然別のものを見ている事が面白かった。女子高生の手には「ミロ」の詰め替えパックがただ一つ握りしめられていた。カゴさえ使ってない。生活感など微塵もない。夢と音楽とダンスしか感じられない。
私の会計は6000円を超えた。痛い出費だった。外に出ると暗い空。冷たい空気。
購入した商品がぎっしり詰まったエコバッグを肩にかけて、ドッグフードと米5キロを右手に抱えて駐車場を歩く。車が、遠い。もっと近くに停めれば良かったと後悔する。
ようやく車に辿り着き。私は米をドスンとトランクに下ろしながら、「せいぜい上手に踊ってみせるさ。おれはおれのステージでな」と思った。