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SNSと生成AIのコラボが生み出す未来への脅威とは
Bluesky's goal was to find or develop an open and decentralized standard for social media that would give users more control over their data and experience.
訳: Bluesky(ブルースカイ)の目標は、ユーザーが自分のデータや経験をより一層自分でコントロールできるような、オープンで分散化されたソーシャルメディアのありかたを求めて、それを開発することだった。(ウィキペディアより--一部編集)
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アメリカでトランプ政権が発足し、そこでイーロンマスクが活躍しているなかで、ソーシャルメディア(SNS)の世界に一つの現象がおきています。
まず、イーロンマスクが買収した元Twitter のXから、マスク氏の政策に反対する人々が離れ、新たに登場したBlueskyへと移動をはじめたことです。現在2,700万人のユーザーがBlueskyを利用していて、その数は増加を続けているようです。
Blueskyは元々Twitterの共同創業者であったジャック・ドーシー氏が開発したソーシャルメディアで、運営会社の意図を反映しにくい自由度の高いメディアとして登場しました。Xがトランプ政権のお抱えメディアになるのではと思った人々が、Blueskyで以前のTwitterと同じようにつぶやきをはじめたわけです。
今、世界でソーシャルメディアのあり方が問われ、オーストラリアなどでは子供の使用が禁止されるなど、偏った情報への配慮が話題になっていることは周知の事実です。そんなソーシャルメディアのあり方への新たなアプローチとして、複数のサーバーを使用して、ソーシャルメディアが中央集権型になることを防ぎ、ユーザーの権利や個人情報を守り、自由な言論活動をサポートしようとしているのがBlueskyの特徴です。
Xがより一層イーロンマスクという個人の意向を反映するメディアになったことへのアンチテーゼがそこにあります。
ここで、100年前のメディアについて考えてみましょう。
20世紀前半に最もメディアを活用した政治家はアドルフ・ヒトラーに他なりません。彼は、権力を握ると第一次世界大戦で敗北したドイツを第三帝国として復活させるために、マスメディアを統制して、ドイツ国民を洗脳していきました。その結果、ファシズムがヨーロッパを闊歩し、ユダヤ人の虐殺や第二次世界大戦の引き金になったことは歴史の授業でも学んだはずです。
そして21世紀になって、メディアのあり方は大きく変化しました。巨大なマスメディアがコマーシャリズムの波を起こし、広告産業などと一体となって大衆の嗜好を操作していると多くの人が批判する中で、人々はテレビや新聞を離れ、より自由に情報を発信し、入手できるソーシャルメディアへと傾斜していったのです。
しかし、ソーチャルメディアはあくまでも自らの趣向や政治的スタンスに従って情報を獲得し、交換する自発的なメディアです。
言い換えれば、自分から何か発信したり特定の情報を自発的に入手したりしないかぎり、相手は反応してこないのがその特徴で、テレビのスイッチをいれれば自動的にニュースが流れてくる受け身型で一方方向のメディアではないのです。
ソーシャルメディアは、ヒトラーのようにメディアで情報の洪水を起こして人々を洗脳する力はありません。逆に自らが好みの情報をどんどん追いかけることで、気付けばその人が、自分の好みの情報に囲まれてゆく形で、自主的な洗脳に埋没してゆくわけです。従って、ソーシャルメディアの世界では、ヒトラーが起こしたような全体主義への傾斜はないのではという人がいます。その代わり、自主的な洗脳によって、反対者を受け入れないことで、社会が分断してゆく可能性は大きいのではないでしょうか。
その中で、一つの懸念があります。アメリカでは中国で作られた新しい生成AIの DeepSeek が話題になっていると、今日本のメディアが頻繁に取り上げています。そして DeepSeek とアメリカの生成AIとを比較して、アメリカの生成AIはより客観的に問いかけに回答してくれると評価しています。
先日、あるテレビのワイドショウで、 DeepSeek に尖閣諸島について問い合わせた結果が紹介されていました。DeepSeek では、「尖閣諸島は中国固有の領土で今日本が不法に占拠している」と回答してきたところ、アメリカのオープンAIでは、「尖閣諸島は日本の領土だが、中国と台湾が領有権を主張している」と回答してきたことをそのワイドショウで紹介し、アメリカの生成AIのほうがより正確であると評論されていました。
実は、生成AIにしてもソーシャルメディアでの情報収集にしても、こうした比較こそが最も危険な行為なのです。より客観的で正しい答えは、「尖閣列島は台湾と中国と日本が領有権を主張している島嶼(とうしょ)で、現在は日本が領有している」ということになるはずです。
政治的なスタンスはともあれ、一見アメリカの生成AIの回答が正しいように思えるのは、我々が日本人で、かつアメリカが日本と同様の民主主義国であることから、生成AIが集める情報がここで紹介したようなものになった結果に過ぎないのです。
ここで明らかなことは、現在の情報は往々にして受け手と送り手の双方向の作用によって偏りがちになりうるという事実です。そして、この偏りがちな事実の操作を我々はごく自然に受け入れてしまうことに、現在のメディアが抱える隠れた脅威が潜んでいることになります。ということは、ソーシャルメディアであってもヒトラーの時代と同様に、我々は常に情報のしかける罠にはまる傾向にあることを改めて意識する必要があるのです。
ここでもう一つの事例を紹介します。
先日、韓国の友人が、日本ではどうして韓国の政権が「共に民主党」になると反日感情が高まるリスクがあると思っているのかわからないとこぼしていたのです。我々は、現在弾劾され政治生命が危ぶまれている尹大統領が所属する「国民の力」が親日政権で、それ以前の「共に民主党」の文政権が反日であったことと、過去の政治的な経緯とが交錯して、今後の日韓関係に懸念を抱くわけです。
しかも、ソーシャルメディアに加え、他のオープンAIからもそうした懸念が正しいと伝えてくれます。加えて、テレビなどに出席しているコメンテーターや評論家も、同様の意見を吹聴しています。このように、日本国内で懸念がより激しく煽られている状況こそが危険だと、友人は指摘しているのです。
このことは一つのことを意味しています。生成AIは、一定方向の情報が多く氾濫すると、それをピックアップしてしまうために、世論の形成を常に客観的に正しく導いているとは保証できないということです。それでいて、現在多くの人は生成AIの回答を鵜呑みにする傾向があることには注意喚起が必要です。何かのきっかけで、一定方向の情報だけが世間に氾濫したとき、人々が生成AIとソーシャルメディアとの相乗作用で、とんでもない方向に世論が導かれる可能性が残されていることになります。分断を生み出すだけではなく、世間に溢れる情報を正しい情報であるかのように形成してゆくことが、機械という意識のないマシンであれば、躊躇なくできるからです。
我々は、21世紀におきている社会の分断が、人類が生み出した新しいAI等の技術での作用と反作用によって、破壊的な未来を創造する一つの流れに収斂しないよう気を付けなければなりません。ソーシャルメディアと生成AIとの活用方法への教育を、慎重に進めてゆく必要がありそうです。