アンケート調査をやってみよう(2)
謝罪と訂正
いきなりですが謝罪です。私が「京成バラ園」と呼んでいたのは、正確には「京成バラ園」の中の施設のひとつ、「ローズガーデン」と呼ばれるものでした。
「京成バラ園」とは、上記の地図の範囲全体を指す呼称で、植物の販売所である「ガーデンセンター(中央②)」やパン屋「サンブレッタ(右下⑦)」など全てを含みます。
わかりやすく例えると、「京成バラ園」とは「東京ディズニーリゾート」、つまりテーマパーク以外の入場無料の飲食・ショッピング施設(イクスピアリなど)も含むもので、「ローズガーデン」が「東京ディズニーランド/東京ディズニーシー」に該当します。
余計わかりづらいですかね…申し訳ありません。
八千代市に越してきて15年ほど経ちますが、恥ずかしながら本日初めて知りました。前回「俺は年パス層だ」などとドヤ顔をしていたのは、まったく恥を晒したとしか言いようがありません。
そういうわけで、今回私が調査票を作成する対象は、正確には「京成バラ園 ローズガーデン」です。たいへん失礼いたしました。
来園者プロフィール調査とは
さて、本題です。今回は「来園者プロフィール調査」を組み立てていきましょう。
来園者プロフィール調査とはその名の通り、来園者のプロフィールを知るためのものです。即ち、来園者がどういった人なのか、年齢や居住地など属性を中心に把握する調査となります。
この調査データを積み重ねると、来園者に占める各属性ごとの割合が判明してきます。例えば年齢軸だと10代が◯%、20代が□%、30代が✖️%…、合計100%、というものです。これに来園者数を掛け合わせると、各年代ごとの来園者人数の推計値を算出することが可能です。
よって、「集客の中心は20代」など、各属性ごとの多数派と少数派を理解できるようになります。さらに長期間繰り返してデータを積み重ねると、変化が見えてきます。「20代が多かったけれど、だんだん30代が伸びてきた」などです。
これらの情報から、どの層の集客を伸ばすのに注力するかといった「集客上のポイント」が見えてきます。
例えば、私がテーマパークで実際に取り組んだ分析では…
①テーマパーク来園者の多数派は「女性」である
②しかし、最近「男性」が伸びてきた。「30代」「40代」が中心
③男性の同行者は「家族」が多い
④従来の「母親と子供」に加えて「父親」が同行するようになってきている
⑤であれば「父親」の存在も意識した集客施策を打つことも考えたい
こんな形でした。ちなみに④がいわゆる「仮説」、⑤が「打ち手」案です。属性の差や変化を見ることで、集客を伸ばすための打ち手が見えてくることをご理解いただけたかと思います。
ここでいう「打ち手」は施策レベルから戦略レベルまで、ケースによって様々です。例えば属性の変化に伴って施設全体の改修を考えるようになれば、もはや戦略レベルと言って過言ではないでしょう。
来園者プロフィールの把握とは、それほど重要性が高いのです。
なお念の為に申し上げますと、本来であればもっとデジタルに全数データが把握できる手法の方が絶対にいいです。マーケティングリサーチは推計値であるため誤差が出ますし、オペレーションを相当綿密に組み立てないと容易く意味のない、むしろ有害なデータ(の形をしたゴミ)と化します。
ただ、後述の項目のいくつかはデジタルに取りにくいこともあり、ある意味で仕方なくマーケティングリサーチという手法を使うもの、とご理解ください。
来園者プロフィール調査の実査
では「京成バラ園 ローズガーデン」の来園者プロフィール調査を組み立ててみましょう。
前提として、実査は来園者が来園したタイミングで行うのがベストです。来園後ですと体験満足度により回収傾向に偏りが出る可能性があります。すごく満足した、あるいはすごく不満だったという人ばかりが回答し、まったく感情が動かず「ツマンネ」みたいな感想の方に回答を控えられてしまう…かもしれません。
個人的経験ですが、アンケート結果を使う側、つまり事業の意思決定層からそのように見られてしまったこともあります。最初から色眼鏡で見られてしまい説得力が落ちると、意思決定のための調査なのに意思決定に使えないことになってしまいますので、そのような要素はできるだけ排除したいところです。
もちろん、来園したタイミングで実査してもバイアスはかかります。経験上、来園頻度が低い人ほどアンケートに非協力的です。
ただ、このこと自体は来園後のアンケートでも少なからず発生しますので、来園者プロフィール調査において最もバイアスがかからないタイミングは来園時である、とお考えいただければと存じます。
なお、京成バラ園 ローズガーデンなら、以下の場所での実査が相応しいでしょう。
これらの場所で調査票を渡し、書いてもらってから入園していただければベストですね。
とはいえ来園したタイミングで実査するのはなかなかにコストがかかるやり方ですので、理想は上記の通りですが、現実解はいろいろあると思います。
来園者プロフィール調査の設問概要
設問を考えていきましょう。
ポイントはベタですが5W1Hです。
When:日時
→朝昼夜、あるいは季節ごとの見どころのヒントになる。天候要素も入る
Who:本人の性別、年齢と同行者について
→嗜好が紐づくことが多く、ターゲット像やペルソナの超基本である
→同行者は体験コンテンツを決める大きな要因になる
Where:居住地
→コミュニケーション施策を実施する地域に関わる
What:来園の目的
→目当てとしていた体験を把握することで施策評価の参考になる
Why:来園のきっかけ、理由
→広告などの接点を把握することで広告評価の参考になる
→カテゴリーエントリーポイントのヒントになる
How:交通手段、チケットなど
→コミュニケーション手段や価格施策などに関わる
How many:来園頻度
→嗜好が紐づくことが多く、来園促進策のヒントになる
Hが2つあるとか来園の目的やきっかけはプロフィールではないなど突っ込みをいただきそうですが、語呂優先の目安ということでご勘弁ください(汗)。
これら個々の項目について深堀します。
1.来園日時
これは解説不要でしょう。
来園者ではなく運営側が記録・管理する数字です。あえて言えば分単位の記録が必要かは判断事項かと思います。
2.性別
近年では、ご存知の通り非常にデリケートな項目となりました。
以前は「男性・女性」のみでしたが、最近は「わからない」「どちらでもない」「答えたくない」などを選択肢に入れたり、「生物学的な性」と「性自認」を分けて取得する、などがポピュラーなやり方かと思います。
なお、調査会社のパネルを活用して実施する調査では、ウエイトバックを考えて後者をお勧めしています。
3.年齢
こちらもデリケートな項目です。対面でストレートに年齢を尋ねるのはハードル高いですよね。ちなみに前々職のテーマパークでは最後に聴取する項目でした。明らかに鯖を読まれて、最後の最後でその調査票一枚が全部無駄になる、などもありましたね…。
自由回答で取得できればよいですが、結局は集計のときに5歳刻みや10歳刻みにまとめることが多いので、そのような形で選択肢化してもほぼ問題ありません。
4.同行者
この項目は、(1)同行形態(2)同行者性年齢(3)同行者人数、に分かれます。
これらは先述のとおり、施設内での行動を大きく左右する項目です。小さな子供を抱えているときと大人同士で来園したときでは、体験内容が異なることは容易に想像できると思います。
(1)同行形態
あなたと一緒に来園した人は誰か、という設問です。
これは同行者ひとりひとりについて聞くのではなく、あなたを含むグループはどんな関係ですか、という意味合いになります(こう書くと警戒感を煽る内容になりますね…)。
ローズガーデンを見てみますと、目につくのはご夫婦(特に年配の方)、子連れファミリー、カップル、友人といった方々です。ひとりで来園されている方もいらっしゃいますね。カメラを抱えて撮影されています。
撮影といえば、コスプレのようなことをされているモデルとカメラマンと思しきペアやグループも多いです。京成バラ園側で何度もイベントを積み重ねた成果でしょうか、近年目に見えて増加しているのがこの層です。仕事仲間と分類すべきでしょうか。
なお、同行形態は来園時と退園時に変わっている場合がありまして…カップルで来園していたはずなのに帰りには、などです…、それを考えても来園時の取得がベストと思う次第です。ちなみに私は某テーマパークにおける経験者です。
(2)同行者性年齢
その同行者の性別・年齢を聴取する設問ですが、同行者ひとりひとりを聴取する必要はまずありません(場合によるかもしれません。必要なケースがありましたらぜひ教えてください)。そもそも同行形態でグループとして聴取しているので不可能ですよね。
ここでは前述の「施設内の行動」を左右しそうなケースのみ聴取することが多いです。例えばファミリー来園の方に、同行者のいちばん年少の方、あるいは高齢の方の年齢を伺うなどが考えられます。
ただ、京成バラ園のアンケートに必要かと言われるとどうでしょうか。個人的には重要度低と判断します。
(3)同行者人数
ご自身を含む同行グループの人数です。
見落としがちですが、これはアトラクションやレストランのあるテーマパークには必須の項目と思います。アトラクションでいちどに乗れる人数を何人までにするか、あるいはレストランのテーブル席を何人用にするかなど、施設開発にダイレクトに影響してくるからです。
極端な話、ひとりで来園される方が多い施設ならカウンター席を大量に用意するのが合理的となります。
なお、これは分析上の注意点ですが、同行者人数を扱う際に代表値に平均値を使っては絶対にいけません。必ず最頻値と、同行者人数ごとの分布を使いましょう。同行者人数の多数派が2人と4人ならば2人向けと4人向けの施設が必要であり、平均して3人向けの施設をつくるのは完全な誤りです。
5.居住地
ポピュラーなのは都道府県別ですが、京成バラ園のように明らかに近隣住民の集客が多そうな施設では市区町村別が良いと思います。地場のスーパーなど商圏の把握がより死活問題になるケースでは、もっと細かいレベルで把握しているかもしれません。ただ細かくすればするほど個人情報に近づき、回答率が下がりますので市区町村ぐらいがいいかな、というのが実感です。
逆にインバウンドが多い場合は国別の把握が必須になるでしょう。
6.来園の目的
「来園の目的」は、大きく分けて二種類あります。施設のコンテンツと、来園者側の事情です。京成バラ園であれば、前者は「バラを見に来た」、後者は「デート」などが該当します。
前者と後者が混ざると分析上の使い勝手が悪くなりますので、この項目では前者に限って取得し、後者は次項「来園のきっかけ・理由」にて聴取することにします。
来園目的を取得することで集客を後押しした施設・コンテンツがわかりますので、なるべく細かい粒度で把握したい。しかし、あまりに細かくしすぎると回答者が答え切れません。ちょうど良い粒度を探りましょう。
京成バラ園 ローズガーデンならば…
言わずと知れたバラ。綺麗ですね。目的のひとつは「バラ」。これは絶対に外せません。
しかし、私の親戚のガチ勢から教えてもらったのですが、バラにはとんでもない数の種類があるそうです。こちらにはなんと4万種!と書いてありまして、ローズガーデン内でも1600品種10000株とオフィシャルホームページに記載があります。
ここで「バラ」とひとまとめにするのがいいのか、それともバラの種類ごと(おそらく個別の種類の他に、大分類や小分類といったものもあるでしょう)に記載するか。これが粒度です。
ガチ勢であるほど細かい粒度で目的が発生しますので、集客効果をしっかり把握するためにはその方向で選択肢をつくる必要があります。
ただ、今回の例ではさすがに「バラ」でいいと思います。
そして、実はバラ以外にも色とりどり、季節により豊富な植物が顔を見せてくれます。
「紫陽花」は梅雨の時期を中心に、「紅葉」は秋を中心に機能する選択肢でしょう。
その他にもいろいろあります。
季節限定イベントについては、オフィシャルホームページにも記載があります。
これらは集客要素として機能するものでしょうから選択肢化します。「アトラクション」「季節限定のイベント(ハーベスト ローズガーデン)」「季節限定のアトラクション」ぐらいの粒度、あるいは「季節限定のコンテンツ」ぐらいまとめてもいいかもしれません。
目的が「ない」こともあります。例えば同行者に付き合っているだけ、というケースです。忘れずに加えておきましょう。
なお、この項目は来園者プロフィール調査ではなく満足度調査で取得した方が良いのでは、とお考えの方もいらっしゃると思います。
おっしゃる通りなのですが、来園目的を事後に取得してしまうと、体験したものの満足度によって変わってしまうことを懸念しています。もともとAを目当てに来園したが、Bの満足度が高かったため、アンケート回答時には来園目的がいつの間にかBにすり替わっていた、などです。
バイアスを避けるためにも、来園時に取得するのが望ましいと考えています。
一点、分析の際の注意点があります。それは、来園目的の割合の高低と、そのときの集客の好調・不調とは分けて考えなければならない、ということです。
例えば集客が不調のときに来園目的がひとつに集中していたら、それはその目的でニッチ化している可能性があります。集客そのものを押し上げる効果は低く、マニアにしか訴求しなかったということです。ですので、来園目的だけで集客効果を測定してはいけません。来園者数実績を中心に、認知度調査などを組み合わせて行いましょう。
このあたりは「分析のコツ」として、どこかでまとめたいですね。
7.来園のきっかけ、理由
厳密には「きっかけ」と「理由」は異なるものです。前者はCMだったりSNSだったり、はたまた友人から声をかけられたり。後者は前述の「デート」や、人によっては「記念日」などでしょう。ローズガーデンではたまに結婚式をやっているのも見かけます。
私の場合だと「散歩」が多いです。「気分転換」もあるかな。
よって「きっかけ」は広告などの接点となるものを中心に選択肢化、「理由」は…ちょっと観察していても判別できないので、できれば満足度調査などである程度の回答を集めてから選択肢を考えたいですね。
「きっかけ」「理由」は設問を分けても、同一設問でも良いでしょう(きっかけと理由、どちらに入るか区別が難しいものもありますし)。選択肢数が少なくて済むなら「目的」「きっかけ」「理由」全てを同一設問にしても良いです…が、分析が大変になるのであまりお勧めしません。
今回はいったん、わかりやすさ優先で分割してみます。
「目的」同様、「きっかけ」「理由」も、取り立てて思い当たるものはないことがよくあります。「ない」という選択肢を用意してもよいですが、もう少し消費者の解像度を上げると気の利いたものが思い浮かびますので、前述の通り、インタビュー調査や自由回答を大量に集めるなどをしておくと良いでしょう。「きっかけ」には「突然思い立って」ということがありますし、「理由」には「同行者の付き合い(で仕方なく)」などがあります。
8.交通手段
これは選択肢が限られるもので「自家用車」「バス」「タクシー」「電車」「自転車」「徒歩」ぐらいでしょうか。ただ、公共交通機関は利用区間に注意しましょう。バスでも自宅から最寄り駅まで乗ったのと、八千代市内のバス停から京成バラ園まで乗ってきたのでは意味合いが異なります。
9.チケット
一般チケットと年間パスポートがあります。かつて小学生は無料だったのですが、最近は有料(といっても200〜500円)になっていますね。
あとは「当日券」と「前売り」や、前売り券を買った場所などが選択肢になり得ます。東葉高速鉄道ではピークシーズンになると前売りチケットを販売していますね。
京成バラ園 ローズガーデンは季節によりチケット価格を変えていますので、来園者のうち年間パスポートを除外して分析する、などは必須のアプローチでしょうね。
10.来園頻度
これは「いつから数えて何回か」を決めるのがポイントです。生涯来園回数、今日から数えて過去一年、今年になってから、季節イベント実施中…など様々です。
それぞれ意義が異なりますが、基本的に対前年比や対前年同月比でマーケティングすることを考えると「過去一年」を使うのがよいと思います。例えば、去年に比べて今年は「過去一年で初めて」層が増えた/減った…などは戦略に直結してきます(一部例外はありますが、新規とリピーターのバランスをどう取るかはビジネス全般の普遍的な課題でしょう)。
来園者プロフィール調査の調査票案
これらの項目を並べ替え、実際に調査票としてみます。
設問の順番を決めるときに気をつけたのは、以下の三点です。
・答えやすい項目から答えにくい項目へ(事実→意識など)
・性質の似ている項目はなるべく塊にして
・時系列を意識して
結果、以下の通り来園者プロフィール調査の調査票「素案」といたしました。
なお、性別と性自認に関する設問は、大手調査会社のインテージ様が以下の記事で発表されたものを使わせていただきました。
迷ったポイントはいくつかありますが、ざっと以下の通りです。
・性別/年齢の聴取場所
→最初でもいいかもしれない
・きっかけ/理由/目的へのシングルアンサー設問追加
→それぞれ最大のものの選択。わかりやすくはなる
・きっかけ/理由の峻別
→たまたま近くに寄った、同行者に誘われてなどはどちらにも入り得る
叩き台とはいえ、思ったよりだいぶボリューミーになってしまいました。
満足度調査などに回せそうなものは削除し、オペレーションに耐えうる内容にしていきたいですね。
次回予告など
それでは次回、その「来園者満足度調査」をお送りします。
基本的には、体験実態とその内容を聴取していくものになります。何を考えてどんな項目にしていくか、引き続き楽しみにしてくださいね。
なお、トップ/サムネイルの画像はChatGPTによる「京成バラ園での来園者プロフィール調査のイメージ」です。思ったより近いのができました。さすがChatGPT。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?