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ワーク・エンゲージメントと労働生産性(令和元年版「労働経済の分析」より)
ワーク・エンゲージメントと労働生産性について紹介します。
以下、特記するものを除き、令和元年版労働経済の分析からの引用またはキャプチャーです。
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●労働生産性に影響を与える可能性のあるいくつかの要因をコントロール変数として考慮しながら計量分析を行った結果、逆方向の因果関係がある可能性にも留意が必要であるが、ワーク・エンゲイジメントを向上させることは、企業の労働生産性の向上につながる可能性が示唆される
引き続き、ワーク・エンゲイジメント・スコアと様々なアウトカムとの関係性について、データで具体的に示していく。ここからは、ワーク・エンゲイジメント・スコアと、仕事のパフォーマンスに関連するものとして、個人の労働生産性、企業の労働生産性、仕事に対する自発性、他の従業員に対する積極的な支援(役割外のパフォーマンス)、顧客満足度との関係性ついて、順次整理していきたい。
第2-(3)-11図は、調査時点から1年前のワーク・エンゲイジメント・スコアと、調査時点の個人の認識から捉えた主観的な労働生産性の向上の度合いをスコア化した値との関係性を整理しており、同図によると、ワーク・エンゲイジメント・スコアと個人の労働生産性には、正の相関があることがうかがえる。
逆方向の因果関係(注)がある可能性にも留意が必要であるが、ワーク・エンゲイジメントを向上させることは、個人の労働生産性の向上につながる可能性が示唆される。また、人手不足企業においても、同様の傾向が確認できる。
(注)労働生産性の高い従業員が、自己効力感や仕事を通じた成長実感などの高まりによって、WEが高い可能性も考えられる。
次に、第2-(3)-12図により、ワーク・エンゲイジメント・スコアと企業の財務諸表等の客観的なデータを活用して算出した企業の労働生産性との関係性を考察していく。
まずは、企業の労働生産性の算出方法について説明していきたい。(独)労働政策研究・研修機構が2019年に調査を実施した「人手不足等をめぐる現状と働き方等に関する調査」では、企業調査票において、常時従業者(注)の人数(年平均)や総実労働時間(年間分)が、正規雇用と非正規雇用に分けて把握することが可能となっており、非正規雇用労働者数を正規雇用者数に換算しつつ、人数と総実労働時間を乗じることで、労働生産性の分母となる労働投入量を算出した。
(注)期限を定めずに、又は、1ヶ月以上の期間を定めて雇用している者。
また、同調査において回答を得た企業の中から、帝国データバンクが把握している企業の財務諸表等のデータと紐付けることのできたサンプルを分析対象として、労働生産性の分子となる付加価値額(注)を算出した。
(注)付加価値額は、「営業利益」「減価償却費」「給与総額」「福利厚生費」「動産・不動産賃借料」「租税公課」を合算している。
以上のように算出したマンアワーベースの企業の労働生産性(2018年平均)と調査時点から1年前のワーク・エンゲイジメント・スコアとの関係性について考察していく(注)。
(注)労働生産性については、GDPデフレーターを用いて実質化している。
なお、今回の分析では、正社員とその勤め先企業を合致させるため、同調査における企業調査票と正社員調査標のデータを紐付けているが、例えば、各々の勤め先企業における標本サンプルとして把握した正社員(注)のワーク・エンゲイジメント・スコアが同水準であったとしても、各々の勤め先企業の従業員に占める正社員の割合に差異があれば、ワーク・エンゲイジメント・スコアが企業の労働生産性へ与える影響にも差異が生じる可能性も考えられるだろう。
(注)企業規模に応じて、1企業当たり5~8枚の正社員調査票を企業に送付し、回答に御協力頂いた。
そこで、通常のワーク・エンゲイジメント・スコアに加えて、勤め先企業における従業員に占める正社員の割合を活用して、ワーク・エンゲイジメント・スコアにウェイト付け(注)を行った値(以下、「加重版」という。)についても、併せて考察していく。
(注)「正規雇用労働者の割合が6割程度」を基準とし、例えば、正規雇用労働者の割合が7割程度である企業に勤める労働者のワーク・エンゲイジメント・スコアについては、1.1を乗じるといった重み付けを行う調整をした。
まず、同図の(1)(2)により、ワーク・エンゲイジメント・スコア(加重版を含む。)と上記のように算出した企業の労働生産性との関係性をみると、両者には、正の相関があることがうかがえる。そこで、企業の労働生産性を被説明変数とする重回帰分析(OLS(Ordinary Least Squares))によって、企業の労働生産性に影響を与える可能性のあるいくつかの要因を
コントロール変数として考慮しながら、両者の関係性を推定する計量分析を行った。
その分析結果を整理した同図の(3)をみると、有形固定資産額(注)、企業の本社のある地域、業種、企業規模、人手不足の状況をコントロール変数として考慮した上で、ワーク・エンゲイジメント・スコア(加重版を含む。)と企業の労働生産性には、統計的有意に正の相関があることが確認され、1単位のワーク・エンゲイジメントのスコアの上昇は、企業の労働生産性を1%~2%程度上昇させる可能性が示唆された。
(注)2016年・2017年の額を平均した有形固定資産額(対数)を用いており、その実質化には総固定資本形成デフレーターを活用している。
さらに、労働生産性の付加価値額を向上させるために、企業が強化してきた取組内容についてもコントロール変数に加えた上で、ワーク・エンゲイジメントと企業の労働生産性との関係性を推定する計量分析を行った。
その分析結果を整理した同図の(4)をみると、有形固定資産額、企業の本社のある地域、業種、企業規模、人手不足の状況、労働生産性に影響を与えるその他の取組内容をコントロール変数として考慮した上で、ワーク・エンゲイジメント・スコアと企業の労働生産性には、統計的有意に正の相関があることが引き続き確認された。
なお、労働生産性に影響を与えるその他の取組内容としては、「営業力・販売力」「技術力」「自社ブランド」「顧客満足度の向上によるリピーター獲得力」「財・サービスの供給能力」「利便性(インターネットを活用した電子取引の強化、出前対応等)」「品揃えやサービスの種類」「イベント・キャンペーンの実施」「優秀な人材の獲得体制(人事部の増強等)」「特許などの知的財産の保有」「新製品・サービスの開発」に関して強化した企業を1とするダミー変数が、統計的有意に正の相関があることが確認された。
以上のように、労働生産性に影響を与える可能性のあるいくつかの要因をコントロール変数として考慮しながら計量分析を行った結果、ワーク・エンゲイジメント・スコアと企業の労働生産性には統計的有意に正の相関があることが確認され、逆方向の因果関係(注)がある可能性にも留意が必要であるが、ワーク・エンゲイジメントを向上させることは、企業の労働生産性の向上につながる可能性が示唆される。
(注)労働生産性の高い企業において、ワーク・エンゲイジメントが高い従業員が在籍している可能性も考えられる。
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ますます専門的に、詳細に分析されています。
統計学をきちんと学んでいない私には、かなり難解ではありますが、ワークエンゲージメントと労働生産性には正の相関がある、ということが読み取れます。
これも、因果関係としては逆である可能性、つまり労働生産性が高いから、ワークエンゲージメントが高いといえる可能性もありますが、改善することでどちらも向上し続ける、良いスパイラルを回すことができる重要な要因ですね。
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