自作モノローグ「はっ倒すぞ、てめぇ」
発話者は美味しそうに食事をしている。
ふとしたときに思うんです。また首を吊ったらどんな感覚がするのかなって。
生きている苦しさが、喉元に食い込む紐の感触を恋しがるんです。
え?不思議ですか?そうですか。「あなたのような明るい人が…」って?
笑わないでくださいよ。私は嘘を言わない人間です。それは知っているでしょう?
…私が嘘をつけない人間だということは理解できるのに、私が何もかも上手くいっていないということは分かってもらえないなんて。
あ…私、中学も高校も親が転勤族だったから、しょっちゅう学校が変わっていたんですよ。どこに行っても転入生で、なかなかクラスに馴染めませんでした。
でもそれに疑問は持っていなくて、彼らは彼らなりに築いてきたテリトリーがあって、いきなり来た私がその輪の中にズカズカ入っていくのは…自分の家に見知らぬ人が入ってくるような…。
いや、違うな。ドミノですよ、ドミノ。
例えば、今までA子とB子とC子の三人と一緒に、壊さないように、倒さないように…って大事に大事に並べてやっと10メートル真っすぐドミノを立てたというのに、横から来た知らない女が「私も一緒にドミノ並べさせてよー!」って呑気な顔して言ってくるんですよ?ダメじゃないけど、「えぇ、お前…本当に倒さないで続けられる?」って思いません?
それが転入です。今まで築いてきた三人との友情をどうやって転入生とはぐくめるんでしょうか。
だから仲良くなりませんでした。いつか1から関係を作れる人が現れるまで、仲良くなりたいという気持ちをとどめておいたんです。
……はっきり覚えています。あれは大学の卒業式。
私ね、大学の間は一切転入しませんでした。だから私にとっては千載一遇の大親友を見つけられる絶好のチャンスだったんです。1つめから一緒にドミノを並べられる、そんな存在を見つけるチャンス。
それなのに、入学から1年たって二年生になっても誰も信頼できる友達がいないことに気づいちゃいました。友達はおろか、休んだ講義のノートを見せてもらえる知り合いすらいませんでした。
大学の卒業式。
その日の夜、初めて首をつりました。近くにあった親の裁縫道具からメジャーを取り出して、帽子掛けと首をくくって、そのまま体重に身を任せました。
こんな誰かを待ち続ける人生は嫌だって。
できるかもわからないドミノタワーの頂上を夢見る自分が一番嫌いだって。
でも死ねませんでした。痛くて。首からメジャーを外した時、「メンタル弱っ…」て自分で呟いちゃいました。
それからお布団にはいって安楽死マシンの妄想をしました。知ってます?カプセルの中に入って、バーチャル空間で綺麗な景色を眺めながらガスで死ねるんですって。海外の安楽死が許されているどっかの国であるらしいですよ。その妄想をしているとすーごく、落ち着くんです。これが寝る前の私のナイトルーティーンになりました。
弱くて、死ねないから。
私、弱虫だから。
でももし、もう一度あのメジャーにしっかり首をかけられたら……勇気をだして死というものにとびこめたらって今でも思うんですよ。昨晩も思いました。
だから……「君の明るいところに惚れました。」だなんて口説いてくるあなたのことを心底軽蔑します。「でも君が沢山我慢していることも知っている」?だっけ?何を知ってるんだか!
こんな真っ暗な人生で一つだけ得たものがあります。人との縁を切るのが怖くなくなりました。どうせ私死ぬしって。そもそも誰とも縁ができてないんでね、切る縁もありません。ドミノの最初の一個を倒すように、笑顔で「さよならー!」って言えるんです。
(伝票をめくってわざわざ確認してから)……ごちそうさまです。お元気で!
店を出た発話者。
はあ、美味しかった。息が詰まるかと思った。
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