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風を食べて生きていく
こんにちは!山梨県立美術館で開かれているテオ・ヤンセン展に行ってきました。まず目に入ってきたのは美術館入り口の壁に掲示された大きなポスターに海を背景に映る何やら大きな物体…。一切の予備知識なく展示会を観に行ったので、あまりにも一般的な美術品とは違うその姿にとても驚きました。
テオ・ヤンセンはオランダ出身の、物理学者から画家に転向した人物です。風の力で動く「ストランド・ビースト」の制作を1990年から始め、世界各地で公開しています。アートと化学を融合したその作品から、「現代のレオナルド・ダヴィンチ」とも称されているとか。
プラスチックチューブから生み出された新たな生命体
中に入ってまた驚きました!摩訶不思議な機械のようなものがたくさんあります。
これはヤンセンが生み出した、プラスチックチューブを材料に砂浜で風を受けて動く生命体。オランダ語で風を意味するストランドと生命体を意味するビーストという二つの単語をつないで、ストランドビーストと名付けられました。
ホーリーナンバー(聖なる数字)
展示室に入るとすぐ、この手動で動かす模型がありました。
くるくる取手を回すと、パーツが動いて曲線を描きます。脚のパーツが往復運動や円運動をすることで、生き物のような滑らかな脚先の軌跡を生み出すのですが、これはチューブの長さと位置関係を割り出す13個の基本となる数字を用いています。その数字をホーリーナンバーと呼ぶそうです。
ストランドビーストを形作るもの
壁のたくさんのパネルが掲示されていて、説明を読みながらじっくりみてまわりました。
ビーストを構成する素材は、体を構成するプラスチックチューブやそのチューブを固定する為の結束バンド、動くために必要な空気を体中に巡らせるウレタンチューブ、ビーストの空気を蓄える胃袋の役割やバランスを取ることに使われるペットボトル、そしてチューブの加工に使われるヒートガンや機械といった比較的シンプルなものでした。
ヤンセンはビーストの情報を公開しており、世界中の新たな人たちが新たなビーストを生み出すことでビーストが「繁殖」して、作者亡き後もビーストは生き延びていくと考えているそうです。
ビースト達の1年
ビースト達は春に生まれ、初夏の頃にオランダのスフェベニンゲンの砂浜に現れて、初めて風を受けて命を吹き込まれます。そして夏の間を砂浜で過ごし、ヤンセンはその様子を観察しながら、ビーストがどうすれば生き残れるのか試行錯誤を繰り返します。夏が終わるとボーンヤードと呼ばれる丘の上に連れられて眠り、世界中でテオ・ヤンセン展が開催される時に合わせて目を覚ますんだとか。
オランダにも四季があるので、ビースト達が実際に砂浜で風を食べて活動する時期は、三、四か月と、意外にも長いことに気づきました。外で活動する美術品!なんとも斬新ですよね!
個性のあるストランドビースト
実際にストランドビーストを動かせる体験スペースがありました!一緒に展示会へ行った友人に押されて動くビーストを見てふと疑問が…。
ビーストはなぜ左右にしか動くことが出来ないのか、風向きが変わればビーストも向きが変わるのだろうか、ビーストを片端から押すことでぐるっと円を描くように一周曲がることができるのかと。
ストランドビーストの実演で操作していたスタッフさんが登場し、全ての疑問に答えてくださいました!前に動くビーストもいるそうですが、ホーリーナンバーを使った脚の仕組みが出来てからはカニのような左右に動く仕組みになり、風向きが変わっても動く向きは変わらないそうです。また急カーブのような動きはできず、人力で持ち上げて動かすしかできないそうです。
なるほど!と感心する私に、スタッフさんが興味深いことを教えてくれました。なんとビーストは個性があって右寄りに動く子や左寄りに動く子がいるそうです!これは意図的に設計されたものではなく、ビーストは人手で作られている為にその過程で生まれたチューブの0.5ミリの差や脚先のネイルの大きさの差で個性が生まれるとか。これを聞くと、ビースト達が何だか可愛く思えてきませんか?
こっそりと隠れているハートマーク❤︎
実演ショーを2回見て最後まで残っていた私たちに、実演スタッフさんが隠れミッキーの様なハートを見つけたかい?こっそりと話し掛けてくださいました。それを聞いて私たちは大興奮!そんなものがあったんですか!全く分からなかったです!!と言う私たちをスタッフさんが案内して下さいました。「ここを見て」と指差しされた場所を見てみると、プラスチックチューブに小さなハートマークが!
これもまた意図的に生み出されたものではなく加工の過程で生まれた偶然の産物だそう。このハートマークのあるストランドビーストは、普段は高いところに吊り下げて展示しているため見られないそうですが、今回の展示では低いところで展示しているため見ることができるそうです!
ちなみに上の写真のどれかのビーストにあります。
見つけた方は良いことがあるかもしれないので、ぜひ探してみてくださいね!
文・写真:沈雪(山梨県立大学国際政策学部4年)