AIドリルは必要か、、

先日、約20年前に卒業した教え子たちと会う機会がありました。みんないい大人になっていて嬉しく思いました。親になっている子も多く、気分はおじいちゃんです。ほっこり癒されました笑

そんな中、小学生の子どもがいる教え子が「先生、うちの子の夏休みの宿題がAIドリルだけだったんですが、そんなことがあるのでしょうか?手で書いたりするのは大事ではないでしょうか?」と言っていました。「まさか、教え子と子どもの教育の話をする日が来ようとは」と、時の流れを感じました。

場が場なのでそんな話ばかり長くする感じではありませんでしたが、子どもが学校に通い始めるとそういった悩みが増えるものです。ましてや今、教育は大きな転換点にあってこれまでになかったことが次々に導入されています。貴重な保護者の声です。

そんなこともあって、少し整理をしておこうと思います。
まず、私の結論ですが、『AIドリルは補完的ツールとして慎重に活用し、教師の専門性と手書き学習を重視した指導を維持すべきである。』と考えています。理由を少し説明します。

AIドリルは補完的ツールとして慎重に活用し、教師の専門性と手書き学習を重視した指導を維持すべきである理由は以下の通りです。

1.AIドリルのメリット

AIドリルのメリットとしては、個別の学習進度に応じた問題提供即時のフィードバック学習履歴の詳細な記録と分析が可能な点が挙げられます。これにより、基礎的な知識やスキルの習得を効率的に行えます。特に、反復練習が必要な分野では有効です。

2.AIドリルのデメリット

一方、デメリットとしては、手書きの機会減少による文字形成や筆順習得への影響、具体物操作を通じた概念形成の機会減少対話的な学びの減少、創造性や表現力の育成機会の制限などがあります。特に低学年では、これらの要素が重要な発達段階にあるため、AIドリルの過度な使用は望ましくありません。

さらに、AIドリルでは捉えきれない思考プロセスや、つまずきの本質的な原因を教師が把握しにくくなる可能性があります。教師の専門性に基づく観察、形成的評価、個別指導は、子どもの深い理解と総合的な学力形成に不可欠です。

例えば、算数における筆算のつまずき指導について考えてみましょう。AIドリルは誤答を検出し、類似の問題を提供することはできますが、つまずきの根本的な原因を特定することは困難です。教師の観察と指導が重要な場面として、以下のようなケースが挙げられます:

  1. 繰り下がりの誤解: 児童が「43-25=22」と解答した場合、AIドリルは単に不正解と判定するだけですが、教師は子どもたちの筆算過程を確認し、3から5を引く際に繰り下がりを行わず、単に5-3=2としている誤りを発見できます。具体物を使って十の位から1を借りる概念を視覚的に説明し、理解を深めることができます。

  2. 桁数の異なる数の引き算での誤り: 「103-25=82」と解答した子どもがいた場合、、その子は100の位をそのまま書き写し、10の位と1の位だけで引き算を行っています。この誤りから、3桁の数から2桁の数を引く際の処理に困難を感じていることを理解できます。

  • 数の構成についての理解を深めるため、100を1つの百と0個の十と0個の一に分解して考えることを教える。

  • 具体物(例:百の位はブロック100個、十の位は10個のブロック、一の位は1個のブロック)を使って、103から25を引く過程を視覚的に示す。

  • 繰り下がりの概念を丁寧に説明し、100から10を借りて93-25とすることを理解させる。

このような個別指導を通じて、教師は子どもたちの思考プロセスを把握し、つまずきの根本原因に対応した適切な支援を提供することができます。これは、AIドリルだけでは難しい、教師の専門性を活かした重要な指導例です。

他にも筆算の位をそろえて書くことが苦手な子に対し、マス目のある用紙の使用や色分けによる位の識別といった個別の支援方法を試したり、計算はできてもその意味を十分に理解していない子に対しては、具体物を用いた説明や日常生活と結びつけた例示を通じて概念的理解を深める指導を行ったりができます。

このように、教師の専門性に基づく観察と指導は、AIドリルでは代替できない重要な役割を果たします。子どもたちの表情や筆記過程つぶやきなどから、つまずきの本質を把握し、個々の理解度に応じた適切な支援を提供することができるのです。

したがって、AIドリルは基礎的なスキル習得の補助ツールとして活用しつつ、教師の専門性を活かした指導や、手書きを含む多様な学習活動を重視すべきです。特に低学年では、手書きや具体物操作、対話的な学びなど、従来の学習方法とのバランスを慎重に取る必要があります。

3.働き方改革としてのAIドリル?

働き方改革としてAIドリルを推進する考え方での導入は間違いだと思っています。子どもの学力形成は教師の本質的な仕事であり、それをAIに任せきりにすることは教育の質を損なう可能性があります。AIドリルによる採点や問題提供の自動化は、教師の業務効率化に寄与する面はありますが、それは副次的な効果に過ぎません。

重要なのは、AIドリルの活用により生まれた時間を、子どもの学びをより深く見取り、個々に適した指導や支援を行うために活用することです。教師には、AIドリルでは代替できない、子どもの思考プロセスの理解つまずきの本質的な原因の特定適切な指導方略の立案と実施学習意欲の喚起や情緒的サポートなど、専門性を活かした役割があります。

したがって、AIドリルの導入を単なる業務効率化や働き方改革の手段として捉えるのではなく、より質の高い教育を実現するためのツールとして位置づけ、教師の専門性と適切に組み合わせて活用することが重要です。AIドリルと教師の役割を適切に組み合わせることで、真の意味での個別最適な学びと学力向上を実現することができるのです。

なーんてことを親になった教え子と話しながら考えたのでしたー

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