自作モノローグ「厨二病★クラブ」
制服を着た「厨二病クラブ」の部長が、部活見学の生徒に声をかける。
ようこそ、「厨二病クラブ」へ!
私がこの牢獄の騎士団長…君たちの世界の言葉でいうなれば「部長」という存在だ。
今日この牢獄の見物をしたいという物好きな生徒は君だね。入部するかどうかは見物を終えた後に決めると良い。
おっと、不思議そうな顔をしているが、ここに所属する他の十傑…君たちの世界の言葉でいうなれば「部員」を一目見れば、ここの魅力がよくわかるだろう。
部長はこれから紹介する部員の特徴を捉えた体勢(架空のモノマネ)で、部員を紹介していく。
No.1 「甘美な最終幻想 -スウィート・ファンタジア- 」
彼女はまさしく、夜のネオンライトに誘われたモンシロチョウ。
補導歴はダントツのナンバーワン。
自校の校章が刻まれた制服を隠すことなく、堂々と自らの武器のように使いこなす様は、屈することのない『ピュア』。多くの男性を虜にし、個室に誘い込み、癒している。
個室では一才不純な行為はせず、『救済』を施しているそうだ。彼女曰く。
No.2 「腐臭の影 -フレグラント・シャドウ- 」
かの有名な「KURO」の香水を纏ったヤンチャボーイ。彼が13日間連続で風呂に入っていないことは誰も気づかない。
風呂キャンセル界隈のトップとして名を轟かせ、キャンセルの日々を綴ったSNSは、彼の自由奔放さに惹かれた人々のリプライで賑やかに彩られている。
授業の邪魔になるからと、彼に香水をやめさせようとしている教師たちは、彼が香りを纏わなくなったらどれほど学びを妨げるか理解をしていない。
No.3 「歪んだ輪廻 -ディストーテッド・リンカーネーション- 」
水曜五限の美術にだけ登校する絵描きは過ちを繰り返し続ける。
もはや救済の余地がないほどに登校日数は足りていないのになぜ学校に来るのか?もしや美術の先生とできてるのではないか?とよからぬ噂も立ち続けたわけだが、絵描きの才能に溢れた作品が仕上がった冬休み前、どの生徒も絵描きに敬意を持った。
だが水曜以外の日は、深い孤独に堕ち、大量のバファリン、イブプロフェンの写真をSNSにあげては「さよなら」と文字を添え、他界を匂わせた投稿をすることでまた新たなありもしない噂を立てられてる。
まさに輪廻!
体勢を元に戻す。
どうだい?興味を持ってくれたかい?
「十傑の他の7名は?」
…まあ、いずれ導かれし者がここに訪れるだろう。まだ今はいない。
おっと、不安そうな顔をしているが、ここに所属をすれば、誰でも素晴らしい個性を持てるんだ。
私の開発したこの薬で、な?
ジップロックに入った粉薬を取り出す。
なかなかいかつい見た目だろう。
この薬を使うと、ただちに神経伝達物質に作用し、感覚の変化が起こる。
交感神経、副交感神経をバグらせ、「気持ちを豊かに感じる生きもの」に変化させる。
そう、君の想像通りだ。
部員のファンタジアも、シャドウも、リンカーネーションも、最初はつまらない、何の希望もない人間だったのだよ。
私が作ったこの薬を投与することで、人生に生きる意味をもたらせたのだ…!
私?私も過去はつまらない人間だったのかと聞きたいのか?
私はこの薬は飲んでいない。
私には必要ないからな。
部活見学の生徒が薬を手にとる。
お、薬を手に取ったな?君も「豊かな心の持ち主」になることを望んでいるのかい?
何もなくすぎていく平凡な日々が苦しくて仕方ないのかい?それならばこの薬を飲むことを勧めよう。
さすれば、君をNo.4として速やかに入部届を出そうではないか!
部長が部活見学の生徒に入部届を渡す。
刹那、部活見学の生徒が、部長の首を絞める。
か……何……放し……
部活見学の生徒が、部長の首から手を離す。
何するんだ、君は、一体、私に、え?は?「あなたの感情を見てみたかった」……?
だからって……え?……ありえない。っふ……。
テーブルにあった水を飲み干す。
なんだ、こんな薬を作っている私が気持ち悪いか?
私だって、最初から望んでいたわけではないさ。
この部活も、この日常も、製造すればするほど自分の魂を削っているかのような気分になるこの粉薬も。
初めてこの薬を作ったのは、まだこの部活ができる前。
その日は、とある計画をしていた。
ファンタジアと、シャドウと、リンカーネーションと…私で、心中するはずだった。
私たちは学年こそバラバラだったが、学校の裏掲示板で互いの姿を確認し、共鳴し、自分の闇を少しでも誰かに認めてほしくてこの空き教室で会うようになった。最初は匿名のため恐る恐るだったが素性を明かし、徐々に会う頻度は増え、毎日会うようになった。
しかしそんなことで心の穴が埋まるわけがなかった。
ファンタジアは……男好きになる前は、男性恐怖症だった。
8年間好きだった幼馴染とやっと付き合えた記念の初夜から次の日、すぐに振られたこと以来。彼と過ごしたベッドの上で、一筋の涙を流した。
シャドウは……風呂に入らなくなる前は、努力家すぎた。
頑張らなくては、頑張らなくてはと念仏のように唱え、寝る暇も惜しんで勉強をしていたが、それが健康状態に悪影響な事に気づけないほど感覚が麻痺していた。頑張ることで、彼の妹の腹が満ちる事はないのに。
リンカーネーションは……自殺を繰り返す前は、堅実的な天才だった。
絵の才能だけでなく自分がどうやったら絵描きになって、どうやったらスポンサーがついて、どんな風に暮らしていけるかライフプランニングまでバッチリだったのに、堅苦しい職業のやつの家族はそれを気味悪がった。意欲は消され、何も夢を語れなくなった。
その穴は他の誰かでは埋まらない。
だからみんなで心中することになったんだ。
私の家に集まって、痛み止めを大量に飲んで、練炭を大量においた風呂場で手を繋ぎながら。
部長は次第に涙を流す。
トリップしていく意識の中……私は年長者として彼らを助けたくなった。
いや、違う。誰よりも先にこの闇を堪えて学校に通っていた年長者として、彼らともう少し一緒に学校生活を共にしてみたくなったんだよ。
私はみんなの手を払った。
練炭にシャワーで水をかけた。
窓を開け放った。
「私がなんとかする、なんとかするから。全部責任を持つから。あなたの闇の責任を!」
部長の涙は大粒になっていく。
君、私の水に薬を入れたね?首を絞めているうちにか……巧妙だな。
こんなに泣いたのは何年ぶりだろうか?いや……生まれて初めてかもしれない。
先生にでも、警察にでも突き出すのかい?何が目的かは知らないが、邪魔をするならどんな手を使ってでも……
少しの間。
部活見学の生徒は入部届を突き返す。
記入欄は見えない。
なぜ……?「僕は君の闇の責任を持ちたい。」?
差し出された部活見学の生徒の手を握り返す。
(部活見学の生徒を見て)気持ち悪い。
部長は微笑む。