ワーク・エンゲージメントを向上させる要因に関する計量分析(令和元年版「労働経済の分析」より)
ワーク・エンゲージメントを向上させる要因に関する計量分析について紹介します。
以下、特記するものを除き、令和元年版労働経済の分析からの引用またはキャプチャーです。
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4 ワーク・エンゲイジメントを向上させる要因に関する計量分析
●計量分析の結果、「個人の資源(心理的資本)」に相当する働く方の主な仕事に対する認識や、「仕事の資源」に相当する企業の雇用管理・人材育成の取組内容といった観点から、いくつかの認識や取組内容について、いずれも逆方向の因果関係がある可能性に留意が必要だが、ワーク・エンゲイジメントを向上させる可能性があることが示唆された
ここまで確認してきたように、働く方の主な仕事に対する認識や、企業の雇用管理・人材育成の取組内容といった観点から、いくつかの認識や取組内容とワーク・エンゲイジメント・スコアとの間には、正の相関がある可能性が予想された。そこで、ここからは、ワーク・エンゲイジメント・スコアに影響を与える可能性のあるいくつかの要因をコントロール変数として考慮しながら、両者の関係性を推定する計量分析を行うことで、ワーク・エンゲイジメント・スコアに影響を与える可能性のある要因を特定していきたい。
そこで、第2-(3)-22図では、ワーク・エンゲイジメント・スコア(0から6の7段階(注1))を被説明変数とし、ワーク・エンゲイジメント・スコアに影響を与える可能性のある要素として、年齢、年収、職種、性別、役職をコントロール変数として考慮しながら、働く方の主な仕事に対する認識や、企業の雇用管理・人材育成の取組内容とワーク・エンゲイジメント・スコアとの関係性を推定する順序ロジット分析(注2)を行っている。
(注1)順序ロジット分析に当たって、被説明変数としては、順序が設定された整数である必要があるため、ここでは、ワーク・エンゲイジメント・スコアを四捨五入し、0から6の7段階の範囲で、数値が大きくなる程、ワーク・エンゲイジメントが高くなるように順序を設定している。
(注2)順序ロジット分析については、脚注45を参照。
脚注45:順序ロジットモデル(ordered logit model)は、被説明変数のとりうる値が連続変数ではなく、数通りの限られた値しかとらない離散変数であり、選択肢が3つ以上、かつ、それらに何らかの順序がある場合に適用するモデルである(山本勲(2015)「実証分析のための計量経済学:正しい手法と結果の読み方」(中央経済社))。
まず、同図の(1)では、調査時点の働く方の主な仕事に対する認識と調査時点のワーク・エンゲイジメント・スコアとの関係性について分析している。計量分析を行うに当たって、説明変数としては、働く方の主な仕事について、「いつも感じる(=5)」「よく感じる(=4)」「時々感じる(=3)」「めったに感じない(=2)」「全く感じない(=1)」とした階級値を用いている。また、説明変数には、仕事の要求度を捉えるため、「労働時間の少なくとも半分以上は、ハイスピードで仕事している」「自身に業務が集中している」といった労働強度に関連する質問項目に対する回答結果を用いた同様の階級値を加えている。さらに、後述する第4節において、より詳細に現状を分析していく「休み方」に関連し、「余暇時間は、仕事からの疲労回復に十分な長さか」といった質問項目に対して、「十分である」「どちらかといえば足りている」を1とするダミー変数を説明変数として加えている。そして、同図の(1)によると、「働きやすさに対して満足している」「自己効力感(仕事への自信)が高い」「仕事の裁量度が高い(仕事を進める手段や方法を自分で選べる)」「仕事を通じて、成長できていると感じる」「仕事遂行に当たっての人間関係が良好」「勤め先企業でのキャリア展望が明確になっている」「職場にロールモデルとなる先輩職員がいる」「労働時間の少なくとも半分以上は、ハイスピードで仕事している」「自身に業務が集中している」「仕事から疲労回復するのに十分な長さの余暇時間がある」とワーク・エンゲイジメント・スコアの間には、統計的有意な正の相関があることが確認された。逆方向の因果関係(注)がある可能性にも留意が必要であるが、前述したJD-Rモデルにおける「個人の資源(心理的資本)」に相当する仕事を通じた成長実感や自己効力感(仕事への自信)等、主な仕事に対するこれらの認識を持つことのできる環境を整備することで、ワーク・エンゲイジメントを向上させることのできる可能性が示唆される。
(注)ワーク・エンゲイジメントの高い者が、主な仕事に対して良い認識を持っている可能性も考えられる。
また、今回の分析結果からは、仕事の要求度に関連した説明変数とワーク・エンゲイジメント・スコアの間には、統計的有意な正の相関があることが確認され、第2節冒頭で述べたように、挑戦的なストレッサーとして、やりがいのある仕事に従事している状態を統計として捉えた可能性や、仕事の資源が豊富にある状況との交互作用の結果として生じている可能性も示唆される。他方、ワーク・エンゲイジメントが高い者に対して、仕事の要求度が高くなっているといった逆方向の因果関係が生じている可能性も考えられるため、仕事の要求度に関する今回の分析結果については、一定の幅をもって解釈する必要があることに留意が必要である。いずれにせよ、仕事の資源が豊富にある状況の中で、働く方が、仕事の要求度を挑戦的なストレッサーとして捉え、やりがいのある仕事として認識できるような環境の整備を推進し、仕事の要求度をワーク・エンゲイジメントの向上につなげていくことが重要だと考えられる。
さらに、今回の分析結果からは、「休み方」に関連する「仕事から疲労回復するのに十分な長さの余暇時間がある」といったダミー変数とワーク・エンゲイジメント・スコアの間には、統計的有意な正の相関があることが確認され、ワーク・エンゲイジメントを向上させるための有効な手段となる可能性が示唆された。こうした結果を踏まえ、我が国におけるリカバリー経験(休み方)をめぐる現状について、第4節において詳細に考察していきたい。
次に、同図の(2)では、調査時点において自社の正社員を対象に実施されている雇用管理と調査時点のワーク・エンゲイジメント・スコアとの関係性について分析している。計量分析を行うに当たって、説明変数としては、様々な雇用管理の取組内容について、正社員に実施されている場合を1とするダミー変数を用いている。同図の(2)によると、「人事評価に関する公正性・納得性の向上」「本人の希望を踏まえた配属、配置転換」「業務遂行に伴う裁量権の拡大」「優秀な人材の抜擢・登用」「いわゆる正社員と限定正社員との間での相互転換の柔軟化」「能力・成果等に見合った昇進や賃金アップ」「労働時間の短縮や働き方の柔軟化」「採用時に職務内容を文書で明確化」「有給休暇の取得促進」「職場の人間関係やコミュニケーションの円滑化」「仕事と育児との両立支援」「仕事と病気治療との両立支援」「育児・介護・病気治療等により離職された方への復職支援」「従業員間の不合理な待遇格差の解消(男女間、正規雇用労働者・非正規雇用労働者間等)」「企業としての中期計画等にワーク・ライフ・バランスに関する目標を盛り込んでいる」とワーク・エンゲイジメント・スコアの間には、統計的有意な正の相関があることが確認された。逆方向の因果関係(注)がある可能性にも留意が必要であるが、前述したJD-Rモデルにおける「仕事の資源」に相当するこれらの雇用管理を推進することで、ワーク・エンゲイジメントを向上させることのできる可能性が示唆される。
(注)ワーク・エンゲイジメントの高い者が、多くの雇用管理が実施されている可能性も考えられる。
なお、ワーク・エンゲイジメント・スコアとの統計的有意な正の相関が確認された雇用管理のうち、仕事との両立支援、いわゆる正社員と限定正社員との間での相互転換の柔軟化、労時時間の短縮や働き方の柔軟化、有給休暇の取得促進などについては、働く方のワーク・ライフ・バランスの推進を通じて、「働きやすさ」の向上にも資する可能性がある。つまり、働く方の「働きがい」を向上させるためには、その前提として、「働きやすさ」を向上させることで、望まない離職や過度な疲労・ストレスの蓄積につながる要因を解消し、就労を望む誰もが働き続けることのできる環境を整備していくことが重要であると考えられる。
最後に、同図の(3)では、調査時点において自社の正社員を対象に実施されている人材育成と調査時点のワーク・エンゲイジメント・スコアとの関係性について分析している。計量分析を行うに当たって、説明変数としては、様々な人材育成の取組内容について、正社員に実施されている場合を1とするダミー変数を用いている。同図の(3)によると、「キャリアコンサルティング等による将来展望の明確化」「指導役や教育係の配置(メンター制度等)」「企業としての人材育成方針・計画の策定」とワーク・エンゲイジメント・スコアの間には、統計的有意な正の相関があることが確認された。逆方向の因果関係(注)がある可能性にも留意が必要であるが、雇用管理と同様に、「仕事の資源」に相当するこれらの人材育成を推進することで、ワーク・エンゲイジメントを向上させることのできる可能性が示唆される。
(注)ワーク・エンゲイジメントの高い者が、多くの人材育成の対象となっている可能性も考えられる。
なお、今回の分析では、「目標管理制度による動機づけ」「フィードバックによる動機づけ」「定期的な面談(個別評価・考課)」については正の値を示しているものの、統計的有意な相関は確認されなかった。そのため、後述において、これらの取組を含めて、いくつかの取組についてより詳細な分析を行うことで、「働きがい」をもって働ける環境の実現に向けた、我が国における課題の所在について、明らかにしていきたい。
以上のように、先行研究にあるJD-Rモデルの考え方を踏まえると、我が国においても、「個人の資源(心理的資本)」に相当する働く方の主な仕事に対する認識や、「仕事の資源」に相当する企業の雇用管理・人材育成の取組内容といった観点から、いくつかの認識や取組内容について、いずれも逆方向の因果関係がある可能性に留意が必要だが、ワーク・エンゲイジメントを向上させる可能性があることが示唆された。
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ワーク・エンゲージメントについては、個人の考え方や企業の雇用管理や人材育成の取組内容との相関関係があることがうかがえます。
個人の考え方の項目は次のとおりです。
「働きやすさに対して満足している」
「自己効力感(仕事への自信)が高い」
「仕事の裁量度が高い(仕事を進める手段や方法を自分で選べる)」
「仕事を通じて、成長できていると感じる」
「仕事遂行に当たっての人間関係が良好」
「勤め先企業でのキャリア展望が明確になっている」
「職場にロールモデルとなる先輩職員がいる」
「労働時間の少なくとも半分以上は、ハイスピードで仕事している」
「自身に業務が集中している」
「仕事から疲労回復するのに十分な長さの余暇時間がある」
雇用管理については次のとおりです。
「人事評価に関する公正性・納得性の向上」
「本人の希望を踏まえた配属、配置転換」
「業務遂行に伴う裁量権の拡大」
「優秀な人材の抜擢・登用」
「いわゆる正社員と限定正社員との間での相互転換の柔軟化」
「能力・成果等に見合った昇進や賃金アップ」
「労働時間の短縮や働き方の柔軟化」
「採用時に職務内容を文書で明確化」
「有給休暇の取得促進」
「職場の人間関係やコミュニケーションの円滑化」
「仕事と育児との両立支援」
「仕事と病気治療との両立支援」
「育児・介護・病気治療等により離職された方への復職支援」
「従業員間の不合理な待遇格差の解消(男女間、正規雇用労働者・非正規雇用労働者間等)」
「企業としての中期計画等にワーク・ライフ・バランスに関する目標を盛り込んでいる」
人材育成については、次のとおりです。
「キャリアコンサルティング等による将来展望の明確化」
「指導役や教育係の配置(メンター制度等)」
「企業としての人材育成方針・計画の策定」
但し、どの項目も逆の因果関係がある可能性があります。
企業の取組、努力だけではコントロールできない、という現実も認識しながら、それでもできることをやり続けるしかありません。
伍魚福は引き続き、ライフ・ワーク・バランスを高める取り組みを継続してまいります。