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深夜特急、途中下車 #0

もう20年以上前。大学生の頃、リュックを背負って海外をウロウロしていた。そのときの話。

自分の人生には「スペシャルな何か」が起きると思っていた

自分は他の人とはちょっと違った存在で、だからこそ自分の人生にはスペシャルな何かが起きるはず。その「何か」をまわりのみんなは「すごいね」と言ってくれて、「いや〜、たいしたことないよ」と返す。そんな人生になるはずだ、と僕は思っていた。これを厨二病と言うのか、なんと言うのか、いま思えばちょっとやれやれな少年だったと思う。

高校を卒業し、一夜漬けのような状態で挑んだ大学受験に失敗し、僕は浪人生になった。大学生でもなく、かといって働くでもない浪人生という肩書きは、きっとこのあと訪れるであろう「スペシャルな何か」の伏線になっているのではないか?とやれやれな僕は心のどこかで思っていた。

1年間それなりに勉強し、翌年志望校に合格した。浪人していたこともあって、それはそれはエキサイティングで、スリリングで、カラフルなキャンパスライフが始まると思っていた。

大学1年生の夏休み。僕は大阪梅田の家電量販店で品出しバイトに明け暮れていた。エキサイティングで、スリリングなことは何も起きなかった。カラフルでもなくモノクロな毎日だった。いま思い返すとそれは当たり前で、「何か」に出会うための行動(努力)を何もしていなかったからだ。起きたことといえば、当時はまだ現役だったビデオテープ(懐かしい)を店頭に並べていたときに高く積み上げすぎて、主任に「お前さ、倒れたらどうすんだ!あぶないだろ!お客様の目線が足りないんだよ」と怒られたことくらいか。あれはちょっとスリリングだった。

その後、部活やサークルにも入っていなかった僕のキャンパスライフは、さらさらと流れていく。キツイことやツライことはなかったけれど、薄い味付けというか、スパイスが足りない感じだった。

「ぜんぜんスペシャルじゃない。やばい。このままじゃなんかやばい」。
大学1年生の僕は、焦り始めていた。

とはいえ、何をやればスペシャルな日々が始まるのかもわからない。とりあえず、いろいろやってみようと、バイトを変え、一眼レフを買い、「趣味で写真はじめたんだ」と言ってみたがぜんぜん味変されない。

大学2年にあがるころ。両親が「結婚⚫︎年目」か何かで、海外旅行に出かけた。タイミングを同じくして、兄(カメラマン)も海外に撮影旅行に出かけた。偶然にも、どちらも行き先はタイだった。

土産話を聞いていると、タイは熱気があって楽しかったという。気候的に暑いのはもちろん、経済成長している側面がありつつ、適当さとか怪しさがミックスされて、「ちょっと普通じゃない感」があっておもしろそうだった。

当時の僕は、椎名誠さんの「わしらは怪しい探検隊」で旅のドタバタにニヤニヤし、下川裕治さんの本で貧乏旅行の様子を知り、沢木耕太郎さんの深夜特急に憧れていた。そういうのも手伝って、「外国に行けばスペシャルな何かに出会えるかもしれない」と短絡的に思考が直結したのだった。

単純な僕はタイを目指すことにした。外国に行けば、薄味の毎日に確変が起こる。2000年の僕はそう思っていた。

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