ことし(2022年)二度目となる山梨県立美術館への取材訪問。今回は『米倉壽仁展 透明ナ歳月 詩情(ポエジイ)のシュルレアリスム画家』へ足を運びました(本展示会は一部の作品の撮影が可能です)。
シュルレアリスムという言葉は中学時代から美術の時間に耳にしていました。高校時代は美術を自ら選択するほど興味があったので楽しみにしていました。
展示場に入るとまずこの大きなタイトルがお迎えしてくれました。
「透明ナ歳月」とは一体何を指すのでしょうか?
今回はただ絵画を見るのではなく、米倉壽仁の人生やその作品に込められた意図まで読み取ろうと思います。
「透明ナ歳月」というのは米倉が1937年に出版した詩集です。
この絵画はその詩集の一部である「断章」の挿絵の一部になっています。血液が水色で木のつるのようになっているのが不思議に感じられました。
この作品は米倉が東京に移住してから描かれたものです。
すでに日中戦争に突入していた時期で背景の青黒い表現などから世の中とせめぎあっている様子が伺えます。
作品の中央部分に注目してください。
遠くから見ているとわかりづらいが、近くでみると黒いレースが透けているように見えます。まるで生地が今にも動き出してしまうような気がしました。
右が《破局(寂滅の日)》左が《早春》というタイトルには、一見、統一性が見えません。でも、引いて見てみると、まるで2つの絵が一連の流れを持つように見えました。右は陸上にいるのに対し、左は海に浮かんでいる。殻が対称的に描かれていることも、何か理由があるのではないかと思うほどでした。
今回の展示で一番印象に残ったのがこの作品でした。この作品は第五福竜丸事件が起きたことに批判を込めた風刺画です。目を凝らしてみると右上の灰色の部分に人の顔が描かれていて、至るところに人間像が散らばっています。思わず見入ってしまう作品でした。
この作品はとても大きな迫力を感じました。実際に絵のサイズも大きく2メートルくらいあるのではないかと思いました。
この真っ黒で描かれた木々をよく見てみると…
このようにザラザラした質感になっていました。一体どういう技法でこの質感を出したのか気になり、米倉はたくさんの技法を用いているのだなと発見することができました。
最後に紹介するのはこの作品。絵画に文字を入れるという斬新な発想に驚きました。
文字が一つひとつ水彩の墨で描いたようにぼやけています。
作品のすみずみにディテールへのこだわりが散りばめられている。
きっとみなさんも米倉のこだわりをたくさん見つけることができる。自分以外の人がみたら、また違った視点で鑑賞できるのではないか、と感じました。
ー終わりにー
『米倉壽仁展』を訪れて、自分のものを見る視点が変わり、鍛えられたような気がしました。特に一つの作品を同じ場所から見るのではなく、近づいたり離れてみたりすることで新たな発見ができることも知りました。
美術感は視覚だけでなく、五感を使うことができる場所だと発見できた時間になりました。
『米倉壽仁展 透明ナ歳月 詩情(ポエジイ)のシュルレアリスム画家』は2023年1月22日まで開催されています。
取材をさせていただいた山梨県立美術館の関係者のみなさま、ありがとうございました。
写真・文:佐藤結衣(山梨県立大学国際政策学部国際コミュニケーション学科1年)