【トランプ再選】トランプ政権を生み出したアメリカとは
In the aftermath of 2024 election results, Americans are rightfully worried about what a second Trump administration may bring.
訳:2024年の選挙の結果、当然ながらアメリカ人は2回目のトランプ政権が何を持ち込もうとしているのか不安になっている。(Jon StewartのWeekly Showより)
【解説】
トランプ氏の大統領選挙での勝因を分析しようと誰もがやっきになっています。
前回、なぜ人々がトランプ氏を支持するのかというテーマについてまとめてみました。では、その延長線に立って、今回の選挙を少し大きな視点から見つめてみましょう。
トランプ氏の勝利が伝えられたとき、日本の証券市場では迷い箸の現象がおきました。迷い箸とは、鍋をつつくときにどの具をとろうか箸を持ったままもたつくことをいいます。つまり、この結果をどのように捉え、それが経済にどう影響するのか逡巡したのです。しかし、その後株価は元に戻し、アメリカの市場が堅調に上昇を続けたことで、日本側も気を取り直したかのように、右肩上がりとなりました。今回の結果に多くの投資家は影響されていないか、安心したかということになります。そして、世界中が、彼の今後の行動が読めないだけに、この迷い箸の現象に陥っています。
民主党が一期だけで共和党の大統領に変わった事例で、トランプ氏の現象とよく似ているのは、イランでのアメリカ大使館人質事件の解決に戸惑ったジミー・カーター政権が、ベトナム戦争での後遺症から脱却し、強いアメリカの再生をと訴えたロナルド・レーガン氏に敗れたケースでした。当時アメリカはベトナム戦争に躓き、その勢いが失速し、同時に都市部では犯罪などによる混乱が続いていました。そんなアメリカを再生するという強いビジョンに、多くの人が同調したのです。
ただ、当時レーガン氏は社会混乱の理由を移民には向けませんでした。
そこには共和党と民主党の、あるいは若い世代と第二次世界大戦を経験した世代との確執はありました。さらに、公民権が制定されて間もないこともあって、人種間の対立も確かにありました。しかし、少なくともメキシコからの移民を標的にして、アメリカを排他的に作り直そうという動きはありませんでした。むしろレーガン政権の時代は、アメリカのナショナリズムは高揚したものの、新移民と呼ばれたアジアや中南米からの移民が、社会を活性化させる原動力になっていました。
しかし、今回の選挙では明らかにそうした伝統的なアメリカの移民へのあり方に待ったがかかったのです。ですから、カマラ・ハリスを支持した人は、本来アメリカがもっていた包容力を失うことに強い危機感を抱いたのです。彼女の政策やカリスマ性に疑問を持つ人は多くいたものの、トランプ氏が大統領になることだけはストップしたいという引き算の原理で現職の副大統領を支持していた人も多くいたのです。
ここで、今回の選挙結果を人類の歴史のうねりというさらに巨視的な視野で見つめてみます。
人類は数千年にわたって人口が増えるに従って、新たな土地を求めて移動し、その過程で富を奪いあい、先に獲得した豊かさを後発の人々が奪うことで、攻防を繰り返してきました。そんな人類にとって最後の空き地が新大陸でした。500年前にヨーロッパの人々が新大陸に移住をはじめて以来、アメリカは先住民よりもはるかに多くの移住者を受け入れ、それによって国家ができ、さらにその国家も流入する移民の力によって豊かになり、超大国にまで成長しました。
アメリカがすでに開拓する場所はないとフロンティアの終息宣言をしたのは1890年のことでした。それ以来アメリカは海外市場に向けてその影響力を行使することで、富を築いてきたのです。従って、フロンティアがなくなったあとも、富の築けるアメリカには、世界から移民が流れ込んできました。アメリカという国家の栄養源は、そうした海外からの人々が常に切磋琢磨して社会を発展させることにあったわけです。これは、日本やヨーロッパなど、すでに忘れ去られた過去に移民の流入を経験した社会との大きな違いです。
しかし、今アメリカは、500年間にわたる伝統であった移民によって得る栄養はすでに必要なくなったと思う人が増えたのでしょう。ヨーロッパなどでおきている反移民活動と同調できるまでに、アメリカ社会が円熟してしまったと感じる人が増えたのかもしれません。
とはいえ、アメリカ社会は今でもハングリーな移民がいなくなれば、社会を動かす労働力そのものが得られない仕組みになっています。豊かになった人は自ら自分の庭の芝生を刈らないのです。この芝生を刈る人を標的にして、彼らによって伝統的なアメリカの価値が奪われると訴えたのがトランプ氏でした。
そして彼が当選したことの本質はというと、アメリカという新大陸が、500年経過してすでに新大陸ではなくなったことを内外に示したことになります。もっといえば、人類にとって何かおきたときに逃げ込める新たな土地がこれでなくなり、地球から文字通りフロンティアが消滅したことをトランプ氏は内外に示したことになります。その上で、アメリカはアメリカのやり方で社会を作るのだということを「アメリカファースト」というスローガンに盛り込んだのです。
選挙に勝利したトランプ氏は、自らの主張を押し通す強力なブレーンによって今までにはない強い政権運営を行うと宣言しました。
それに対して、例えばネットメディアで政治評論をするジョン・ストゥワート氏などは、アメリカ社会には民主主義を守ろうとするガードレールがあり、それを踏み越えることはできないといいます。だから、トランプ氏が大統領になったとしても、戦前にドイツにおきたような危険な右傾化は、そのガードレールによって守られるべきだと語ります。
ただ、ここで気になるのが、アメリカが巨大な国という事実です。
世界の状況などにまったく興味のない人々が広大な国土の中に拡散し、彼らが統計や科学的事実をフェイクニュースとして、トランプ氏の振りかざす星条旗の元に集まりました。このパワーの源泉は紛れもなく、キリスト教社会を主軸にした白人男性集団の本音にあります。このパワーがこれからどこに向かうかは、確かに世界が注視しなければならない重要な課題です。 トランプ政権が再び誕生した背景はこのように分析することは可能です。
それを行った上で一ついえることは、ただアメリカに追随する日本の姿勢が本当に大丈夫なのかという問題です。トランプ政権の今後が読みにくいだけに、風見鶏を決め込むのは大きなリスクといえそうです。