事業存続が困難であった地域密着型スーパーを、首都圏からの移住者へ承継することで事業継続した企業(中小企業白書2021年度版より)
本日は、「第2部 危機を乗り越える力」「第3章 事業承継を通じた企業の成長・発展とM&Aによる経営資源の有効活用」の続きです。
「第2節 M&Aを通じた経営資源の有効活用」より、今回は「2.M&A実施意向 ③売り手としてのM&A実施意向」より「事業存続が困難であった地域密着型スーパーを、首都圏からの移住者へ承継することで事業継続した企業」の事例について紹介します。
以下、「中小企業白書2021年度版」から引用します(以下特記なければ、画面キャプチャ含めて同じ)。
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事業存続が困難であった地域密着型スーパーを、首都圏からの移住者へ承継することで事業継続した企業
所在地:徳島県海陽町
従業員数:18名
資本金:300万円
事業内容:各種商品小売業
有限会社ショッピング
廃業を検討するも地域のために存続を模索
徳島県海陽町の有限会社ショッピングは、地域密着型のスーパーマーケットを運営する企業である。
1970年に鮮魚を中心とする食料品の移動販売を開始し、1978年には酒販免許付きの土地を購入し店舗型に転換。地域住民へスーパーマーケット形態で飲食料品を販売するとともに、地元飲食店をはじめ、給食センターや介護施設の仕入先となってきたが、後継者がいないことが課題だった。過疎化の進行とともに売上げも年々減少する中、前経営者である大黒彪央会長は60歳になった2017年頃から健康面の不安をきっかけに、廃業も含め事業存続の可否を検討するようになった。しかし、多くの人が頼りにしているスーパーマーケットを廃業すれば、地域の買物の利便性が失われる。大黒会長は地域衰退の加速を懸念し、第三者への事業承継の道を探り始めた。
地域貢献の理念が一致した移住者へ事業譲渡
海陽町商工会や徳島県事業引継ぎ支援センターに事業承継の相談を始めた中、偶然地域の神社に井戸を掘る活動で知り合ったのが現社長の岩崎致弘氏だった。岩崎社長は長年の東京生活の後、夫婦でキャンピングカー暮らしにて全国を旅している中、2017年に海、川、山の自然豊かな海陽町にほれ込んで移住し、山奥で自給自足的な生活を送っていた。農業と食品加工に取り組んでいたが、自然の魅力を多くの人に感じてもらいたいと思い、自然食や総菜の販売店の開業を検討していたところだった。この話を聞いた大黒会長は、岩崎社長に後継者を探していることを打ち明けた。岩崎社長が検討していたビジネスがスーパーマーケットを通じて実現できることと、地域の繁栄に貢献したいという理念の一致が、前経営者・新経営者双方にとって決め手となり、岩崎社長は正式に後継者となった。事業承継を具体的に進めるに当たり、徳島県事業引継ぎ支援センターの全面的なバックアップが得られたことで、5か月という短期間で引継ぎを完了。2020年3月から現体制での経営に移行している。
高付加価値商品の充実により新規顧客や旅行客の需要を獲得
前体制下の従業員8名は全員継続雇用し、更に地元のみならず町外からの移住者なども新たに雇用し、従業員を18名に増やした。料理家による無添加の総菜やすし職人によるすしなど高付加価値商品の充実を図る一方、採算を度外視した廉価品もそろえた。酒類は価格競争に陥らないよう全国的にも珍しいオーガニックワインを中心に据えた。
結果、地元住民の新規顧客や旅行客の来店が増え、平均来店客数が増加した。大黒会長は「第三者承継によって事業を存続できて本当に良かった。岩崎社長には、異業種ビジネスとの協業によって海陽町で働く若者を増やし、町に活気を呼び込んでほしい。」と期待する。岩崎社長は「今後は、高齢者に優しく温かい店にしていくとともに、自社の自然栽培ファームや直営カフェ、自社ブランドの加工品製造販売、ECなどにも取り組み、地域の魅力を再構築していきたい。」と語る。
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地域のインフラとなっている食品スーパーを理念に賛同する第三者が事業承継した、大変ハッピーな事例です。
小売業を取り巻く環境は大きく変わり、昔ながらの単独店がどんどんなくなっています。
都市部では替りの店はいくらでもあるのですが、街に1軒しかない食品スーパーがなくなったとしたら・・・。
伍魚福も「卸通販」というサービスを行っており、全国の小売店さんに酒の肴を提供しています。
スタートした2000年度、地方の酒販店さんから「地域の珍味問屋さんが廃業して困っていた。このようなサービスがあって助かった」というメッセージをいただいたことがあります。
我々も仕事を通じて社会のお役に立つ企業であり続けたいと考えています。