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後悔とメストレ@音原田来可

12月5日、最後の通し練習から帰ると電気が止まっていました。やっぱり光熱費は払った方が良いです。スマホもパソコンもカービィボウルしかやってないSwitchも全てバッテリーが切れたし、そもそもWi-FiがOFFになっている時点で為すすべなし。机に焦げ跡が付かない陶器の器にロウソクを立ててIKEAのクマを抱えて寝ました。面倒くさい事は明日考える。グウ。

12月6日、考える朝。1限に出席せにゃならんが時間が分からない。確か炊飯器に時間が表示されていたなと思って覗いてみるも出鱈目な数字。卓上の目覚まし時計からは電池が抜かれている。取り出した3つの腕時計はどれも少しずつ時間が違っていてアテにならない。バックトゥザフューチャーのオープニングみたいだね。君達は頑張っているつもりかも知れないけど、途切れ途切れの電池で積み重なった誤差は大きい。腕時計をしまったのは21年度夏公演。舞台に立ったとき、腕に日焼け跡があると「普段は腕時計を着けている人」になってしまうのが嫌で日常生活から腕時計を排除しました。それに合わせてなんか色々嫌になっちゃったので、僕の家には時計がありません。時計は嫌いです。

タマシウムマシンというドラえもんのひみつ道具をご存知ですか? 過去の自分に戻ることができる道具です。プロポーズ大作戦みたいに。タイムマシンと異なり、同じ時間に自分が2人なんて事は起こりませんし、これは実現可能な道具です。もしこれから起こる全ての選択肢を予測した上で人生を2周目として生きれるのなら、それは過去の改変と見分けがつきません。そして僕は賢い子なので少し先なら未来が見える事に気がつきました。

また、「Wiiリモコンだけ持ち寄って友達の家に集まれるのは結局Wiiがある家の子だけなんだよな」とも気が付く。どうせ負けるからスマブラは嫌い。今だって僕はマリオパーティがやりたい。みんなでSwitch版やろうよ。「数学の点数を競っていたナードな奴、実はミニバス経験者だった。体育で活躍してた。せめてお前くらいこっち側じゃなかったんか」と気がつくのは中学生になってからのこと。

高校の横にある整骨院、なんでもそこの院長がカポエイラの師範もとい“メストレ”であり、昼間の診療後、夜間はカポエイラの道場になるらしい。なんて怪しく魅力的な施設なんでしょう。僕は下校のたびに電車から眺めて気になりながら3年間を終え、長野の大学に来てしまいました。調べど調べどこの地にカポエイラの道場はありません。あのときカポエイラを始めておけば良かった。これが高校生活最大の後悔です。同様にして4年間の大学生活での後悔を振り返ったとき、思い出すのは山脈スタジオでした。あんな大学の端でコソコソと大きな声を出して何をやっているのか、入っておけば良かったなと、嫉妬心に後悔が追いついた所でタマシウムマシンを使い、2周目では無事に入団届けを出すことができました。

とかく大学生という奴はマイナースポーツを始めます。多様に細分化されたサークルの中から自分でも活躍できそうな物を選んでいくからです。しかしながらリアルな話、高校まで野球やサッカーの土俵で努力していた人間には敵いません。かく言う僕も、「競技人口少な過ぎて国体でれるよ」と唆されて入学から2ヶ月ほどはボクシング部にも顔を出していました。階級制のスポーツは穴場です。ただ、僕以外にライト級の新入生がもう1人いて「コイツさえ倒せば俺が長野県代表だ…グヒヒ」と互いに思っているうちに21年度夏公演が忙しくなり、サークル活動を山脈に絞ったため、長野県代表は彼になりました。

こんな僕なので、山脈の2個上のカッケ〜先輩には「直ぐ辞めると思ってた」とか言われました。辞めてないんだな、それが。どうもこの時期は先輩を思い返して、あの時のあの人を超えられているだろうかとか1人ずつ考えてしまいます。役者・演出として関わった公演はコントライブを除いても11公演。本番を迎えられなかった公演もぼちぼちありますが、ヘヴィな経験ができました。2個下3個下に舐められた今の僕のポジションは非常に美味しく、大勢から愛されて幸せ者だなと感じます。ようやくWiiリモコンが手に入りました。ドウモ。

サブカルチャーな僕の長髪も、今回“文部科学省の役員”をやるにあたって25cmくらい切りました。「就活っすか?就活っすか?」とイジってくる可愛い1年生はその都度ヨシヨシしておりますが、この期に及んで役の都合で髪を切れたのは幸いでした。お陰様でずっと体を張って、ずっと狂っていられます。サークルの先輩が引退してフォーマルな髪型になってるなんて、寂しいじゃないですか。僕はそんな冬の季語みたいな物になりたくありません。

相手に寂しさを感じさせない別れ方、帰り方、去り方みたいなものを僕は常々考えていますが、こと劇団山脈に対しては上手く振舞えているんじゃないですかね。また、タマシウムマシンを使用した際、タイムパラドックスが起き、留年してしまいました。1周目の人生では4年で卒業していたのに… そんな訳で来年も実はその辺にいます。ただ、また会う時は腕時計を着けているかも知れません。

卒業後の事は楽観的にポヤポヤと適当に考えています。何処に向かうんでしょうね、僕。もしまた再会したらなにかやりましょう。誰にも知らせず静かに去りますので、1年後に覚えていればメガネを新調して冬公演を観劇し、次の行き先を暗示します。角メガネなら関東、丸メガネなら関西、成田悠輔は名古屋です。

全ての観客と先輩後輩、同期、皆さまありがとうございました。もっとも、山脈に入らなかったとしても、与えられた環境を楽しみ尽くしていたとは思いますがね、僕にはヘラヘラし続ける才能がありますので…


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