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深夜特急、途中下車 #1(タイ編)
もう20年以上前。大学生の頃、リュックを背負って海外をウロウロしていた。そのときの話。
チケット探し
自分の人生には「スペシャルな何かが起きる」と思っていた僕は、その「何か」に出会うために海外に行くことを決める。目的地はタイ。両親や兄が近いタイミングでたまたまタイに行っていて、ポジティブな評判を聞いていたからだ。
どこに行くかを決めたので、次は手段の確保。個人旅行と団体旅行という分け方が適切かわからないけれど、このふたつがあるとするならば、そのときの僕は個人旅行を選んだ。
「行きと帰りのチケットだけを買い、あとのモロモロは現地で」という感じ。これだけで深夜特急な感じがする。そんなミーハーな自己満足を抱えながら、大阪梅田にある代理店へ向かった。
その代理店は、「北米」「南米」「ヨーロッパ」「東南アジア」「中央アジア」といった具合でエリアごとにカウンターが分かれていたと思う。「東南アジア」のカウンターで自分の順番を待つ。
「お待たせしました。どのようなご用件で?」
「バンコク行きのチケットが欲しくて」
「航空会社のご希望はありますか?」
「特にないのですが、安い方がうれしいです」
確かこんなやりとりを経て、僕はタイ航空のチケットを手に入れた。期間は10日間。大阪の関空〜バンコクのドンムアン空港の往復。価格は確か5万円ちょっとだったと思う。
個人的にテンションがあがったのは、夜遅い便であること。これだけで「ちょっと普通じゃない感」がする。到着が現地時間の深夜というのもたまらない。これだけでミーハー心をくすぐってくる。
何をしようか
バンコク行きのチケットは手に入れたけれど、現地で何をするかは決まっていなかった。いろいろと予定を入れて、スケジュールをこなすばかりになるのはイヤだった。初めての街を、初めての道を、自分の意思と自分の足で、ウロウロしてみる。それでいいじゃないか。なので、特に大きな目的は置かず、行ってみてから現地で考えようと思った。
大学2年生の夏休み。出発まであと2週間くらいというときに、大学の友人から連絡が来た。頼みたいことがあるという。
大阪の梅田で待ち合わせ、喫茶店に入ると友人は言った。
「この前タイに行ってきたんだけどさ、お前も行くんだよね?」
「うん、もうすぐ出発」
「じゃあさ、申し訳ないんだけど、おつかい頼んでも良い?」
聞くと、バンコクで現地の女の子と知り合い、仲良くなったという。彼女にプレゼントを買ったから渡してきて欲しいと言うのだ。
「OK、わかった。その子はどこにいるの?」
「えーとね、バンコク」
「広いな。他に情報は?」
「メールアドレスと携帯番号はあるよ。写真はない」
2000年の当時はいまと違ってスマホはない。ガラケーの時代。Google Mapもなければ翻訳アプリもない。手がかりが少なかったけど、引き受けることにした。彼女のメールアドレスと携帯番号、そして友人から彼女へのプレゼントを預かった僕は、帰りの電車のなかで「知らない街で人探しか•••これはこれでおもしろいかも」と思った。
宿はどうする
バンコクには深夜に到着する。朝まで空港ですごすか。それとも空港近くでホテルを探すか。どうしようかな、と思っていたときに兄が言った。
「ここ、俺も泊まったけど静かで良かったぞ。
泊まるところ決めてないなら、行ってみたら?」
自分がバンコクに行ったときに使ったゲストハウスを教えてくれたのだ。兄がくれたお店のカードには「TAVEE GUESTHOUSE」の文字。ヨーロピアンが多く泊まっていて、静かで清潔な宿だったという。
チケットを手に入れ、やることも、泊まる宿も決まり、あとは出発を待つだけとなった。